JR九州相談役・唐池恒二氏がクルーズトレイン「ななつ星」に込めた思い

JR九州が手掛ける日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、第1回「日本サービス大賞」内閣総理大臣賞を受賞するなど、一躍脚光を浴びました。その「ななつ星」をはじめ、これまで数々のヒットを生み出し、同社を上場へと導いてこられた唐池恒二氏(当時会長)に「ななつ星」の誕生秘話、込めた思いを語っていただきました。※記事は『致知』2017年9月号掲載当時のものです。

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「ななつ星」に込めた思い

<唐池>
「ななつ星」の計画を進めるに当たり、最初に「世界一の豪華寝台列車をつくる」というビジョンを打ち出しました。

──ああ、世界一。

<唐池>
ネーミングは、九州7県を巡り、それぞれの県の魅力を世界に発信し、星のように輝かせたい。

そういう思いを込めて、「ななつ星in九州」と名づけました。

車両のデザインに関しては水戸岡鋭治さんという偉大なデザイナーに依頼しました。

いま流行りの将棋・藤井四段の言葉を借りると、水戸岡さんとの出逢いはまさに「僥倖」です。

水戸岡さんも職人さんも、「世界一」ということにものすごく興奮して、自分の持っている技術のすべてを投入してくれました。

水戸岡さんがとことん悩んで書いた図面を見ながら、職人さんが1ミリたりとも違わないようにありったけの手間暇をかけてつくってくれたんです。

サービスについても、「ななつ星」が運行するまでの1年間をかけて、乗務員たちがいろんな研修をしながら、「ななつ星のサービスとは何か」ということを突き詰めていきました。で、生まれたのが「ななつ星」のサービスは寄り添うサービス、ということです。

──寄り添うサービス。

<唐池>
お客様と乗務員、サービスをされる側とする側、という対立した図式ではなく、また、マニュアルでもない。

「ななつ星」は3泊4日ずっと行動をともにするので、マニュアルとか表面的なサービスでは見抜かれてしまう。

だから、我われはお客様の家族の一員、友達の一人、パートナーの一員になり、全人格でぶつかって旅のお手伝いをしようと。

当初、客室にタブレットやインターホンを設置するという案がありましたけど、すべてフェイス・トゥ・フェイスで2メートル以内に近づいてコミュニケーションを取り、アンチデジタル、人間的なサービスに徹することにしました。

だから、「ななつ星」には気が満ち溢れているんです。

──つくり手の様々な思いが込められていると。

<唐池>
「ななつ星」は2013年10月15日に運行を開始したんですけど、私が驚いたのは、最初の3泊4日の旅で延べ10万人もの方が駅や線路沿いから「ななつ星」に手を振ってくれたことです。

──10万人とはすごい数ですね。

<唐池>
福岡県うきは市では、筑後川にかかる鉄橋の河原に集まって、「ななつ星」を歓迎しようと自主的に企画してくれました。

私はその話を運行前日に聞いたものですから、普通ならあっという間に通り過ぎちゃうところを、ゆっくり走ってくれとお願いしたんですね。

で、当日は177人が初めて目にする「ななつ星」を見上げて、思い思いの形で手を振ったり旗を振ってくれたわけですが、何とその半分の人が泣いていたんです。

さらにもう半分の人は号泣している。私はこんなことがあるのかと思いました。

──実に感動的なお話です。

<唐池>
きっと「ななつ星」に満ち溢れた気が「ななつ星」を見た人に乗り移って、感動というエネルギーに変わったのでしょうね。


(本記事は月刊『致知』2017年9月号 インタビュー「事業は閃きである」より一部抜粋・編集したものです)

~本記事の内容~
◆原点は誠実さ
◆誇りと自信を持つ
◆読書を通じて学んだこと
◆挨拶一つで職場は変わる
◆気を満ち溢れさせる4条件
◆「ななつ星」発想の原点
◆「ななつ星」に込めた思い
◆リーダーに必須の3つの力

日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」をはじめ、これまで数々のヒットを生み出し、JR九州を上場へと導いてこられた当時の唐池恒二会長に、これまでの道のりとともによいアイデアを閃く秘訣について伺いました。【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

 


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◇唐池恒二(からいけ・こうじ)
昭和28年大阪府生まれ。52年京都大学法学部卒業後、日本国有鉄道(国鉄)入社。62年国鉄分割民営化に伴い、九州旅客鉄道(JR九州)総務部勤労課副長。外食事業部長、経営企画部長、2度のJR九州フードサービス社長などを経て、平成21年社長に就任。26年より現職。著書に『鉄客商売』(PHP研究所)などがある。

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