【取材手記】ドラマ『エンジェルフライト』のモデルが説き明かす〝幸せな人生を送るヒント〟

~本記事は月刊誌『致知』2024年11月号 特集「命をみつめて生きる」に掲載のインタビュー(「人のために尽くす——それが私の選ばれた道」)の取材手記です~

米倉涼子主演ドラマ『エンジェルフライト』のモデルの素顔

連日猛暑日が続いていた9月4日(水)。羽田空港貨物ターミナル内にオフィスを構えるエアハース・インターナショナルを訪ねると、木村利惠さんは笑顔で私たちを迎えてくださいました。

木村さんは海外で亡くなった日本人の遺体を国内に搬送し、遺族の元に送り届ける国際霊柩送還のプロフェッショナル集団〈エアハース・インターナショナル〉社を専門業者として国内で初めて立ち上げたパイオニアです。昨年(2023年)、Amazonオリジナルドラマとして世界で配信され、各界で話題となった米倉涼子さん主演のドラマ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』のモデルにもなりました。

溌剌とした佇まい、歯に衣着せぬ語り口調、溢れんばかりのバイタリティー……、「まるで米倉涼子さんが画面から飛び出してきたようだ」。木村さんにお会いした印象は、まさにそのひと言に尽きます。

米倉涼子さんは「利惠さんが命を懸けている国際霊柩送還の仕事を100%以上振り絞ってやりたい」と、所作や話し方の節々に至るまで、木村さんに似せて演じられたと言います。その俳優魂に心震わされると同時に、それほど人を惹きつける木村さんの人柄、人徳の賜物であると感じずにはいられませんでした。

木村さんは取材の中でこうおっしゃっていました。

「私は嘘つきや体裁、上辺だけの付き合いが大っ嫌いなんです。だから人に媚びないし、威張らない」

この言葉通り、ご自身の体験談、活動に懸ける思いを赤裸々に語ってくださる姿から、世界中の関係各者に「ママ」「姉さん」と慕われる所以を肌で実感しました。

木村利惠(きむら・りえ)
1961年東京都生まれ。勤務先の葬儀社で国際霊柩送還業を学ぶ。2003年日本初の国際霊柩送還専門会社となるアムズコーポレーション(現:エアハース・インターナショナル)を設立。2012年エアハース・インターナショナルを題材とした佐々涼子氏のノンフィクション『エンジェルフライト:国際霊柩送還士』(集英社)が出版され、開高健ノンフィクション賞を受賞。年間平均250体ほどの遺体・遺骨の送還に携わっている。

死を扱うということは、生を扱うということ

国際霊柩送還とは、海外で亡くなった日本人のご遺体やご遺骨を日本に搬送、また日本で亡くなった外国人のご遺体やご遺骨を祖国に送り届ける仕事です。木村さん率いるエアハース・インターナショナルでは、年間平均250体ほどのご遺体・ご遺骨の送還に携わっています。

必要書類の作成や行政届出書類の翻訳、搬送状況の管理など、ご遺体の搬送に必要な手続きを一括して行う傍ら、国際霊柩送還士として最も大切な仕事が「ご遺族の心のケアに徹すること」だと、木村さんは言います。

〈木村〉
何より欠かせないのが、ご遺族の心の支えになること。ご遺族は最愛の人の訃報を突然聞かされ、ギリギリの精神状態に陥っています。だから毎晩毎晩電話を掛けては、「ちゃんとご飯食べなきゃダメよ」「泣きたかったら泣けばいい」と寄り添い続ける。要は、親戚のおばちゃんになっちゃうわけ(笑)。

そうやって自然体で接していると安心するのか、次第に笑顔を取り戻し、亡くなったご家族の話をしてくれるようになる。ご遺体が搬送される頃には、「お帰り」と出迎える心の準備が整うんです。

また、海外から搬送されてきたご遺体は体液漏れを起こしていたり、解剖によって全身傷だらけになっていたりするケースが後を絶ちません。そこで、エアハース・インターナショナルではご遺体の処置にも手を尽くされています。

〈木村〉
無残な姿のままではご遺族がトラウマになってしまうし、腐敗臭も半端ではない。笑顔で最期の花道を飾れるよう、当社では必要資格を有する技術者がご遺体を隅から隅まで確認し、ご機嫌の悪い部位を処置していきます。

パスポートの写真を頼りに、灰色に変色した顔にはファンデーションを乗せ、青ざめた唇に紅を差し、抜け落ちたまつげの代わりにつけまつげを着ける。目や耳を損傷している場合は、専用の固形物質を使用して修復を施し、できる限り生前の穏やかな表情に戻します。そうして清潔なお召し物にお着替えいただき、納棺するのです。

この作業を2時間ほど、損傷の酷いご遺体は一日かけて行い、ご遺族の元に送還する。これが、国際霊柩送還士の仕事です。ご遺体の処置というよりは、帰国のお手伝いという気持ちで何千人という方々を送り届けてきました。

ご遺体の搬送に必要な各種手続きのみならず、ご遺族の心のケアやご遺体の処置にも力を注ぐ国際霊柩送還士。「死を扱うということは、生を扱うということ」という言葉が印象的でした。

しかしながら、最近では自社の利益に目が眩み、法令違反やご遺族に必要のない費用を請求する、国際霊柩送還を謳う紛い物の業者が増えていると言います。木村さんはそうした業界の現状を憂い、続けてこうおっしゃっています。

〈木村〉
心底腹が立ちますよ。私は嘘つきや体裁が大っ嫌いなんです。だから人に媚びないし、威張らない。それはご遺体に対しても同じで、当社の設立から20余年、たとえ大企業の経営者だろうが、一般の旅行者だろうが、公平に請け負ってきました。

誠実に、嘘偽りなく正直な仕事を粛々とやる。そうして信頼を積み重ねてきたことが、ここまで続けられている要因なのかもしれません。

日本における国際霊柩送還業のパイオニアとして、亡くなった方の尊厳とご遺族の思いに寄り続けている木村さん。なぜ、木村さんは強固な信念の元、よりよい国際霊柩送還のあり方を追求し続けているのでしょうか。その背景には、大家族で育った幼少期、誰もやりたがらない仕事に名乗りを上げた経験、葬祭業界の現場で直面した利益至上主義の現実がありました――本記事では全5ページにわたって、一つひとつのエピソードを詳らかに紹介しています。

↓インタビュー内容はこちら!
◇誠意を尽くして寄り添うことが本当のグリーフワーク
◇ご遺体の処置ではなく帰国のお手伝い
◇誰もやりたがらない仕事に価値を見出す
◇日本初となる国際霊柩送還業の専門会社を立ち上げて
◇しっかり悲しむことは死を受け入れること
◇国際霊柩送還の現場で掴んだ「人生で一番大事なもの」

その人が歩いた生き方は顔に出る

道なき道を切り拓いてきた木村さんの体験談はどれも必見です。中でも、何千人というご遺体をご遺族に送り届けてきた木村さんが、最も心に残る仕事として語られたエピソードには、木村さんが人の生死をみつめる中で掴まれた独自の死生観、幸せな人生を送るヒントが凝縮されています。その全貌は、ぜひ本誌をお読みください。

最後に、木村さんの人生信条が窺える金言をご紹介します。

人を騙したり、嘘をついたり、人生において己の利益しか考えられないような人は、表情を見れば分かる。その人が歩いた生き方は顔に出るんですよ。

人によって態度を変えず、自分の利益を度外視して、人のために尽くしていく。正直に自分の信念を貫き、お天道様に恥じない人生を全うすることが、何より大切なのではないでしょうか。

正直に生きる。それがお天道様に恥じない生き方である――含蓄に富んだ教えです。

▼『致知』2024年11月号 特集「命をみつめて生きる」
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