「がっかりさせないでちょうだい」——ポーラ初の女性社長・及川美紀さんを目覚めさせたオーナーのひと言

「B.A」「リンクルショット」といった化粧品ブランドを多数手掛け、2029年には創業100周年を迎えるポーラ。新卒からポーラ一筋に歩み、2020年同社初の女性社長に抜擢された及川美紀さんに、リーダーとしての原点となった昇任試験でのエピソードを伺いました。

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昇任試験に落ちて気づいたこと

──キャリアを重ねる中で特に転機となった出来事はありますか。

〈及川〉
それは間違いなく、30代半ばで挑戦した管理職の昇任試験です。当時は出向から10数年が経ち、子育てに奔走しながら仕事に打ち込んでいたこともあって、私が誰よりも頑張っているという自負がありました。俗にいう〝お山の大将〟になっていたんですね。

ただ、邪な気持ちを見透かされていたのでしょう。一次審査の論文で呆気なく落とされました。その日を境に、これだけ苦労してきたのにどうして分かってくれないんだと、自暴自棄に陥りました。

──大きな挫折を経験された。

〈及川〉
いまでこそ自分のおこがましさが原因だと分かりますけど、あの頃は「本社にいないと目に留まらないんだ」と他に責任を押しつけていました。上司に楯突き、会議では横柄な態度で居座る。身勝手にやさぐれていったんです。

そんな折、かねて懇意にさせていただいていたオーナーから呼び出され、こう叱責されました。

「私たちが期待していた及川さんはどこにいったの。これ以上、がっかりさせないでちょうだい」

そのひと言で、ハッと我に返りました。一所懸命仕事するうちに近視眼的になり、いつしか自分だけが努力しているという幻想に駆られていた。自分の愚かさにようやく気づくことができたんです。

──オーナーの叱責が、自らを顧みるきっかけになったのですね。

〈及川〉
その後、上司に「やっと分かった? 及川さんは課長になって何がやりたいの」と問われたのですが、即答できませんでした。

私が目指すビジョンって何だろうか。自問自答を重ねた末にお腹の底から出てきたのは、未熟な私を育ててくれたこの組織を一流にしたいという思いでした。「じゃあ一流とはなんだろう」という自分への問いが生まれて、自ずと毎日の行動も変わっていきました。

──考え抜いた末に、進むべき方向が明確になった。

〈及川〉
読書一つ取っても、それまでは化粧品関連の本や雑誌しか読んでいなかったけれど、チームマネジメントやリーダーシップに関するビジネス書を読み漁るようになりました。上司への提案は一流の組織になるという目的から逆算して、そのための具体策を提示する。目線が変わって仕事を続けていたら、翌年の課長昇任試験は難なく合格し、埼玉エリアのマネージャーにも抜擢されたんです。

私が恵まれていたのは、やさぐれている間も見捨てずに温かく見守ってくれたり、苦言を呈してくれたりする指導者が周りにいたことです。

エリアを任されて以降も、本社の本部長は「中途半端な成果で人を褒めるな」「リーダーが無理と決めてしまったら、部下の可能性を潰すことになる」など、事ある毎に発破を掛けてくれました。

人の可能性を信じ抜き、力を発揮するまで辛抱強く待ち続ける。先輩方の背中を通して、リーダーとしてのあり方を学んだんです。


(本記事は月刊『致知』2024年10月号 連載「第一線で活躍する女性」より一部抜粋・編集したものです)

本記事では他にも、「化粧品会社ではなく人づくりの会社」「コロナ禍の危機から見えてきた永続企業への道」「人は誰しも無限の可能性を秘めている」をはじめ、ポーラ一筋に歩んできた及川さんの体験談をご紹介しています。幾多の逆境を乗り越えてきた及川さんの歩みには、経営理念を浸透させ、社員の可能性を最大限引き出し、幸せな経営に導く秘訣が凝縮されています。【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

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◇ 及川美紀(おいかわ・みき)
昭和44年宮城県生まれ。平成3年東京女子大学文理学部英米文学科卒業後、ポーラ化粧品本舗(現・ポーラ)に入社。埼玉エリアマネジャー、商品企画部長を経て、26年取締役兼商品企画・宣伝・美容研究・デザイン研究担当商品企画部長。令和2年より現職。共著に『幸せなチームが結果を出す』(日経BP)がある。

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