「社員は会社の命である」——アサヒグループHD会長・小路明善が語るリーダーの要諦

アサヒビールを中核会社として、飲料・食品で多種多様なブランドを展開するアサヒグループホールディングス。2016年から同社の舵取り役を担い、卓越したリーダーシップで過去最高の売上高へと導いたのが、小路明善氏です。氏はどのような思いで経営に臨んできたのでしょうか。アサヒビール社長として道を切り拓いていた2015年に弊誌で実現した五苑マルシングループ創業者・川辺清氏との対談から、経営者として原点となったエピソード、リーダーとしての要諦をご紹介します。

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社員は会社の命である

〈小路〉
川辺社長が社員の方をとても大事にしていらっしゃることに感銘を受けまして、私は「社員は会社の命である」というのを社長方針の一つに掲げているんです。

社員は経営資源の一つみたいな、いわゆる人材という見方をしてはなりません。ですから大切に育てていくし、当社の仕事を通じて社員一人ひとりの人生や家族の生活、将来設計における夢を実現するようにアシストしていかなければならないと考えているんです。

〈川辺〉
そういう社長方針を出される会社は珍しいでしょうね。 

〈小路〉
結局人がものをつくっているわけですから、やっぱり人が命ですよね。ここに原点を置いて会社経営をしないと、やっぱり会社の価値は上がっていきません。

もちろん業績目標は達成しなければなりませんが、社長の最も重要な使命は、自分の会社の事業価値をどう上げるかということです。それによって社員にも還元できるし、喜びを感じてもらえます。単に売り上げと利益が高いだけで社員はその会社に満足を得るものではないと思うんですね。トップが社員をどう思って経営しているか。ここが社員には最も関心の高いところじゃないかと私は思います。

〈川辺〉
おっしゃるとおりやと思います。

〈小路〉
社員には常々言うんですが、能力を高めるなんてことはしなくていいと。私は、成果=能力×努力だと考えていましてね。だから、例えば話す能力が10、理解力が10、折衝力が10あったとしても、努力をしなかったら3つで30の成果しか出ないよと。ところが、それぞれの能力が5であっても、そこで10の努力をした成果は50ずつになって、合計150になるわけですね。

ですから大事なことは、自分のできる最高の努力をどれだけ続けられるかだと思うんですよ。

〈川辺〉
全く同感です。

〈小路〉
昔何かの本に将棋の羽生名人の話が出ていて、1日5時間×365日×10年、将棋の練習を続けたら、たいていの人はプロになれるとおっしゃっていました。それをやり抜くことが努力なんですね。

だから私も例えば営業マンに、お得意先を1日20件×営業日数×10年訪問し続けてみなさいと。仕事が立て込んだ時はハッピーコール、つまり名刺を置いてくるだけでもいいと。とにかく1日20件の訪問を10年間続ければ、自然に能力って高まっていくんです。

〈川辺〉
確かに、能力とはそういうもんです。

〈小路〉
よくチャレンジしろ、挑戦しろとかいわれますけど、私はそういうことはあまり言わないんです。人間って落ち込む時もありますから、そんな時に挑戦しろと言ってもなかなか難しい。それよりも、目標を諦めた者が負けだと。諦めないということは、落ち込んだ人間でもできるんですよ。

その諦めないというのは、例えばもう仕事が嫌だなと思っても、お得意先を一日二十件訪問し続けること。諦めないという気持ちさえ強く持ち続けていれば、必ず目標は実現する。私どものビール業界でも、本当に厳しい闘いをやっていますけども、これも諦めさえしなければ勝者になれると。これが私の信念なんです。

社員にどんな背中を見せられるか

〈小路〉
私は川辺社長みたいに本当の逆境を体験したことはありません。あえて挙げるなら、昭和55年から平成元年まで労働組合の仕事への専従を命じられたことが、私のビジネス人生の大きな転機になったと言えます。

ちょうど会社が非常に厳しい頃で、希望退職をやったんですね。大勢の肩たたきをやって、自分は何のためにこの会社に入り、何のために生きているのか、分からなくなってしまったんです。

その時に辞めていただいた方の言葉が、いまだに心に残っていましてね。声なき声を聞いてくれと。主張の強い人間の言うことばかりでなく、多くを語らずとも地道に会社のために努力している人間の声もしっかり聞く組織、人間になってほしいと言われたんです。それが先ほどもお話しした、社員は会社の命であるとか、落ちこぼれをつくらないといういまの私の仕事観のもとになっているんです。

〈川辺〉
その時は随分辛い思いもされたでしょうね。

〈小路〉
悩んでいる時によく読んだ本にデール・カーネギーの『道は開ける』や『人を動かす』があります。厳しい状況をどう乗り越えていけばいいのかということを教えられました。たくさん赤線を引いて、ボロボロになるまで読み返したんですけど、例えばここなんかも随分力づけられましたね。

「自分の荷物がどんなに重くても、日暮れまでなら、だれでも運ぶことができる。自分の仕事がどんなにつらくても、1日なら、だれでもできる。太陽が没するまでなら、だれでも快活に、辛抱強く、親切に、貞淑に生きられる。そして、これこそが人生の秘訣そのものだ」

これは端的に言うと、努力ということですね。やっぱり懸命に壁を乗り越えようとしていればこそ、こういう言葉もグッと響くんでしょうね。

〈川辺〉
そういうものでしょうね。

〈小路〉
それから、私はお得意先の社長さんに随分恵まれてましたね。また、労働組合の仕事をしていた時の委員長にも非常に刺激を受けました。その人は、労働組合の運動方針なんて書かなくていいと。それよりも人間がどう生きていくのかということのほうが大事だとおっしゃって、「人間の条件への旅立ち」というタイトルで運動方針をつくったことがあったんです。ちょうど希望退職をやって悩んでいた時で、目が開かれるような思いをしましたね。

それ以外にも、一緒に組合活動をやってきた泉谷ですとか、あるいは一緒にアサヒ飲料に転籍して仕事をした荻田といった先輩方にもいろんな刺激をもらいました。

この方々に学んだことは、ものをどうつくるかというよりも、人間としてどう生きるかということが大事だということです。どんな偉そうなことを言ったって、経営者は共鳴と感動を与える背中を見せられなければ、社員はついてきません。その点泉谷にも荻田にも、ビジネスマンとして、また人間として立派な背中を見せてもらいました。その背中を見て私は育ってきたといえます。


(本記事は月刊『致知』20158月号 特集「力闘向上」より一部抜粋・編集したものです)

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◇ 小路明善(こうじ・あきよし)
昭和26年長野県生まれ。50年アサヒビール入社。東京支社特約店営業部長などを経て、平成13年執行役員として経営戦略、人事戦略等を担当。23年アサヒビール社長に就任。28年アサヒグループホールディングス社長を経て、令和3年より現職。

◇川辺清(かわべ・きよし)
昭和13年大阪府生まれ。3歳の時に小児麻痺を患い、不幸な青少年時代を過ごすが、それを克服して靴職人として独立。さらに外食産業にも進出。焼き肉店をはじめ様々な業態の店舗を全国で200店以上運営。著書に『清、負けたらあかん』(致知出版社)がある。

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