【編集長取材手記】髙田明さんがいま最も注目するiPS細胞研究所のエースと語り合った「成功と失敗の法則」

~本記事は月刊『致知』2024年9月号 特集「貫くものを」掲載の対談(iPS細胞を活用したがん治療で夢の医療を実現する)の取材手記です~

山中先生のノーベル賞受賞から12年

「まだ一人の患者さんも救っていない」

これはiPS細胞の作製に世界で初めて成功した山中伸弥先生がノーベル生理学・医学賞を受賞した際、記者会見で語られた有名な言葉です。

あれから12年、名だたる大学や企業で競い合うように研究や治験が進められ、iPS細胞の技術が医療に実用化される日は確実に近づいています。

その中でいま注目を集めているのが、京都大学iPS細胞研究所の金子新研究室とパナソニックが共同開発している「MyT-Server」プロジェクト。

「MyT-Server」とは、iPS細胞から作製したT細胞(免疫細胞)を活用してがん細胞を死滅させる画期的ながん免疫再生治療法で、その個別治療用T細胞の製造工程を簡便な操作で実行できる小型自動培養装置のこと。現在、試作機を制作しており、2025年の大阪万博までに完成させ、世間にお披露目することを目標に日々取り組んでいるといいます。

ジャパネットたかた創業者で、京都大学iPS細胞研究財団アドバイザーを務める髙田明さんを聞き役に立て、プロジェクトの現状と今後の可能性、物事を成就する秘訣、これまでの研究人生を貫いてきたものについて迫っていただきました。

月刊『致知』最新号(2024年9月号特集「貫くものを」)に金子新さんと髙田明さんの対談記事が掲載されています。テーマは「iPS細胞を活用したがん治療で夢の医療を実現する」です。

この対談企画が生まれた経緯

企画の発端は、月刊『致知』に以前ご登場いただいたゴールドラットジャパンCEOの岸良裕司さんから届いた1通のメールでした。

「よかったら金子先生をご紹介します」

その数日後、たまたま弊社の近くまでお越しになっていた岸良さんがわざわざ立ち寄ってくださり、ある動画を見せてくれました。患者さんの身体の中で実際にがん細胞と戦っているT細胞を取り出し、それをiPS細胞にして増やし、再びT細胞に分化させて体内に戻すと、その再生T細胞が瞬く間にがん細胞を攻撃し、死滅させていくのです。

衝撃的でした。金子さんはこの治療法を誰しも拒絶反応なく、しかも低コストで実現しようとしているとのこと。山中先生がiPS細胞研究所のエースと称してやまない方であるとも伺い、取材依頼をすることに決めました。

当初は単独インタビューを予定していましたが、金子さんのオンラインセミナーに参加した折、交友関係のある岸良さんのご紹介で髙田さんも出席されていて、そこで対談の企画を思い立ちました。ご多忙の中、お二方ともご快諾いただくことができ、何とかスケジュールを調整してくださいました。

この対談は7月12日(金)、京都大学iPS細胞研究所の会議室で行われ、開始前には何と山中先生も挨拶に来られました。2時間にわたる対談取材の後、研究室にある試作機やiPS細胞の培養室などを見学し、研究に対する期待を膨らませつつ、お二方の話から「何が成否を分けるか」を学ぶことができました。

締め切りの関係もあって直後の連休中に原稿執筆に打ち込み、その内容を凝縮して誌面10ページ、約13,000字の記事にまとめました。主な見出しは下記の通りです。

 ◇難しいことをいかに分かりやすく伝えるか
 ◇「MyT-Server」プロジェクトとは
 ◇目指しているのは「誰でも、どこでも、いつでも」
 ◇がん免疫治療に不可欠な3つの要素
 ◇「あっこれだ!」留学3年目に訪れた転機
 ◇受け入れてもらえず苦しい局面に立たされる
 ◇研究者の夢が詰まった夢カタログを携えて
 ◇過去や未来ではなく大事なのは「いま」
 ◇優れた能力よりも優しい人間性
 ◇何のために仕事をするのか
 ◇2人がそれぞれ大切にしている言葉
 ◇「往く道は精進にして忍びて終わり悔いなし」

原稿をご覧になったお二方が「臨場感のある対談記事をありがとうございます」「とりとめのない私の発言も上手く纏めていただき、感謝申し上げます」と喜んでくださったことは、編集者冥利に尽きる思いです。

気づく人と気づかない人の差

この対談記事の読みどころは「全部です」と言いたいところですが、とりわけ心に響いたのは、金子さんが「MyT-Server」の研究開発に至った発想の原点と、髙田さんが家業のカメラ店を一代で日本中の誰もが知る企業へと導いてこられたプロセスに、奇しくも共通した体験があったことです。

金子さんは大学卒業後、母校の筑波大学附属病院で内科の研修生として働き始めました。諸外国でがん免疫治療の研究が盛んになると、それを日本で研究したいと思い、大学院に入り直して臨床研究をします。

ところが実際にやってみると、ほとんどの患者さんに効かない。いずれ自分の手で新たな治療法を研究したいという気持ちが芽生え始めます。若い患者さんがどんどん亡くなっていく状況にひどく落胆し、何とかしたい一心で2005年、35歳の時にイタリア・ミラノにあるサンラファエレ科学研究所に留学。そこで3年間研究に打ち込みました。

大きな転機が訪れたのは3年目。論文を読んでいた時に、山中先生のiPS細胞を見つけ、読み終わった瞬間に「これだ」と。iPS細胞技術をがん免疫治療に融合させれば、がん免疫治療の課題が解決できるのではないかと思いついたそうです。

この話を受けて、髙田さんはこうおっしゃっています。

「そこはものすごく重要なところですよね。論文を読んだ時に〝あっこれだ!〟と思った。この感性を持っているのは、おそらく100人中1人いるかいないかです。
僕はいまの時代、左脳だけでは経営できないと思っているんです。右脳を使ってアイデアや思いつきを生かし、時代の流れを読みながら経営していかないといけない。そういう点で、金子先生は勉強家でありながら豊かな感性も持ち合わせている。そこが素晴らしいところだと感じます」

金子さんが応じられます。

「そんなに勉強家でもないんですけど、あれを読んだ時はピンと来るものがありました。その論文はがん免疫治療をやってない人が見ても素通りしていたでしょう。私は問題意識を持っていたから、きっと気づけたんだなといまでは感じています」

一所懸命に取り組んでうまくいかなかったら、それは失敗ではない

続いて、髙田さんはご自身の体験を交えてこう語られました。

「僕も振り返ると、自社スタジオをつくったのが一番大きな転機だと思っているんです。佐世保の本当に小さな一軒のカメラ屋さんから始まり、いまは社員がグループ全体で4000人以上います。僕は先のことは何も考えないでやってきたんですけど、いまのジャパネットたかたがあるのは、自社スタジオをつくったことが大きいだろうなと。

その時は、やっぱり金子先生がおっしゃったように、〝あっこれだ〟と瞬間的に思ったんですよ。タレントさんを呼んで、県外に撮影に行って、編集して放映するまで一か月以上かかる。当時ワープロからパソコンに替わって、パソコンは三か月に一回新商品が出るんです。だから、これでは鮮度は落ちるし、価格でも量販店に勝てない。

それで自社スタジオをつくろうと思ったんですね。皆、反対しました。ほとんど賛成者はいないんですから。でも、僕は何とかなるさっていう性格なので、つくってみたら何とかなったんですよね」

金子さんも共感を以て受け答えされます。

「いつも皆さんから綿密に考えていたんでしょって言われるんですけど、そんなことはなくて、ただひたすら目の前にある課題にコツコツ向き合って、自分がいままで経験してきたことは絶対次に生かそうと心懸けてきました。それをやり続けていたら、何とかなったというのが実感です。
以前、髙田社長のご講演を拝聴した際に、一番心に強く残っているのが〝一所懸命に取り組んでうまくいかなかったら、それは失敗ではない〟という言葉です」

これに対し、髙田さんは何と言われたか。

「人の命を救うとか世のため人のために生きるというミッションがあって、これは永遠に変わらないと思うんですけど、それをやっている過程において、やっぱり僕は〝いまを生きる〟ことが一番大事だと思っています。あまり過去とか未来に翻弄されずにいまをやり続けていけば、絶対に目標に近づいていくんじゃないかなって」

この一場面だけでも、深い学びと感動が伝わってくるのではないでしょうか。

「研究開発」と「企業経営」――異色の組み合わせながら、そこに通底する人間学談義には仕事や人生を成功に導くヒントが凝縮されており、興味は尽きません。ぜひ本誌の対談記事をお読みください。


◇金子 新(かねこ・しん)
昭和45年愛媛県生まれ。平成7年筑波大学医学群を卒業後、筑波大学附属病院に勤務。10年筑波大学大学院医学研究科博士課程入学、14年博士号取得(医学)。同大学院血液病態制御医学(血液内科)講師、サンラファエレ科学研究所(ミラノ)研究員、東京大学医科学研究所幹細胞治療分野助教を経て、24年より京都大学iPS細胞研究所准教授、令和2年より同研究所教授、筑波大学医学医療系がん免疫研究分野教授を兼任。4年4月から6年3月まで同研究所副所長。

◇髙田 明(たかた・あきら)
昭和23年長崎県生まれ。46年大阪経済大学卒業後、阪村機械製作所に入社し、海外勤務を経験。49年実家のカメラ店「㈲カメラのたかた」に入り、61年分離独立して「㈱たかた」を設立。平成2年に通販事業を開始し、11年社名を「㈱ジャパネットたかた」に変更。27年社長を退任し、「㈱A and Live」を設立。29年サッカーJ2のV・ファーレン長崎の社長に就任し、同年J1昇格へと導く(令和2年退任)。著書に『髙田明と読む世阿弥』(日経BP)『まかせる力』(新将命氏との共著/SBクリエイティブ)など。

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