実験に失敗はない——「第五のがん治療」光免疫療法を生み出した執念〈小林久隆〉

がん細胞だけを破壊し、免疫細胞を活性化する――そんな夢のような画期的治療法が既に実用化されています。「第五のがん治療」と呼ばれる〝光免疫療法〟。世界に先駆けて日本で承認され、保険適用が始まりました。さらに研究が進展し、適応拡大されれば、8~9割の固形がんを治療でき、転移や再発もなくなるといいます。開発者である小林久隆氏に光免疫療法の誕生秘話、開発を通して掴んだ人生の要諦を語っていただきました。お相手は、小林氏の活動を支援する北尾吉孝氏です。

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実験に失敗はない~光免疫療法の誕生秘話~

<小林>
正式にNIH(アメリカ国立衛生研究所)の研究員となり、初めのうちは日中にボスの研究の手伝いをして、深夜になってから自分の研究に取り組むという生活でした。そのため、家族で暮らす家とは別に、NIHのすぐ傍にアパートを借りて、家に帰らずアパートで寝泊まりするようになったんです。

最終的にはアパートに帰る時間すらもったいなくて、研究所にあるソファで仮眠を取るようになりました。誰も機械を使わない夜中の1時から3時に潜り込んで実験をしていた時期もあります。

<北尾>
そんな中、ある先輩が自分の機械を貸してあげると手を差し伸べてくれたそうですね。

<小林>
丸2年が経つ頃、NIHで幾つものラボを束ねるピーター・チョイキ博士が「困っているんだろう? うちのラボにある機械を使っていいよ」と声を掛けてくれたんです。最初の2年は苦しかったですけど、「ああ、独りじゃないんだ。見てくれている人がいる」と思うと心強かったですね。

<北尾>
ボスから与えられる課題を全部こなした上で、寝る時間を惜しんで自分の研究に打ち込まれてきた。そういう姿勢だからこそ、周囲の人が助けようという気になるのですよ。そしてさらに天助、天の助けを得ることができる。

「天は自ら助くる者を助く」という言葉の通り、天は誰にでも手を差し伸べるわけじゃない。そこには並々ならぬ努力や忍耐、そして世のため人のためという志があって初めて、天の応援を得られる。

まさに小林先生は「人事を尽くして天命を待つ」ということを実践されてきたと感じます。

<小林>
機械を自由に使えるようになったおかげで提出する論文数も増え、研究の進捗は桁違いになりました。43歳の時に主任研究員となり、自分の研究室を持つことができたんです。

<北尾>
IR700と抗体を結びつけることを発見したのはそれから4年後、2009年のことですね。

<小林>
IR700に辿り着くまでは本当に試行錯誤の連続でした。ただ手当たり次第にやるとすれば無数にあるので、まず絞り込みが必要です。

治療を目指すという前提に立つと、スイッチをオンにする機能としては身体に害がなく、それでいて強いエネルギーを起こせるものでないといけない。このバランスを考えると、近赤外線に見当をつけるところにはある程度の時期に漕ぎ着けました。では、近赤外線でスイッチがオンになる化学物質を探そうと。その化学物質はいくらでもつくれるんですが、実際に試したのは200種類くらいです。探している間はまさに五里霧中、先が見えない霧の中を歩んでいるような状況でした。

ただ、試行錯誤を重ねるうちに、うっすらと光が射し込んできて進む方向が何となく分かってきたという感覚でしたね。

もともとIR700を売り込んできたのは、以前から懇意にしていた小さな化学メーカーの担当者でした。何となくこの物質が気になり、実験に使えるように仕立て、日本から留学に来ていた小川美香子さんに頼んでいたんです。

彼女は近赤外線を照射した時にがん細胞が発光する物質を探していました。その際、私はたとえ光らなかったとしても、他の治療に何かしら使える可能性はあるかもしれないと考え、「失敗したものでも教えてね」と伝えていたんです。

ある日、「全然うまくいかなくて、何度やっても光らずに壊れちゃうんです」と言ってきたのが、IR700だったわけです。「がん細胞が壊れるってすごいことや。これは治療に使えるかもしれない」と。

<北尾>
小川さんの視点では、これががん治療と結びつくことはなかったわけですよね。なぜ小林先生は結びつけられたのか。

それはやはり学生時代に化学の基礎に精通されていたこと。放射線の臨床医として患者さんをずっと診てきたこと。たくさんの方が亡くなっていく状況を何とかしたいという信念で研究医の道に進まれたこと。そして、退路を断ってがん研究の最高峰であるNIHに留学されたこと。これらがすべて繋がったのだと思います。

<小林>
たとえ実験で自分が望む結果が得られなくても、それは失敗ではありません。成功へ至るのに必要なプロセスなんです。


 

◉『致知』2024年5月号 特集「倦まず弛まず」◉
対談〝「人類の未来を拓くがん治療への挑戦」
小林久隆(アメリカ国立衛生研究所主任研究員)
北尾吉孝(SBIホールディングス会長兼社長)

 ↓ 対談内容はこちら!

◆オバマ大統領の演説が邂逅のきっかけ
◆「有志竟成」と「澹泊明志」の人物
◆「第五のがん治療」光免疫療法とは
◆転移がんを破壊しがんの再発を防げる未来
◆5年以内には8~9割のがんが治る!?
◆発想の原点は京大での研究生活
◆臨床医としての挫折志一つで研究医に転身
◆実験に失敗はない~光免疫療法の誕生秘話~
◆強固な信念と柔軟な融通さ
◆絶えず自己維新し休まず続ける

 ▼詳細・お申し込みはこちら

◇小林久隆(こばやし・ひさたか)
昭和36年兵庫県生まれ。62年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院に放射線科の臨床医として勤務。平成7年京都大学大学院医学研究科修了。医学博士。同年、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に3年間留学。京都大学医学部助手を経て、13年再渡米し、NIHの研究員となる。17年主任研究員。23年光免疫療法の論文が米医学誌『Nature Medicine』に掲載される。令和4年関西医科大学附属光免疫医学研究所所長に就任。著書に『がんを瞬時に破壊する光免疫療法』(光文社新書)、医学監修として『がんの消滅』(新潮新書/芹澤健介・著)。

◇北尾吉孝(きたお・よしたか)
昭和26年兵庫県生まれ。49年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。53年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村企業情報取締役、野村證券事業法人三部長など歴任。平成7年孫正義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。11年ソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)を設立、代表取締役社長に就任。現在、SBIホールディングス会長兼社長。著書に『何のために働くのか』『強運をつくる干支の知恵』『人間学のすすめ』(いずれも致知出版社)など多数。

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