2024年04月18日
NHK朝ドラ『いちばん星』や大河ドラマ『独眼竜政宗』で一躍脚光を浴び、現在は地元・横浜で自ら立ち上げた劇団「横浜夢座」の活動に情熱を注ぐ女優の五大路子さん。中でも、五大さんが長年ライフワークとし、先日28年目となる公演を成功裡に終えた一人芝居『横浜ローザ』です。五大さんはなぜ、度重なる逆境に遭いながらも舞台に立ち続けるのか。公演の誕生秘話を交え、舞台に懸ける想いを語っていただきました。
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伝説の娼婦・ハマのメリーさんに導かれて
──その後は順調に歩んでいかれたのですか。
〈五大〉
28歳での結婚後も家事と育児に奔走しながら、芝居を続けました。多くのドラマや映画に出演させていただき、舞台の仕事で全国を飛び回っていましたね。
ところが、休む暇もない生活は、私の体を着実に蝕んでいたのでしょう。1989年のある稽古中、突如右膝に激痛が走り、歩くことができなくなった……。整形外科を受診しても原因は掴めず、結果としてすべてのテレビ番組・舞台の降板を余儀なくされました。
出演していた番組や舞台が何事もなく進む様子を目にして、「私は金太郎飴の一つに過ぎないんだ」と思い知らされました。
では、私にしかできない芝居とはなんだろう。自問自答を重ねた末に辿り着いたのは私からの発信、磁力を感じる横浜発の演劇でした。治ったら、命を懸けて生み出せる舞台をつくろう。そう心に誓いました。
そして1年間リハビリに取り組み、少しずつ歩けるようになった頃、運命の出逢いを果たすんです。
──運命の出逢い?
〈五大〉
1991年、横浜開港記念の祭が催され、私は仮装行列の審査員として出席していました。ふと目をやる先には、舞台化粧のように顔を真っ白に塗り、腰を屈めて立っている高齢の女性がいた。
その彼女と目が合った瞬間、こう問われたような気がしたんです。「あなた、私の生きてきたいままでをどう思うの。答えて!」と。
後に、彼女が伝説の娼婦・ハマのメリーさんだと知りました。あの佇まい、訴えは何だったのだろうか。その答えを探しに、彼女の足跡を訪ねるようになりました。
生活が困窮し、横浜の街角に立ち続けたこと、舞台用化粧品を買わざるを得なかったこと。彼女の人生を追うにつれ、私の知らない戦時下を生きた女性の葛藤、横浜の変遷がありありと浮かび上がってきました。彼女を語ることは横浜を語ることなのだと実感して、演劇にしようと動き始めたんです。
かといって、私に舞台をつくる術は何一つありません。情熱だけを頼りに、かねて親交のある人気脚本家の杉山義法先生にメリーさんの人生と私の思いを綴りました。
返事がなくても、諦めずに何度も何度も送り続けた。その全身全霊で思いを伝える姿勢が、先生の心を突き動かしたのかもしれません。ついに快諾をいただけました。
以降はメリーさんの導きとしか思えないような出来事が重なって1996年、44歳の時に、一人芝居『横浜ローザ』の初公演を迎えることができました。
──念願の舞台を実現された。
〈五大〉
舞台に立った感慨は一入でしたね。ありがたいことにお客様からは好評を博しました。
ただ、戦争を経験していない私が演じてよいのだろうかという疑問は拭えませんでした。そんな折、かつてメリーさんと共に街娼をしていた女性が公演を見に来てくれた。何も知らない私が演じていいのでしょうかと尋ねると、彼女は涙ぐみながらこう言いました。
「ええ、誰かがあの時代のことを伝えないと。やってちょうだい。メリーちゃんもきっと喜ぶよ」と。
この言葉を受け、迷いは吹っ切れました。戦争、そしてその時代を生き抜いた人たちの苦しさは分かりきれない。けれども、私が見た、聞いた、感じたことは伝えられる。その一心で真摯に芝居と向き合い続けることで、支えてくださる方が次第に増えていき、コロナ禍の中止を除けば28年間、毎年再演を重ねてきたんです。さらに、2015年には夢にまで見たニューヨーク公演を実現することができました。
(本記事は月刊『致知』2024年4月号 連載「第一線で活躍する女性」より一部抜粋・編集したものです)
本記事では他にも、「地元・横浜発の劇団 夢を紡いで25年」「人全身全霊で伝えれば人々の心に火を灯せる」等、演劇の道一筋に歩んできた五大さんの体験談をお話しいただきました。テレビで脚光を浴びる日々から一転、地元・横浜発の劇団を立ち上げた五大さんが活動に懸ける想いとは――。全文は本誌をご覧ください!【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】
◇ 五大路子(ごだい・みちこ)
昭和27年神奈川県生まれ。桐朋学園演劇科に学び、早稲田小劇場を経て新国劇に所属。52年NHK朝の連続テレビ小説『いちばん星』で主役デビュー。以降、NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』や舞台『三銃士』をはじめ、数々の作品に出演。平成8年一人芝居『横浜ローザ』初演。11年横浜夢座を旗揚げ。27年神奈川文化賞、30年東久邇宮文化褒賞を受賞。著書に『Rosa 横浜ローザ、25年目の手紙』(有隣堂)がある。
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