「人間を知らないと、よい建築はつくれない」——建築家・隈研吾の原点

東京2020オリンピックの舞台となった「国立競技場」をはじめ、自然素材を巧みに駆使した数々の建築に携わる隈研吾氏。現在では40を超える国々でプロジェクトを手掛けています。日本を代表する建築家である氏の人格、従来の概念を打ち破るアイデアはいかにして育まれたのでしょうか。30歳で飛び立ったアメリカ留学の体験談にその答えを探ります。

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アメリカ留学で掴んだ「不変の真理」

〈隈〉
「一度は全く異なる文化の人と一緒に暮らしたい」

大手設計事務所とゼネコンで3年ずつ経験を積んだ僕は、自分の設計事務所を立ち上げる前に、海外で学ぶ決心をしました。もともとコンクリートの壮大な造形美に憧れていたことに加え、いろいろな人間に会ってみたいという思いに突き動かされ、ニューヨークのコロンビア大学に留学したのです。1985年、30歳の時でした。

アメリカで過ごした1年間は、新鮮な学びの連続でした。特に衝撃だったのは、説明のうまさを問われる点です。日本の設計に関する授業では、学生は黙々と設計し図面を提出。その図面を先生が採点して、評価が下されます。

一方、アメリカでは提出してからがむしろ本番です。作成した図面を壁に貼りつけ、詳細な解説が求められます。講評会には先生や学生のみならず、学外の建築家も招かれるため、コンペさながらの緊張感が漂っていました。

たとえメモ用紙のような図面であったとしても、説明に説得力があり、創造的で面白い場合は高く評価される。その様子を目の当たりにし、「建築家は設計するだけでは駄目。相手の心を掴むために伝える力が大切なんだ」という気づきを得ました。

それからは場数を踏むことはもちろん、人の発表を食い入るように観察して、「話す力」を磨き高めていったのです。

日常生活においても、アメリカ人の友人と日本の文化や建築、西欧との違いについて、昼夜を問わず侃々諤々の議論を重ねたものです。その過程で日本について何も知らない自分を恥じ入り、一所懸命勉強するようになりました。

それまで木を用いた日本の伝統建築に全く関心を持っていませんでしたが、実際の木造建築に触れるにつれ、いつしかその魅力にとりつかれていったのです。この留学経験がなければ、国立競技場のような木をふんだんに活かした建築スタイルは生まれなかったでしょう。

建築家の仕事は、テーブルの上で図面と睨めっこを繰り広げることではありません。建築を扱うのはあくまで人ですから、あらゆる物事・人に興味を抱き、関わり合っていく中で、思いがけないアイデアが浮かんでくるものです。

人間を知らないと、よい建築はつくれない。これはあらゆる仕事に通ずる不変の真理だと思います。


(本記事は月刊『致知』20244月号 連載「二十代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

本記事では他にも、「建築は才能じゃなくて粘り」「人を知らずに建築はつくれない」「迫り来る不安を恐れない」等、建築の道一筋に歩んできた隈氏の足跡には、あらゆる年代に通ずる仕事・人生の要諦が凝縮されています。全文は本誌をご覧ください!【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

 

◇ 隈研吾(くま・けんご)
1954年神奈川県生まれ。1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。40を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。著書に『日本の建築』(岩波新書)『全仕事』(大和書房)他多数。

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