2024年04月01日
日本看護界の草分けとして知られる日本赤十字看護大学名誉教授の川嶋みどりさんは、92歳のいまなお講演活動や雑誌の刊行などを通じて、よりよい看護のあり方とは何かを追求し続けています。戦時下に生まれ、様々な困難を乗り越えながら看護一筋に歩んできた川嶋さんに、何歳になっても溌剌と生きる秘訣を伺いました。
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ピンピンコロリではなくピンピンキラリを目指す
──川嶋さんは看護の道一筋に70年歩み、92歳のいまなお全国を飛び回る日々だそうですね。
〈川嶋〉
現在は患者さんを直接ケアすることは叶いませんけれども、いろんな活動を通じて後進に発破を掛けることはできるんです。ですから自称「生涯現役」で、いまも講演や執筆を続けています。
昨年(2023年)10月には講演で熊本、11月には奈良と彦根、松本に行ってきましたし、つい先日も2泊3日で静岡に赴き、学会の市民公開講座で講師を務めてきたところです。その傍ら雑誌の連載を2本書き、取材を受け……もう毎日が仕事。でも、皆さん喜んでくださるから休んでいる暇はありません。
──昨年には看護の総合月刊誌を創刊されたとお聞きしました。
〈川嶋〉
雑誌の創刊は、看護の現状に対する危機感からでした。看護業務は医師の指示により行う「診療の補助」と、患者さんの心と体に寄り添って直接ケアする「療養上の世話」があります。私は自分の実体験からも常々、後者の役割の重要性を説いてきたんですね。
ところが、近年は医療行為の一部を看護師に移譲する制度が始まり、患者さんへのケアが蔑ろになっています。そうした中、出版不況の煽りで46年続いた『看護実践の科学』が廃刊に追い込まれました。看護は現場で起こる人間的なもの。創刊から携わったよしみもあり、現場の声に耳を傾ける雑誌が途絶えてしまうのはもったいないとの思いが募ったんですよ。
そこで編集委員有志らでクラウドファンディングを立ち上げたところ、予想を上回る1,000万円近くの資金が集まり、2022年の夏、91歳の時に『オン・ナーシング』を創刊しました。
──看護現場への並々ならぬ危機感が川嶋さんを突き動かしたと。
〈川嶋〉
ええ。看護の未来をひらくためには、看護師が〝サイレント集団〟から脱皮しなきゃ駄目なの。その切なる思いを込めて、コンセプトは「読み手になって考え、書き手として伝えること」にしました。現役の看護師からも夜勤の実態やハラスメント問題などについて寄稿してもらい、現場に軸足を置いた編集方針を貫いています。
──とても92歳とは思えないバイタリティーに圧倒されます。健康長寿の秘訣はありますか。
〈川嶋〉
まあね、足腰は痛いし、体はそんなに元気じゃないですよ(笑)。空元気に近いのかも。
ただ、常に心掛けているのは特別なことをしないってことよね。6時に起きて3食しっかり食べて、日中は仕事に励む。そうした当たり前の生活を大事にリズムを壊さないでいると、些細な体調の変化にも気づきやすくなるんです。
それからもう一つは、加齢と老いは違うってこと。100歳を越えても健康な人がいる一方、大抵の人は60を過ぎると「リタイアだな」と口にするでしょ? その一番の差は心の持ち方だと思います。加齢は避けられませんが、老いを決めるのは自分自身なんです。ですから、周囲の環境に引きずられるのではなくて、死ぬ寸前まで成長し続ける存在だという心構えでいることが大切ではないかしら。
──ああ、向上心を絶やさない。
〈川嶋〉
よく講演で「60、70は少年少女」と伝えていますが、私は「一日一知」どころか「一分一知」というほど。人一倍に好奇心旺盛で、いまも分からない字はすぐに辞書を引くし、一昨年(2022年)からは友人の勧めで合氣道を始めました。合氣道は看護と通ずることが多くて、お稽古の都度刺激を受けています。自分の気持ちとしては、20代の頃と何ら変わっていません。
齢を重ねてできなくなったことを数えるより、これならできるというものを見つける。「ピンピンコロリ」と死ぬことを目指すのではなく、心や魂を磨き、最期の瞬間まで「ピンピンキラリ」と輝いて生きることを目指す。そんな心意気で過ごしたいものです。
(本記事は月刊『致知』2024年4月号 特集「運命をひらくもの」より一部抜粋・編集したものです)
本記事では他にも、「原点となった9歳の少女との出逢い」「看護師であり続けた日々は闘い」「困難には必ず意味がある」をはじめ、全4ページにわたって92歳となったいまなお現役看護師として活動を続ける川嶋さんの体験談をお話しいただきました。
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◇ 川嶋みどり(かわしま・みどり)
昭和6年韓国・京城(現・ソウル)生まれ。26年日本赤十字女子専門学校卒業後、日本赤十字社中央病院(現・日本赤十字社医療センター)勤務。平成15年日本赤十字看護大学教授就任。看護学部長、客員教授を経て、23年より現職。現在は健和会臨床看護学研究所所長、一般社団法人日本て・あーて(TE・ARTE)推進協会代表理事を兼任。19年フローレンス・ナイチンゲール記章、27年山上の光賞受賞。講演・執筆活動で看護のあり方を提言し続け、日本のナイチンゲールと呼ばれている。著書に『長生きは小さな習慣のつみ重ね』(幻冬舎)『看護の力』(岩波新書)など多数。