誰がやるのでもない。自主的にやる。それが商売——日本一の職人が誰よりも働く理由(焼肉 スタミナ苑・豊島雅信)


JRも地下鉄もなし。そんな辺鄙な場所に、連日国内外から利用客が殺到し、「日本一の行列店」と言われる焼肉店「スタミナ苑」はあります。わずか50席ほどの地味な焼肉店を日本一の行列店に至らしめたものは何か。この道50年、すべてを仕事に捧げてきた「スタミナ苑」の職人・豊島雅信氏が行き着いた仕事哲学に迫ります。

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日本一になるまでの道のり

<豊島>
──今日まで50年間、厨房に立ち続けてこられた。

そう。僕は小学校からずっと店を手伝わされていたから、仕事そのものが辛いと思ったことはなかったけど、経営は楽じゃなかったね。

おふくろは昔の人間だから我慢屋で、1円のお金も無駄にはしなかった。本当に苦労に苦労を重ねた人でした。

僕も所帯を持ったけれども、子供がCDが欲しいと言っても買ってあげられなかったものね。従業員に言われた言葉が「まこさん(豊島氏の愛称)、休みの日でも同じ格好しているんですね」。そのくらい貧しかったんです。

──厳しい中でも努力を重ねてこられた。

右手が悪いからさ、修業を始めた頃は包丁さえ持てないし、ホルモンを入れてある大きなビニール袋も開けることができなかったよ。最初は途方に暮れたけれども、何度も練習して包丁が使えるようになった。ビニール袋は両手で押さえて、口を使って開ける方法を考えた。

「ハンディキャップがあるからできない」などとは絶対に思わない。

その頃の僕は「なにくそ、負けてたまるか」「前進あるのみ」、その一念でしたからね。人から「できない」と言われると、コンチキショウって燃え上がる。後ろなんか見るな、前だけを向いて歩いて行きゃいいんだと。

それで30歳くらいの頃だったかな。何となく肉の質が分かるようになってきた。仕込みに徹底的にこだわるようになったのはその頃からです。

先ほど言ったように僕は休業日でもたった一人、3時間の仕込みを続けてきたけれど、誰も見ていないところで努力する。いまもトイレの掃除は毎日自分でするし、絶対に手を抜かない。

これが商売なの。誰がやるのでもない。自主的にやるしかない。それができないのはまだケツが青い証拠なんだ。

手を抜いたら明日客が一人来なくなると思って自分を奮い立たせてきたね。そうして気がつくと繁盛店になって、仕事に追われるようになっていた。

──人知れぬ努力が実を結んだのですね。

本もたくさん読んで、苦しい時の心の支えにしてきました。

三浦綾子の『氷点』は人間の醜さや汚さを見事に浮き彫りにしている。山岡荘八では『織田信長』が特に好きだったね。「鳴かぬなら殺してしまえ」という言葉に触れて自分もそうなりたいと思った。

俺が天下を取ってやると思っていたけど、いまでは焼き肉業界で僕を知らない人間はいない。本当に焼き肉業界の天下を取っちゃったわけだから人間は面白いね(笑)。

──悔しさをバネに必死で生きてこられたことが伝わってきます。

だけど、悔しさだけじゃダメ。人間はチャンスがあったらそれをすかさず奪い取れるかなんです。

うかうかしていると素通りしちゃう。僕はチャンスが来たなと思ったら、すぱっと掴んじゃう。

例えば、店の常連だったある放送作家との縁で、食通のための雑誌『dancyu』に見開き6頁で紹介してもらったんだけど、これが大変な反響だった。

スタミナ苑が一気に有名になったのはそこからです。


本記事では、「日本一になるまでの道のり」など、「スタミナ苑」が歩んできた道のりのほか、「一所懸命の一歩先に進めるか」「人事を尽くして天命を待つ」をはじめ、日本一へ押し上げる背景となった豊島氏の心掛けが紹介されています。50年の長きにわたり、仕事に浸り切り掴み取ったその哲学には、仕事に挑むすべての人の心を熱くするものがあります。

◉『致知』2024年3月号 特集「丹田常充実」◉
インタビュー〝「『なにくそ、
負けてたまるか』
その精神が
僕の魂に火をつけた
」〟
豊島雅信(スタミナ苑)

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◇豊島雅信(とよしま・まさのぶ)
昭和33年東京都生まれ。兄が母親と始めた焼き肉店「スタミナ苑」に15歳から加わり、以来、ホルモンひと筋50年を歩み、スタミナ苑を行列の途切れない名店に育て上げる。平成11年にはアメリカ生まれのグルメガイド『ザガット・サーベイ』日本版で総合1位を獲得。平成30年には『食べログアワード 2018』ゴールド受賞。著書に『行列日本一 スタミナ苑の繁盛哲学』(ワニブックス)。

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