23歳、10年連続赤字からの立て直し。老舗和菓子屋「五穀祭菓をかの」はいかにして窮状を脱したのか(六代目女将・榊萌美)

埼玉県桶川市に暖簾を掲げ、今年創業137年を迎える老舗和菓子屋「五穀祭菓をかの」。2019年、23歳の若さで同社の経営を引き継ぎ、それまで10年続いた赤字を黒字化に導いたのが、六代目女将・榊 萌美さんです。2023年12月には市議会議員選挙に当選し、事業家と政治家の2足の草鞋を履き、桶川の地域再生に尽力されています。榊さんはいかにして家業の窮状を脱するに至ったのか。立て直しに奔走した歩みとその中で掴んだ自分なりの人生を生きるヒントをお話しいただきました。

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「お店を継いで地元の人たちを幸せにしたい」

〈榊〉
中山道の宿場町として栄え、いまもその面影が残る埼玉県桶川市。この地に暖簾を掲げ、今年(2024年)創業137年を迎えるのが、五穀祭菓をかのです。

老舗和菓子屋・岡埜栄泉で修業を積んだ初代が暖簾分けする形で1887年に開業。1974年、4代目の時に独立を果たし、豆大福等の看板商品に加え、流行に合わせた菓子が地元の人々に愛され続け、現在に至ります。

5代目である父の次女として生まれた私は、幼い頃から店を構える商店街の方々に可愛がっていただきながら育ち、大好きな街のために家業を継ぐのは当たり前と考えていました。しかし部活動や遊びに明け暮れるにつれ、その気持ちは薄れていきました。

大学では人のためになる仕事をしたいとの想いから教育学部に進学。ところが勉強についていけず、教育実習先で生徒の悪口を言う先生に幻滅し、いつしか不登校に……。

スタートラインは一緒だった同級生がいまを楽しく生きているのに、私はなぜ立ち止まっているのだろう。次第に自己嫌悪に陥っていきました。

そんなある日、道すがら遭遇した同級生の母親から「お店継いだの? 卒業式の時に言ってたじゃない」と声を掛けられたのです。全く記憶になかった私は、帰宅後に小学校の卒業式のビデオを確認すると、「お店を継いで地元の人たちを幸せにしたい」と断言する自分が映っていました。

何て格好いいのだろう──。目標を見失い、途方に暮れるいまの私より、真っすぐ前を向いて、自信に満ち溢れた過去の自分を信じたい。

地元の発展のために生きる覚悟が決まり、大学を中退し、アルバイトをしていたアパレルで2年間社会人経験を経て、をかのに入社しました。2016年、20歳の時でした。

「葛きゃんでぃ」のヒットの裏に隠された経営者としての葛藤

〈榊〉
家業を継ぐ意志を両親に伝えた際はシャッター街となった街の現状を憂い、困惑した様子でしたが、私の覚悟は固く、店の活気を取り戻すために一歩ずつ改革を進めていきました。

例えば食品ロスを減らすために品数を削減。その際に売れない葛ゼリーを凍らせた「溶けないアイス 葛きゃんでぃ」を発案すると、新食感が好評を博し、2日で1,000個売れる人気商品になりました。

こうして少しずつ改善を重ねていったものの、2019年に6代目女将に就任した時、10年連続で約1,000万円の赤字を計上している現実を初めて知ったのです。

銀行の融資で何とか持ち堪えている厳しい経営状態に直面し、試行錯誤する私とは裏腹に、約20名いた社員たちには老舗が潰れるはずがないという驕りのような空気が漂っていました。

老舗の暖簾に縋るのではなく、初心を忘れず、1人のお客様が来てくださることへの感謝を忘れてはいけない。その一心で手書きのチラシを作成し、仕事終わりの午前1時から毎日約1,000部のポスティングを始めました。

そして数十人でも来てくださるお客様一人ひとりのお声をヒントに品揃えやディスプレイ等の改善を地道に重ねていったのです。

一方、ネット販売に力を入れたタイミングで葛きゃんでぃがテレビで取り上げられ、1日に2,500件の注文が殺到。地道な改革とこのヒットのおかげで2020年は黒字化を果たすことができました。

しかし、想定外の大量注文に皆毎晩遅くまで作業に追われ、すべて送り切るのに3か月を要しました。

さらに、「こんなことをやりたいわけじゃない」と20年以上勤めていた職人を含む社員3人が退職。挙げ句の果てに父の友人から、「おまえの雑な経営で皆が苦しんでいるんだ。おまえの親父が死んだら、葬式で人殺しだと言ってやるからな」と罵られ、何も言い返せない悔しさに泣き崩れてしまいました。

人のためになりたいと一心不乱に励んだ仕事がどうして皆を傷つけてしまったのだろう。もう辞めたいと何度も思いました。

その深いどん底に沈んでいた私を救ってくれたのは和菓子業界の方々でした。「葛きゃんでぃのおかげでうちの商品も売れました」など、感謝の声をたくさんいただき、私がしたことは間違っていなかったと実感できたのです。

この経験を通して、経営者としての力不足を痛感すると共に、自分の傲慢さに気づくこともできました。

「してあげている」という意識が微かにあったことを反省し、父をはじめ長年勤めてきた人たちを慮り、変えてはならない部分を大切にしていったことで、すれ違いが生じていた社内に一体感が生まれたのです。

自分の好きな自分でいる

〈榊〉
その後も順風満帆とはいかず、睡眠1時間で働いた時期もありました。そんな姿に、神様が味方してくれたのでしょうか。2022年に再びテレビで取り上げられ、今回は準備を徹底したことで取りこぼしなく受注できました。さらにこれまでの経営改善の努力も実り、3期連続黒字化を実現したのです。

長い暗闇を抜け出すことができたのは人の役に立ちたい、地元に恩返しをしたいとの原点を見失わなかったからだと思います。自分の好きな自分でいる──その一点がブレなければ、自ずと道は開けていくというのが私の実感です。

先日、当店に70年以上通うお客様からいただいた「商店街が廃れた中でも、一番好きなこのお店が死ぬまで残っているのが何よりも幸せ。継いでくれて本当にありがとう」との言葉に涙が止めどなく溢れ、当店を愛してくださるお客様のために残し続けたいとの想いを一層強くしました。

たとえ小さくても、長く、深く愛されるお店づくりをこれからも心掛ける想いです。

 


(本記事は月刊『致知』2023年5月号連載「致知随想」より一部抜粋・編集したものです)

◇ 榊 萌美(さかき・もえみ)
平成7年、埼玉県生まれ。東京聖徳大学深谷高校、明星大学教育学部教科専門国語コース中退後、アパレル会社勤務を経て28年、20歳の時に実家の和菓子店「五穀祭菓 をかの」入社。1年目からヒット商品「葛きゃんでぃ」を開発。31年、副社長・六代目女将に就任。令和3年12月には個人ブランド「萌え木」を設立。講演会やポップアップストアなども精力的に実施している。

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