「答えはすべて現場にある」——創業者・宗次德ニ氏が語る〝ココイチ〟誕生秘話

現在、全国に約1,200店舗を構える日本最大手カレーチェーン「カレーハウスCoCo壱番屋」。29歳の時に愛知県名古屋市郊外の1店舗からスタートし、今日の繁栄の礎を築いたのが宗次德ニ氏です。25歳で接客業との邂逅以降、一貫した現場主義・率先垂範であり続けた宗次氏に、経営者としての礎が養われたという創業期の日々を振り返っていただきました。氏の生き方には、人生・経営発展の要諦が詰まっています。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

行き当たりばったりの人生

〈宗次〉
私の人生は偶然の出逢いと行き当たりばったり、成り行きの連続でした。ただ、「感謝と真心」を大切に、人々を笑顔にしたい一心で一瞬一瞬を生き抜いた、確固たる信念を曲げなかったことが、道なき道を切りひらいたのは確かです。

ゼロからカレーライス専門店「カレーハウスCoCo壱番屋」(以下ココイチ)を創業し、経営の一道に身を捧げた私の半生が、未来を担う若者の一助になれば幸いです。

高校卒業後、不動産仲介会社に入社した私は不動産業で独立するという目標を定め、1973年、24歳の時に妻と共に宅地建物取引業を立ち上げました。

住宅建築ブームの追い風を受け、順調なスタートを切れたものの、不動産業は安定収入があるわけではありません。「現金収入の商売を始めよう」と妻と話し合った末、1974年、名古屋市西区に喫茶店「バッカス」を開店。もっとも、当初は妻が切り盛りし、私は不動産業に専念するつもりでした。

ところが開店初日、人手不足で手伝いに駆り出されたことが転機になりました。次から次へと来店されるお客様に対し、お礼の言葉をかけるにつれ、直接お客様の喜びに触れるという不動産業にはない接客の楽しさを味わったのです。

「接客業こそ、私の天職だ」

そう直感した私は早々に不動産業の廃業届を提出し、接客一筋に生きる覚悟を固めました。この出逢いが、私の人生を180度変えたのです。

現場主義の原点

〈宗次〉
名古屋での喫茶店経営は、モーニングサービスがなければ成り立たないと言われる土地柄にも拘らず、モノのサービスに頼るのは真のサービスではないと断固拒否。お客様は価格よりも売る人の人柄を買っているという考えに則り、感謝の笑顔で溢れた店づくりを目指して〝真心を込めた接客〟を一番の売り物にしました。

7時から20時まで働き詰めの日々に、踏切の遮断機が下りている間、運転中の車内で夫婦揃って寝てしまったこともありました。それでも、お客様の喜ぶ姿を見るたびにやりがいを実感し、一貫したお店づくりを心掛けたのです。

本気でお客様を慮った接客を続けたことでいつしか口コミで広がり、オープンから1年後には2号店を出店。朝から晩まで繁盛し、これ以上来店いただく余地がなくなったことを受け始めたのが、出前サービスでした。チャーハンやスパゲティをはじめとしたメニューの中でも、妻が手掛けたカレーライスはひと際注目を集めました。

「そうだ、3号店はカレー専門店にしよう」

カレーの好評ぶりを見て、そう確信し、名古屋市郊外にココイチ1号店をオープンしたのです。1978年、29歳の時でした。

オープン2日間の来客数は200人を超え、単日の売り上げも14万円以上を記録する好調なスタートを切りました。

しかし3日目からは閑古鳥が鳴く状況に陥りました。忙しさのあまりぬるいカレーや揚げ過ぎたカツを出し、挙句の果てには最も大切な接客までも疎かになっていたのです。

お客様が1日30人程しかご来店されない試練の最中、私と妻は「真心を込めたサービスに努めれば絶対大丈夫だ」と互いを励まし合い、目標に掲げた日商6万円に向けてお客様からの声を改善に繋げました。また、できることはすべてやる気持ちで喫茶店の営業を終えた後、サクラとして毎晩カウンターに座り続けたのです。

地道な改善と誠心誠意、真心を込めた接客がお客様の心に届いたのでしょうか。オープンから8か月経ったある日、お店に向かうとオープン当初のような賑わいを見せていたのです。

この日を境に経営は軌道に乗り、1年経たずに日商6万円を達成、翌年には新たに2店舗を出店し、フランチャイズによる多店舗化を開始しました。

私には商売の能力も経営者としての素養もありません。しかし、なぜか拡大志向はありました。現状に満足することなく、もっと伸ばしたい。常にそう考えていたのです。また、師事した経営者もいなければ、経営コンサルタントに相談したこともありません。

お客様の声や社員の様子など、明日の経営のヒントはすべて現場で得ていました。超がつくほどの現場主義に徹し、実践を繰り返すことが結果に直結すると実感しています。


(本記事は月刊『致知』2023年6月号連載「二十代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

◉本記事には、「ロウソク一本で暮らした幼少期」「経営者が誰よりも率先垂範」「目標への挑戦が突破口になる」等、ゼロから日本一のカレーチェーンを築いた宗次さんのお話には人生・仕事の要諦が溢れています。本記事の【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

致知電子版 〉でも全文お読みいただけます。

◇宗次德ニ(むねつぐ・とくじ)
昭和23年石川県生まれ。不動産事業を経て、49年喫茶バッカス開業。53年カレーハウスCoCo壱番屋創業。57年壱番屋を設立し社長に就任。独自のフランチャイズシステムを確立させ、日本最大手のカレーチェーンに成長させる。平成10年会長就任、14年役員退任。15年NPO法人イエロー・エンジェル設立、理事長就任。19年クラシック音楽専用ホール「宗次ホール」をオープンし、代表に就任。著書に『独断─宗次流 商いの基本』(プレジデント社)『〝ココ一番〟の真心を』(中経マイウェイ新書)など多数。

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人気ランキング

  1. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】ふるさと納税受入額で5度の日本一! 宮崎県都城市市長・池田宜永が語った「組織を発展させる秘訣」

  2. 人生

    大谷翔平、菊池雄星を育てた花巻東高校・佐々木洋監督が語った「何をやってもツイてる人、空回りする人の4つの差」

  3. 【WEB chichi限定記事】

    【編集長取材手記】不思議と運命が好転する「一流の人が実践しているちょっとした心の習慣」——増田明美×浅見帆帆子

  4. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】持って生まれた運命を変えるには!? 稀代の観相家・水野南北が説く〝陰徳〟のすすめ

  5. 子育て・教育

    赤ちゃんは母親を選んで生まれてくる ——「胎内記憶」が私たちに示すもの

  6. 仕事

    リアル“下町ロケット”! 植松電機社長・植松 努の宇宙への挑戦

  7. 注目の一冊

    なぜ若者たちは笑顔で飛び立っていったのか——ある特攻隊員の最期の言葉

  8. 人生

    卵を投げつけられた王貞治が放った驚きのひと言——福岡ソフトバンクホークス監督・小久保裕紀が振り返る

  9. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】勝利の秘訣は日常にあり——世界チャンピオンが苦節を経て掴んだ勝負哲学〈登坂絵莉〉

  10. 仕事

    「勝負の神は細部に宿る」日本サッカー界を牽引してきた岡田武史監督の勝負哲学

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる