2024年01月21日
祖業である電子顕微鏡で世界トップシェアを誇り、ノーベル賞の陰の立役者と称される理科学・分析機器メーカー日本電子。現在会長を務める栗原権右衛門氏は電子顕微鏡を主力とする同社では異例、営業畑出身としてトップに就任し数々の経営改革を断行してきました。その人格、経営手腕はいかにして養われたのでしょうか。経営者としての原点となった入社当時の日々を振り返っていただきました。
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未知なる世界に飛び込む
——ところで、栗原さんはどんなきっかけで入社されたのですか。
〈栗原〉
私はもともと科学技術には無縁の文科系の人間なんです。入社した1971年は高度経済成長の真っ只中で、大学が商学部だったのもあって海外で働ける商社に憧れていたんですが、幸か不幸か落ちてしまった。そして海外展開しているメーカーを探し求める中で当社に思いがけず採用され、入社後は営業に配属されました。
——未知の分野に飛び込んだ。
〈栗原〉
はい。それも電子顕微鏡ならまだ分かりやすいのですが、先ほど説明したNMRの担当にされましてね、「これを勉強しろ」と先輩に言われた本が1行目から理解できない(笑)。原子や分子などの基本から必死で勉強しました。
——何が仕事を続ける原動力になりましたか。
〈栗原〉
それは素晴らしいお客様との出逢いです。
当社は企業でも大学でも、有力な研究者がいるところに営業に行きますから、例えば、大村先生とは入社3年目に初めてお会いしてNMRをご購入いただき、2001年にノーベル化学賞を受賞された野依良治先生とは、1975年、名古屋に転勤した際にご縁をいただき、以来、親しくさせていただいてきました。
——若くして一流の先生方と交流を持たれたのですね。
〈栗原〉
そういう一流の方々に製品を売り込む以上、こちらにもそれなりの教養や見識が求められます。ですから、もともと好きだったクラシック音楽や日本の近代文学を勉強し、よく話の種にしました。
そして皆さんに共通していたのは、科学の専門知識だけでなく人間性、人格が素晴らしいということでした。
人と関わる上で一番重要なのは何よりも人格であり、人間性を磨かないといけないんだと教えられました。この営業マン時代の出逢いと学びが私の人生、仕事の基礎になったと言えます。
以降は営業マンとして理工系の大学や大手化学メーカー、創薬企業等を担当し、4年ほど茨城県の筑波支店で支店長として研究機関への営業にも携わりました。
——キャリアを重ねる中で特に転機となった出来事はありますか。
〈栗原〉
営業本部分析機器営業部の副課長をしていた1987年、39歳の時に社内論文の第一回募集に応募したことは一つの転機になりましたね。
当時から、当社には理科系の博士号を持った優秀な社員が数多くいたのですが、なんとその中で私の論文が銀賞を獲ったんです。
——ああ、銀賞を。論文にはどんな内容を書かれたのですか。
〈栗原〉
「21世紀へ向けての日本電子」がテーマでした。後で説明しますけれども、例えば当社は先端技術を扱うグローバル企業である一方、極めて日本的な社風が残っていました。その二律背反性を現場で営業をしながら感じていたものですから、論文では
「だからこそ可能性を持っている。矛盾する企業価値をバネとして、全く異なった企業体質をつくり上げることができる。つまり弁証法的解決が可能な企業だ」
と、ちょっと生意気な提言をしたんです(笑)。
それで自分も、いままでの単にモノを売るだけの営業マンではいけない。もっと全社的な視点、組織や人材のマネジメントができる人間にならなくてはならないと思って、ドラッカーやジム・コリンズなどの経営書を真剣に読み始めました。これが後に経営者になった時に大いに役立ちました。
(本記事は月刊『致知』2023年9月号特集「時代を拓く」より一部抜粋・編集したものです)
◉『致知』最新2月号 対談「科学技術こそ立国の礎なり」に栗原さんがご登場!!
日本の経済成長を牽引してきた科学技術の停滞は著しく、この現状を悲観する識者も少なくありません。しかし本当にそうでしょうか。令和元年にリチウムイオン電池の研究と普及でノーベル化学賞に輝いた旭化成名誉フェロー・吉野 彰氏と、電子顕微鏡分野で世界シェア首位を誇る日本電子の会長・栗原権右衛門氏。両氏の熱論からは、立国の礎たる科学技術の活路、目指すべき立志のありようが見えてきます。
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昭和23年茨城県生まれ。46年明治大学商学部卒業後、日本電子入社。取締役メディカル営業本部長、常務取締役、専務取締役を経て平成19年副社長、20年社長。令和元年6月より会長兼最高経営責任者、4年6月より会長兼取締役会議長。