2024年01月10日
日本の保守界をリードしてきた外交評論家で杏林大名誉教授の田久保忠衛さんが、2024年1月9日、肺炎のためお亡くなりになりました。90歳でした。
弊誌『致知』では2013年12月号にて表紙を飾っていただき、近年では2023年11月号にて東京大学名誉教授の小堀桂一郎さんとご対談をしていただきました。
その際にも、衰えを見せない鋭い知性で世界情勢を分析し、力強く日本の針路を語っていただきました。田久保さんのご冥福をお祈りすると共に、最後となった弊誌での対談の一部をご紹介させていただきます。
日本が国難を乗り越えるために
〈田久保〉
……戦後の日本は、あまりにも物的な幸福に傾き過ぎたと私は思うんです。
岸田さんが首相になる前に出された本を読むと、そこで訴えられていることは軽武装、経済大国を重視してきた宏池会の路線そのものといえます。昨年末に防衛費の増額や反撃能力の保有などを盛り込んだ新しい防衛三文書を決定し、アメリカで行った演説で、自分は安倍元首相の路線を引き継ぐと主張しました。
しかし、それ以後は国防に関する目立った発言はほとんど聞こえてきません。こういう状態では、日本の幸福はなかなか実現し難いのではないかと危惧しています。
繁栄する国家というのは、政治・経済・軍事・技術のすべてのバランスが取れていますが、日本では軍事がスポッと抜けている。これはこの間お亡くなりになった元外交官の色摩力夫(しかま・りきお)をさんの受け売りなんですが、立法・司法・行政の三権の他に、軍隊というのは国家の成立と共にあるべきものだと。
最近は、自衛隊を国軍にということがあまり言われなくなりましたが、国を守る国軍がない状態で、日本の国益、つまり日本の幸福を守ることはできないと思うんです。
〈小堀〉
そこはとても危惧されるところですね。
〈田久保〉
また、すべてのバランスが取れた国になるためには、優れたリーダシップが必要です。これを発揮していたのが、イギリスのチャーチル、フランスのドゴール、そして明治の日本です。
明治の日本には、明治天皇の周りに元老がいました。伊藤博文、山県有朋、黒田清隆、松方正義、井上馨、西郷従道、大山巌、桂太郎、西園寺公望と、明治維新の白刃をくぐり抜けてきた侍たちが明治天皇を支え、日清・日露戦争という国難を見事に乗り越えました。
日本がかつてのような優れた見識を備えた強いリーダーシップを取り戻し、この国難を乗り越えて真の幸福を実現していくことを私は心から願っています。
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▼田久保忠衛さんと小堀桂一郎さんの対談を収録した2023年11月号の詳細は下のバナーから
◇小堀桂一郎(こぼり・けいいちろう)
昭和8年東京生まれ。33年東京大学文学部独文学科卒業。36~38年旧西ドイツ・フランクフルト市ゲーテ大学に留学。43年東京大学大学院博士課程修了、文学博士。東京大学助教授、同教授、明星大学教授を歴任。現在は東京大学名誉教授。著書に『さらば東京裁判史観』(PHP研究所)『皇位の正統性について』(明成社)『歴史修正主義からの挑戰』(経営科学出版)など。
◇田久保忠衛(たくぼ・ただえ)
昭和8年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、昭和31年時事通信社に入社。ハンブルク特派員、那覇支局長、ワシントン支局長、外信部長などを務める。平成4年から杏林大学社会科学部(現・総合政策学部)で教鞭を執り、22年より現職。国家基本問題研究所副理事長。日本会議会長。著書に『新しい日米同盟』(PHP新書)『激流世界を生きて』『憲法改正、最後のチャンスを逃すな!』(共に並木書房)など。
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