2024年06月28日
躍動感のある造形力、慈愛に満ちたみほとけのお顔に溢れる表現力。大佛師の松本明慶さんがつくる仏像は、一つの表情で喜怒哀楽がすべて表現されていると言われています。しかし驚くことに、世界屈指の腕を持つ松本氏が師のもとで学んだ期間は僅か1年半。1日で3日分生きることを心掛けてきたという松本が説く時間の使い方、修行の要諦とは──。
時間をどう過ごすかが人生
〈松本〉
……4歳年下の弟の無念な死を契機に17歳で仏像を彫り始め、瞬く間に60年が経とうとしています。
一般の方々とは異なり、出発点が悲しみの底にありましたので、私の体験談は参考になるのだろうかと考えます。しかし、いつの時代でも生きている時間、働ける時間は決まっています。
1日24時間は誰にも公平。ですから若い人は特に〝命〟とは何かを考えてほしいのです。父母からもらった大切な命、それを私は時間だと思っています。その大事な時間をどう過ごすかが、人生なのです。
私は年に2度ほど、大学で話をしています。先日、「どうしたら先生みたいに人を上手に指導できますか」と質問してきた生徒がいて、「君はなれると思う」と即答しました。そして「そのためには皆の努力の3倍踏ん張りなさい。
つまり、人の3倍の仕事をやってのけないと、人はついてきません」と伝えました。
自分は動かずに、こうせいああせいと指示をしたところでうまくいきません。まず自らが一所懸命汗水流して努力してこそ、人はついてくるものです。
〝3倍の力〟を伝えるためにこんな話をします。1日を3で割ると8時間という数字が出てくるでしょう。最初の8時間は誰よりも競争心を持って仕事を頑張りなさい。
「人との競争」と皆さん勘違いされますが、競争するのは誰でもない「自分」です。もう一つの8時間は休息の時間。ぐっすり寝て、十分に休みなさいということです。
そして残りの8時間が一番大切で、この時間をどう使うかが人生を決めると言っても過言ではありません。仕事の後に遊びに行くのか、それとも1時間でも2時間でも一人で腕を磨くのか。その小さな努力を1年も続ければ、必ず大きな差となって表れるものです。
ですから、環境が悪かった、親が頭よく生んでくれなかったと嘆くよりも前に、自分に与えられたその8時間をどう過ごすかです。怠けて過ごして、それで結果が出ないと嘆いても、誰も助けてくれる人はいません。
(本記事は月刊『致知』2021年7 月号 連載「二十代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)
◉本記事では、
・「君は100年に1人の仏師になる」
・師匠の教えを受け止める覚悟
・1日で3日分生きる
……等、大佛師として世界屈指の腕を持つ松本氏が、いかに師の技を体得し、高めてきたのか――その背景にある師と弟子の呼応、時間に対する捉え方などについてもお話しいただきました。氏の歩みには、与えられた命にどう応え、生きるべきなのかを深く考えさせられます。
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◇松本明慶(まつもと・みょうけい)
昭和20年京都府生まれ。洛東高校卒業後、39年京佛師・野崎宗慶師に弟子入り。京都佛像彫刻展で55年に市長賞を受賞以後計12回、60年に知事賞受賞以後計14回受賞。平成3年総本山より「大佛師」の号を拝命。11年世界最大級の木造仏・大弁財天像完成(鹿児島/最福寺)。現在全国各地の寺院に大仏を19体造仏。40人以上の弟子を育成中。著書に『炎の仏師』(ネスコ)『ひとふりの命』(松本明慶佛像彫刻美術館)など。