不幸がきっかけとなり人生が拓けた——視覚障碍と向き合ってきたIBMフェロー・浅川智恵子に学ぶ〝不幸の乗り越え方〟

日本科学未来館館長の浅川智恵子氏は、IBMフェローとしてアクセシビリティの研究もリードしています。14歳で失明。IBM入社後は、ウェブ上の文字情報を音声で読み上げる「ホームページリーダー」など時代の流れを大きく変えるソフトを開発してきました。「諦めなければ道は開ける」を信条としていまも前進を続ける浅川氏に、失明という試練や師との出逢いによって切り拓いた人生を振り返っていただきました。

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選んだ道は最後までやり遂げる

——浅川さんの人生は、失明という試練を乗り越えて、人生を切り開いてきた歩みでしたね。

〈浅川〉
私は視覚障害者になってからというもの、自分の選択肢がとても少ないことをずっと感じてきました。高校や大学に進学する時も、就職をする時も、その少ない選択肢の中で自ら一つを選び取って歩いていくわけですが、私は一度選んだ道は最後までやり遂げることを常に心掛けてきました。

というのも、自分に向かないと思って辞めても次がないのです。職業訓練センターに入った時もそうでした。最初は「何というところに入ったのだろう。コンピュータエンジニアは自分に全く向かない」と思ったのですが、他に何があるかと考えても簡単には見つからず、そのまま勉強を続けました。

その2年間は我ながらよく修了できたと思いますが、そこで修了していなかったとしたら、いまの私はありません。

——決めたことは最後までやり遂げてこられた。

〈浅川〉
社会人ドクターを取得したとお話ししましたが、その3年間もまた大変でした。「大変」と「チャレンジ」は違います。ソフトウエアの開発はチャレンジなんですね。チャレンジするほど、よりよいものになる。ところが、職業訓練センターの2年間、社会人ドクターの3年間は、これから一体自分はどうなるのだろうという全く先の見えない不安に押し潰されそうな毎日でした。

私がドクターコースで学んでいた時、論文はいまのようにインターネット上には存在しませんでした。東大の図書館に行って論文をコピーしてもらい、それを学生支援室に持っていって全部スキャンしてテキスト文書に落としてもらう。それを点字に変換して読むという、大変な作業が必要だったのです。

もちろん、ドクターを修了できなくても、IBMの研究員として生きていくことはできたでしょうが、より面白いチャレンジはできません。そのためには何としてもドクターコースを終わらせなくてはいけない。その一念を最後まで貫いてきたように思います。

——浅川さんの強い思いが伝わってきます。

〈浅川〉
私の信条をもう一つ挙げるとしたら、ノーと言わないということでしょうか。私はそのことをモットーに挑戦を続けてきて、その挑戦のすべてが私の役に立っているという思いを強めています。

諦めなければ道は開ける。このことも私の実感ですね。

今回、「出逢いの人間学」というテーマで特集を組まれるそうですが、私はある意味、不幸にも14歳で失明してしまいました。しかし、その失明がきっかけとなっていまの人生が開けたと思っています。

人生の中では幸運に思えること、不運に思えること、いろいろな出逢い、出来事がありますが、それを受け入れて進むことによって、より強かったり、より面白かったりする人生が開けるんだなということを、最近しみじみと感じているのです。

だから、ああ自分は失明してなんて不幸なんだろうとは思わないですね。なぜなら、自分が思っていた以上の人生が開けてきたわけだから。

——その思いで、いまも前進を続けておられる。

〈浅川〉
最初にお話ししたように、ここ数年、地球や人類に劇的な変化が訪れています。気温や豪雨もそうですけど、10年前、20年前と比べて高い頻度で異常気象が発生していることを普通に生活していても実感します。

私はご縁があって未来館館長になり、いまの社会課題、地球が置かれている状況と向き合う立場を与えていただいています。いまこの時代に自分ができることを皆さんと一緒に考え、次の時代によき未来をバトンタッチしていきたいと思っています。


(本記事は月刊『致知』2023年10月号特集「出逢いの人間学」より一部抜粋・編集したものです)

◉本記事では、「失明、そしてIBMの研究員に」「自動点訳システムはこうして生まれた」「素人発想 玄人実行」等、長年、視覚障碍と向き合いながら、科学者、日本科学未来館館長として活動されてきた歩みについてお話しいただきました。浅川さんの歩みからは、予期せぬ不幸に直面した時、それをいかに受け止め、幸せに転換していけばよいのか、その一つの答えを教えられます。本記事の【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】。

 

 

 

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◇浅川智恵子(あさかわ・ちえこ)
大阪府出身。11歳の時の事故が原因で14歳で失明。昭和60年日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所に入社。平成15年米国女性技術者団体殿堂入り。16年東京大学工学系研究科先端学際工学専攻博士課程を修了、博士(工学)取得。21年IBMフェロー就任。25年紫綬褒章受章、米カーネギーメロン大学IBM特別功労教授を兼務。令和元年全米発明家殿堂入り。3年4月、日本科学未来館館長に就任。

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