日本は滅亡する——ベネチアとカルタゴに見る国家滅亡の共通点

 

30余年前、世界の株式時価総額のトップ5はすべて日本企業が占めていましたが、いまやトップ50にすら1社も入っていないのが現実です。高齢化率は世界2位、合計特殊出生率は世界186位、競争力は世界35位、留学生数は世界38位……。既に世界の三流国へと凋落してしまったと、數土文夫さんと月尾嘉男さんは警鐘を鳴らします。問題の原因は何か。いかにして打開するか。日本の未来を大所高所から論じ合っていただきました。

日本は国家滅亡の危機にある

〈數土〉 

月尾さんの著書に書かれているベネチアとカルタゴの国家興亡の歴史は、いまの日本にものすごく教訓を与えてくれていると思います。

〈月尾〉 

ベネチアは1571年にレパントの海戦でオスマン帝国と戦って歴史的勝利を上げます。オスマン帝国は当時、ヨーロッパの東半分と中東、アフリカ北部を支配する世界最大の帝国でした。それに対し、ベネチアは日比谷公園の10倍ほどの面積しかない小さな島国です。なぜ勝ったかというと、オスマン帝国の約300艘そうの軍船を率いる司令官を開戦早々に弓矢で射抜いたからです。

ところが、その230年後にナポレオンが攻めてきて、島の対岸にズラッと大砲を並べて「降伏するか、それとも戦うか」と迫られた時に、侃々諤々の議論をしますが、最終的には降伏してしまう。つまり、世界を支配していたオスマン帝国をも破った国が、230年後には脅しに屈して滅びてしまった。

その理由は大きく3つありますが、それが日本の現状と酷似しています。一つは人口減少。当時のベネチアでは、独身の男子が65%になっていた。いま日本は20代で結婚していない男性が72%です。

〈數土〉 

むしろ日本のほうが悪化している状況です。

〈月尾〉 

また、ベネチアは地中海を制覇する海洋王国で、世界一の造船技術を持っていた。ところが、安心している間にポルトガルやオランダ、さらにイギリスに追い越されてしまった。いまの日本は先ほどから述べてきたように、どんどん後進国に抜かれています。

三番目は地政学的リスクです。ベネチアは地中海という閉じた世界の中心でしたが、ポルトガルが新型の帆船を開発し、船乗りを育て、世界の地図を集め、アフリカ最南端の喜望峰を回ってインドに到達したことで、地政学的な地位が完全に変わってしまい、ベネチアは力を失いました。日本は幸か不幸か、中国・ロシア・北朝鮮という三か国のならず者国家と直面している稀有な国です。

ベネチアがナポレオン率いるフランスに屈服した時の条件とあまりにも重なっていることを、我われ日本人は危機意識を持って認識し、対策を考えないと、同じ轍を踏むことになりかねません。

〈數土〉 

本当におっしゃる通りです。

〈月尾〉 

古代のカルタゴもハンニバルのような優秀な将軍がいたけれども、アフリカ人を傭兵として多く雇っていたことも影響し、最後はローマに滅ぼされます。

〈數土〉 

自分の国は自分で守るという気概のない国は滅びてしまう。これは歴史の教訓ですね。

〈月尾〉 

いまの日本はアメリカ軍を頼りにしているような状態ですが、アメリカ軍がいざという時に中国やロシアや北朝鮮と戦うことを期待してはいけないと思います。

人口減少、技術力の低下、地政学的リスク、そして自国の防衛を他国に任せる、この四つは消滅した国家の共通点と捉え、歴史の教訓に学んでいく必要があります。


(本記事は月刊『致知』2023年9月号「時代を拓く」より一部抜粋・編集したものです)

◎數土さんと月尾さんの対談には、

・日本人の精神性が劣化している

・インテリジェンスに対する幼児性

・リーダーは古典と歴史に学べ

・日本の未来を拓くためにいま求められること

など、再び豊かな国・日本を取り戻すための処方箋が縦横に語られます。詳細はこちら致知電子版でも全文がお読みいただけます】

 

◇數土文夫(すど・ふみお)  

昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17JFEホールディングス社長に就任。経済同友会副代表幹事、日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長を歴任し、令和元年より現職。

◇月尾嘉男(つきお・よしお) 

昭和17年愛知県生まれ。40年東京大学工学部卒業。46年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。53年工学博士(東京大学)。都市システム研究所所長、名古屋大学教授、東京大学教授などを経て平成15年東京大学名誉教授。その間、総務省総務審議官を務める。著書に『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)など。

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