文豪・幸田露伴に学ぶ福を身につける三つの道【渡部昇一】

明治から大正、昭和にかけて活躍した文豪・幸田露伴。数々の名作を生み出す一方で、『努力論』や『修省論』など、人生修養のための随筆を書き残していることはあまり知られていません。それらを座右に置き、自身の人生に生かしてこられた碩学・渡部昇一さん(故人)に、幸田露伴が説く福を身につける極意を紐解いていただきました。

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福を招く心掛け

〈渡部〉
「福や運を論ずるのはあまり高等ではないように思われるが、人が一所懸命努力したり苦労したりするのは福を得るためなのだから、福について考えるのは悪いことではない」

露伴はこう述べます。悪いどころではありません。福についてしっかりした考えと態度を持つことは、これこそ人生の要訣です。

露伴は福を身につける三つの道を示します。「惜福」「分福」「植福」です。

運が巡ってきて福に恵まれます。そこでどうするか。恵まれた福を使い切らず、その福の一部を見えないところを巡っている運にお返しするような気持ちでとっておく。その心掛けが惜福です。

露伴は母親に新しい着物を作ってもらった兄弟を例に述べます。一人は古い着物はまだ着られるのに行李の底に放り込んで黴だらけにし、新しい着物を毎日着てたちまち着崩してしまいます。一人は古い着物は日常着とし、新しい着物は改まった場で着るようにします。前者には惜福の工夫がなく、後者の態度こそ福を惜しむということだ、と露伴は言っています。

「幸運は七度人に訪れる」という諺があります。その一方、自分は非運続き、一度も運に恵まれなかった、と嘆く人がいます。本当にそうでしょうか。

七度訪れるかどうかは別にして、仔細に見れば、運と全く無縁の人などいるはずがありません。問題は、微かにでも巡ってきた運を感じ取り、有り難く受け止めることができるかどうかです。どのようなものであれ、自分に巡ってきた運を感じ取り、感謝する。この心が惜福を心掛け、惜福の工夫をする土台になります。

惜福は自分に来た福をどう扱うか、言ってみれば自己一身の問題で、どちらかと言えば福に対処する消極的側面です。しかし、これだけでは十分ではありません。自分に来た福を他に及ぼしていく積極性がなければならない、と露伴は述べます。それが分福です。

自分に来た福を自分で使い切らず、いくらかは分けていく。分福は特に人の上に立つ者にとっては不可欠の心掛けだと言えましょう。

惜福と分福。この二つは同じように心掛け、工夫するものであって、どちらか一方に偏しては自分に来た福をさらに膨らまし、永続させていくことはできません。幸田露伴はそのことを豊臣秀吉と徳川家康を例に述べています。

秀吉は臣下に惜しみなく知行地を与え分福には十分で、それ故にいち早く天下人の地位を確立したのですが、惜福には欠けていて、それ故に短期政権で瓦解してしまいました。

家康は惜福は十分でしたが、直臣の旗本には大きな知行地は与えず、分福にはいささか欠けるところがありました。それが維新期に政権が持ちこたえられなかった一つの因となりました。

歴史上の人物が例とは大袈裟に感じられるかもしれませんが、これを自分の状況に引きつけて考えれば、惜福分福の心掛けと工夫とは何かがよく分かります。

 惜福分福は自分に来た福への対処の問題です。だが、福に対して受け身であるだけでは、万全とは言えません。いつになるかは分からない。どこに行くのかも分からない。だが、いつか誰かに巡っていく福の種を蒔き、幼木を植えておく心掛けと工夫があってこそ、福は万全のものになる、と言えましょう。それが植福です。

「福を論じて最も重要なのは植福である」

と露伴は言い、一本のリンゴの木を譬えにして説明しています。

リンゴの木を植え、適宜剪定をして木を長持ちさせるのは惜福です。そうして豊かに実った果実は自分が味わうのはもちろんですが、自分だけでなく他にも分けて楽しみます。分福です。

さらにリンゴの種を蒔き、幼木を育ててリンゴの木を増やしていきます。増やしたリンゴの木がつける果実を、自分は味わえないかもしれません。だが、子や孫と次の世代がそのおいしさを堪能できるのは確かです。これが植福です。植福とは福を作り出すことなのです。これを繰り返せば、「無量無辺の発生と産出とを為す」と露伴は言います。

私たちはいま、人類の歴史にかつてなかった高度な文明に包まれ、豊かさを享受して暮らしています。この幸運に巡り合えたのはなぜでしょうか。先人の植福のおかげであることに気づくのは容易です。先人が繰り返してきた植福の営みが無量無辺の発生と産出となり、その蓄積が豊かな文明となって、私たちに恵みを与えているのです。

こう考えてくると、植福は自分や家族といった個人的な生きる営みの要訣というだけではなく、国家が、人類が歴史を積み重ねていく上での要訣でもあることが分かります。


(本記事は月刊『致知』2016年10月号 特集「人生の要訣」より一部抜粋・編集したものです)

◎渡部昇一さんからの応援メッセージ◎

『致知』と私の関係は、現社長の藤尾さんが若い編集者として私に物を書かせようとして下さったことからはじまる。藤尾さんは若い時から「自ら修養する人」であった。私も修養を重んずる人間であることに目をつけて下さったらしかった。

それから35年経つ。その間に私は老いたが、『致知』は逞しく発展を続け、藤尾さんには大社長の風格が身についた。発行部数も伸び、全国各地に熱心な愛読者を持つに至った。心からお慶び申し上げたい。

老人になると日本の行く先をいろいろ心配したくなるが、その中にあって『致知』の読者が増えてきていることは大きな希望である。部数がもう3倍になれば日本の代表的国民雑誌と言ってよい。創刊38周年の後は、創刊50周年を祝うことになるわけだが、その時には代表的国民大雑誌になっていることを期待します。

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 ◇渡部昇一(わたなべ・しょういち)
昭和5年山形県生まれ。30年上智大学大学院西洋文化研究科修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。平成13年から上智大学名誉教授。29年逝去。 

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