イベルメクチン開発者・大村智さんは、音楽が大嫌いだった??【大村智×大庭照子】

寄生虫病などに罹った数億人の命を救ってきた特効薬イベルメクチンを開発し、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智さん。人生の山坂にも屈せず、日本の心を伝える童謡の普及に情熱を傾け続けてきた歌手の大庭照子さん。「世のため人のため」という志を胸にそれぞれの道を深めてきたお二人が語り合う、忘れ得ぬ出逢い、糧にしてきた言葉や教え、越えてきた艱難辛苦、その中から紡がれてきたわが人生の詩とは――。

音楽が好きになった理由

〈大村〉
きょうは大庭さんとの対談とのことで、初めて告白することがあるんです。実は私は子供の頃からひどい音痴で、音楽が全くだめだった。音楽の試験でも、私が歌い出すと先生が笑ってピアノが弾けなくなるくらい。そんなこともあって、音楽を聴くだけで身震いするようになったんです。

ところが、その後、音楽を好きになるきっかけがいくつかありましてね。一つは大庭さんです。

〈大庭〉
え? まさか!

〈大村〉
家内と結婚する時、自分は歌が歌えないから教えてくれないかと頼んだら、「いいよ」って約束してくれました。ところが、ちっとも教えてくれないなと思っていたら、さっきの話にもあったように、大庭さんの音楽会に連れていってくれたんですよ。そして大庭さんが歌う童謡に接して、初めて音楽のよさが分かったんです。

〈大庭〉
そうおっしゃっていただけて、ものすごく嬉しいですね。

〈大村〉
二つには、童謡『春の小川』を聴いて、川のせせらぎなどの音が、人の心を安らかにすることがあるんだと分かって、音楽についてより関心を持って調べたり、聴いたりするようになりました。

そして三つには、同窓会の出来事です。私は仕事が忙しくて故郷にはほとんど帰らなかったのですが、大きな賞をいくつかいただいた60歳頃、中学の同窓会に呼ばれましてね、その席で皆が『ふるさと』を歌ってくれたんです。

〈大庭〉
ああ、『ふるさと』を。

〈大村〉
最後の「志を果たしていつの日にか帰らん」のところに差し掛かった時、「志を果たして早く故郷に帰って来いよ」と皆に慰められている気がして、思わず涙が溢れました。それから私は、忙しい中でも時間を見つけては故郷に帰るようになったんです。

いまではすっかり音楽が好きになって、夜寝る前にも聴いていますし、音楽のおかげで故郷も大事にするようになった。そのきっかけをつくってくださった大庭さんには、本当に感謝しています。

よき縁はよき縁を呼んでくる

〈大村〉
大庭さんとのご縁もそうですけれども、これまでの人生を改めて振り返ってみますと、やはりよき縁はよき縁を呼んでくることを身をもって実感しています。そしてよき言葉との出逢いもまた人間をよき方向へと変えていく。

私は北里研究所の副所長になった頃から、大勢の前で話をしなくてはいけないとのことで、人間をつくるための勉強を真剣にやり始めたんですね。そのために様々な本を読み、出逢った言葉や教えを書き留めてきました。特に愛読する『致知』にはよき言葉・よき教えがたくさん紹介されていて、うんと勉強になります。それがもうこうして3冊目になりました。

〈大庭〉
そうした努力を持続なさることが、大村先生の才能ですね。

〈大村〉
例えば、『致知』でもよく紹介される安岡正篤師の言葉「縁尋機妙 多逢聖因」。これはまさにいま私が言ったように、よき縁がさらによき縁を尋ねて発展していく様は誠に妙なるものがある、よき人に交わっていれば、よき結果にも恵まれるという意味ですね。

それから、強く思うことは実現していくという意味の道元禅師の言葉「切に思うことは必ず遂ぐるなり」も大事にしています。私も「これを絶対に発見したい」と切に思い続けていたから、ノーベル賞に繋がる発見ができました。

あと、これも『致知』からですが、京都大学元総長・平澤興先生の「夢を持て、希望をもて、夢を持たぬ人生は、動物的には生きていても人間的には死んでいる人生」という言葉もいいですね。

後進や子供たちに、ただ「夢を持て」と伝えるよりも、平澤先生の言葉を紹介しながら、「夢を持たないと人間じゃないぞ」って言うと、やはり反応が違うんです。

〈大庭〉
しかし、言葉をキャッチする大村先生の力、感受性というものは本当に素晴らしいですね。

〈大村〉
習慣になっているんですよ。夜寝ながら本を読んでいても、よき言葉や教えに出逢うと、ぱっと起きてノートに書き留めます。習慣ほど強いものはありません。

ですから、このノートは私のもう一つの脳であり、宝物です。


(本記事は月刊『致知』2023年6月号 特集「わが人生の詩」より一部を抜粋・編集したものです)

◎本対談には
・故郷の眺望が自分を養ってくれた
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◇大村智(おおむら・さとし)
昭和10年山梨県生まれ。33年山梨大学学芸学部卒業。38年東京理科大学大学院理学研究科修士課程修了。40年北里研究所入所。米国ウェスレーヤン大学客員教授を経て、50年北里大学薬学部教授。北里研究所監事、同副所長等を経て、平成2年北里研究所理事・所長。19年北里大学名誉教授。20年北里研究所と北里学園との統合により北里研究所名誉理事長(現在は北里大学特別栄誉教授)。27年ノーベル生理学・医学賞受賞。著書に『人をつくる言葉』(毎日新聞出版)『ストックホルムへの廻り道 私の履歴書』(日本経済新聞出版社)など。

◇大庭照子(おおば・てるこ)
昭和13年熊本県生まれ。35年フェリス女学院短期大学音楽科声楽科専攻科卒業。46年NHK「みんなのうた」で『小さな木の実』を歌い童謡運動家の道へ進み、「大庭照子のスクールコンサート」を全国で開催。3000校以上の学校を回る。現在はNPO法人日本国際童謡館館長として童謡を広める活動に力を尽くしている。

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