「カメラのキタムラ」をV字回復させた4つの戦略

2016年、創業以来初の赤字を計上したキタムラの事業の継続と従業員の雇用の継続を条件に再建を託された武田宣さんは、同社を僅か1年でV字回復へと導きました。覚悟を持って取り組んだその道のりには経営と仕事の極意が詰まっています。

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強みを生かしていく

〈――再建に当たって何から着手を。〉

〈武田〉 

まずは、キタムラの皆さんの思いを理解していこうという姿勢が最も重要でした。自分がやるというよりも、問題提起をして皆さんに考えてもらい、お任せしたということは成功の秘訣だったと思います。

その上で大きくは四つに着手してもらいました。

一つはとにかく会社を筋肉質に変えること。

「スリムマッチョ戦略」と言っていますが、いままでのやり方を見直し、無駄を削ぎ落として会社を健康体にする。そのために仕事の中身を数値化しようと皆に考えてもらいました。

健康診断と同じで「肝臓悪そうですね」と言われてもぴんとこないけども、数値を出されたら「これはやばい」と思うでしょう? 

キタムラの社員も、どうも調子が悪いなと思っていたはずなのに何が悪いのか分かろうとはしなかった。そこで、不採算事業の細かいデータや、生産拠点の効率など洗い出すことで、徹底的に無駄を省いていったんです。

しかもそれを一方的に進めるのではなく、データを元に社員との綿密なコミュニケーションを重ねたことで、会社を高利益体質に生まれ変わらせることができました。

二つ目はデジタル化。

これには特に力を入れました。もともと当社の強みとして、ECサイトの売り上げやネットの関与率が非常に高いことがありました。この強みを生かすために、属人化してしまっていた仕事、例えばカメラの査定をデジタル化して誰でもできるようになりました。

これによって中古カメラの再利用に関する事業を伸ばすなど新たな道が見えてきたんです。

〈――いままでの強みを生かしながら改革を進めていかれた。〉

〈武田〉 

そして三つ目が、マーケティングとブランディング。

この新宿 北村写真機店の立ち上げもその一つですが、同じ新店舗をつくるならカメラといえば新宿。新宿にカメラを見に行くなら必ず北村写真機店に行ってみよう! と思われる店をつくろうと思いました。

そして、テレビCMもこれまでよりも社員が誇りを持て、企業イメージが上がりユニークなものを企画してもらいました。そうすると自然と社員のモチベーションも上がるわけです。

四つ目は社員の働き方改革です。

それぞれの店舗ごと、各人ごとに業績評価指標を設定し、目標設定を明確にしました。その中で業務のマルチタスク化は大きな成果があったと感じます。

例えば、カメラのキタムラとスタジオマリオを別々のスタッフが運営するのではなく、どちらのスキルも身につけてもらい、マルチタスクを通してお互いに技術やサービスを高め合っていく。これによって接客の質も生産性もお互いの理解も向上しました。

この構造改革フェーズで減収ながらしっかりと利益体質が確立できました。

会長に就任した2017年は全体の売り上げは減収したものの、増益・黒字化を実現。北村さんとの約束の通り雇用も守り、同じメンバーで再建に導くことができたのは、ひとえに頑張ってくれたキタムラの皆のおかげです。最初の数年は減収増益が続きましたが、ここ数年は確実に増収増益に転換し右肩上がりを続けています。


(本記事は月刊『致知』2023年5月号「不惜身命 但惜身命」一部抜粋・編集したものです)

◎武田宣氏の記事には、

・「物」を売るのではなく、「文化」を発信する

・経営者としての基礎を築いた銀行員時代

・与えられた二つのミッション

・コロナ禍だからこそいまできることをやる

・会社の命を輝かせる道

など、困難な中でも社業を隆盛、発展させていく経営の極意が満載です。本記事の詳細・ご購読はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

◇武田宣(たけだ・のぶる)
昭和36年大阪府生まれ。59年関西学院大学を卒業し、近畿大阪銀行に入行。平成15年ソウ・ツー社長就任。26年カルチュア・コンビニエンス・クラブ副社長就任。29年キタムラ会長就任。令和元年キタムラ・ホールディングス社長就任。

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