一晩で10万人が犠牲になった東京大空襲の記憶を後世に——エイドリアン・フランシス氏

1945年3月10日未明、アメリカ軍の爆撃機による無差別絨毯爆撃によって、一晩で10万人以上もの一般市民が亡くなった東京大空襲。しかし、その悲惨な事実を詳しく知っている人はどれほどいるでしょうか。ドキュメンタリー映画「ペーパーシティー東京大空襲の記憶ー」を制作したオーストラリア人の映画監督、エイドリアン・フランシスさんに、当時を知る体験者の生々しい証言を交え、過去を知り、平和な未来をつくっていく大切さをお話しいただきました。

 

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東京大空襲を知らない日本人

〈エイドリアン〉

1945年3月10日の未明、300機を超えるアメリカ軍のB29による無差別絨毯爆撃によって、東京の4分の1、下町一帯は焼け野原になり、一晩で10万人を超える人々が亡くなりました。〝東京大空襲〟です。しかし、この民間人を標的にした史上最大の空襲について詳しく知っている日本人は、いまどれほどいるでしょうか。

オーストラリアの大学で映画制作を学んだ私が、日本人のボーイフレンドと共に来日したのは20年ほど前のことでした。そして、一度オーストラリアに戻り、大学院でドキュメンタリー制作を学んだ後、再び来日。以後、映画監督と英語教師をしながら生活してきました。

そのような中、日本でも公開されたアメリカのドキュメンタリー映画「THE FOG OF WAR(マクナマラ元米国防長官の告白)」を観て、東京大空襲のことを知ったのです。民間人がひと晩で10万人も殺されたこの事実に私は大変な衝撃を受けました。

ところが、周りの日本の友人や知人に尋ねても、詳しく知る人はほとんどいません。まして都内には原爆ドームのような、東京大空襲の事実を後世に伝えるためのきちんとした施設も、被害の痕跡を残す建物もありません。このことが不思議でなりませんでした。

例えばヨーロッパでは、第二次世界大戦で被害に遭った建物を保存したり、その場所に追悼施設や資料館を建てたりするのが一般的です。2001年のアメリカ同時多発テロにおいても、世界貿易センタービルの跡地には、犠牲になった方々の名前を刻んだモニュメントなどがつくられています。

東京大空襲の記憶が忘れ去られたのはなぜなのか。その真実を知りたいとの思いで2014年、私はドキュメンタリー映画『ペーパーシティ―東京大空襲の記憶―』(以下『ペーパーシティ』)の制作に取り掛かったのでした。

 

制作は東京大空襲の体験者に取材することから始まりました。東京大空襲の遺族会の事務所を訪ねたり、空襲に関連する集会に参加したりしながら、15人ほどの体験者に話を伺っていきました。

当初は、空襲時の体験談を中心としたドキュメンタリーにする計画でした。しかし、取材を進めていくにつれて、体験者や遺族の方々が、戦後から現在に至るまで東京大空襲で受けた被害の補償や慰霊碑・追悼施設等の設立を政府や都に働きかけていることを知り、その運動についても取り上げなければ真実は伝わらないと考えるようになりました。ですから、『ペーパーシティ』では、体験談と共に、補償を求める運動についてもありのままに紹介しています。

制作を通じて空襲を体験された方の生々しい証言に接し、当時の惨状がまるで目の前に蘇ってくるかのようでした。映画にご登場いただいた星野弘さんは、空襲時は14歳。一緒に訪れた東京・墨田区にある錦糸公園のベンチに腰掛けた星野さんは、「このあたりは全部遺体だった」と、辛い体験を静かに語ってくださいました。

東京大空襲の体験談を語り継ぐ星野弘さん(錦糸公園にて)

錦糸公園は空襲で亡くなった人たちの遺体が集められ、仮埋葬された場所でした。星野さんは遺体を鉤のついた棒で川から引き上げる作業を手伝うことになり、その際に引き上げた目を見開いて亡くなっていた母子のことがいまも忘れられないそうです。またトラックの荷台に積まれて運ばれてきた遺体が公園の敷地内に山積みにされ、一つの穴に数百の遺体が入れられる光景も目にしています。実際、錦糸公園には約1万3000千人もの遺体が仮埋葬されたのです。

現在の錦糸公園では、親子が楽しそうに遊んでいる微笑ましい光景が広がっていますが、おそらく78年前の怖おそろしい光景を思い浮かべる人はほとんどいないでしょう。少し前に錦糸町の中学校で東京大空襲および錦糸公園の話をさせていただきましたが、生徒たちからは一斉に「えーっ」という驚きの声が上がりました。先の大戦についても、「日本とオーストラリアはどのような関係でしたか」と質問したところ、「友達だった」という返事もありました。つまり、学校教育で戦争のことをきちっと教えていないのです。

一方、ドイツでは、ナチズムの台頭を許した反省から、先の大戦について非常に詳しく子供たちに勉強させています。日本も過去の戦争で何があったのか、もっと真剣に次世代に伝えていくことが必要なのではないでしょうか。


★(本記事は月刊『致知』2023年5月号「不惜身命 但惜身命」一部抜粋・編集したものです)

◎エイドリアン氏の記事には、

・目の前に蘇る大空襲の記憶

・過去の悲劇を知ることが、いまの過ちを防ぐ力になる

・『ペーパーシティ』のタイトルに込める思い

など、東京大空襲に関する壮絶な体験談、そしてこの悲劇から私たちが学ぶべきことをお話いただきました。本記事の詳細・ご購読はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

◇エイドリアン・フランシス(Adrian Francis)

1974年オーストラリア生まれ。メルボルン大学でドキュメンタリー映画を専攻し、2008年から東京を拠点に活動。短編ドキュメンタリー『Lessons from the Night』がサンダンス映画祭でプレミア上映。2010年ベルリン映画祭のタレントキャンパスに招待された。初長編映画『ペーパーシティ』は、メルボルン・ドキュメンタリー映画祭で2つの賞を受賞、東京ドキュメンタリー映画祭で観客賞を受賞。

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