日本経済を衰退させた「自損型輸入」と「コスパ病」とは——小島尚貴

 

 

「失われた30年」といわれる長期経済停滞に苦しんでいる日本。その一因には、過度に安い商品を追い求める「コスパ病」、そして日本の産業を衰退させる「自損型輸入」の存在があると、長く貿易現場に携わってきた小島尚貴さんは語ります。日本を亡ぼす「コスパ病」「自損型輸入」の驚くべき実態、そこから脱却して豊かな経済大国・日本を取り戻す処方箋とは――。

日本人が日本を衰退させている

〈小島〉

私は福岡を拠点に、主に九州の中小・零細企業の製品を海外に売り込む輸出業に携わっています。

輸出といえば、企業がさらなる販売機会を求めて海外市場に挑戦する積極的な意味合いを持つ言葉だと思いますが、近年は「国内の事業が低迷しているため、海外に販路をつくれないか」と、消極的な動機から輸出を検討する企業も少なくなく、私は「座して衰退を待つより、輸出で少しでも地方を活性化できれば」という思いで携わってきました。

しかし、いくら私が孤軍奮闘しても、活性化はおろか、衰退の阻止さえ不可能なのではないかという危機感が年々強まるばかりです。そもそも、なぜこんなにも国内販路が減少して苦境に立たされているのか。そこには、個々の企業の経営努力だけでは対処できない問題があることに気づいたのです。

それは、私が輸出している地方の国産品よりもはるかに安い価格で、類似製品を日本市場に大量に持ち込む多くの「日本人輸入業者」の存在です。

例えば、私が「一個1000円の陶磁器を100個」輸出しても、彼らが製造コストの安い国でつくった「一個100円の陶磁器を1000個」輸入すれば貿易収支は差し引きゼロになります。しかも、その陶磁器は日本に輸入するためだけに、日本で人気のデザインや色を巧みに模倣しています。

そうして消費者は、似た物で機能が変わらないなら1000円の国産品よりも100円で買えるほうが「お得だ」「コスパ(コストパフォーマンス)がいい」と言って、100円の輸入品を選びます。

国産の陶磁器はその価格差に苦しみ、受注のために取引先からの値下げ要求に応えるという後ろ向きの経営努力を求められます。その一方で、輸入業者は業界と産地を圧迫し、自国経済に損害を与えながらも、自社だけは得をします。

このように、日本人が日本の技術・設備を人件費と製造コストの低い国に持ち込み、日本人が作成した仕様書と日本人が指定した原材料によって安価な製品を製造し、「日本市場のみ」に向けて輸入販売することで、日本各地の産業を衰退させる構造を持つ貿易手法を、私は自著『コスパ病』の中で「自損型輸入」と名付けました。

これらの製品は原材料の生産、栽培、加工、製造工程において日本に一円の経済効果ももたらさず、安さと機能性を兼ね備えた「コスパ」を武器に国内のあらゆる業界を圧迫してきました。

実際、業界シェアランキングを見ても、自損型輸入を行う均一ショップや衣料品、生活雑貨、家具、作業用品関連業者が上位に名を連ねています。

消費者は嬉々としてコスパを求めて「和製メイド・イン・チャイナ」の製品を買い漁り、メディアもそれを「プチプラ(低価格を表す俗語)」などと言って持て囃しています。

何千万人という消費者が、こぞって自損型輸入製品を買い漁ってきたことによって、私が拠点とする九州だけでも既に多くの産業と産地が衰退し、消滅の瀬戸際に追い詰められつつあります。


★(本記事は月刊『致知』2023年3月号連載「意見判断」より一部抜粋・編集したものです)

◎小島尚貴さんの記事には、

  • 日本人同士が戦う「日日経済内戦」
  • 非社会的商品が文化を破壊する
  • 過度のコスパ追及をやめ、本来あるべき消費を
  • 確かな人間観、国家観が豊かな日本をつくる

など、日本が貧しい真因を探り、真に豊かな社会を実現する方策が語られます。本記事の詳細・ご購読はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

 

◇小島尚貴(こじま・なおたか)

昭和50年福岡県生まれ。西南学院大学を中退し、マレーシアの貿易会社に入社。帰国後は経済誌の記者として働き、平成13年に独立。輸出業を中心に45か国を訪問し、マレーシア、セルビア、香港の企業の役員等を経て、23年より福岡県を拠点に輸出・国際技術移転事業を手掛ける。現在は熊本県八代市など、九州の自治体、経済団体の貿易アドバイザーも務める。著書に『「コスパ病」貿易の現場から見えてきた「無視されてきた事実」』(Kindle Direct PublishingKDP〉)がある。

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