2023年05月03日
日本の国歌である「君が代」。その原歌が千百年前の『古今和歌集』に収録された、愛する人の長寿と幸せを願う歌であることを知っている人はそう多くはないでしょう。アメリカ人弁護士の立場から日本の素晴らしさを伝え続けるケント・ギルバートさんと、〝博多の歴女〟として活躍する白駒妃登美さんに、「君が代」に込められた先人たちの本当の思いを説き明かしていただきました。
「君が代」のベースは愛
〈白駒〉
私自身、戦後教育の真っ只ただ中なかで育ったので「君が代」についてはあまりいいイメージを持っていませんでした。ところが、いまから十数年前、致知出版社から刊行されている東洋思想家・境野勝悟先生の『日本のこころの教育』を拝読して驚いたんです。
日本人がなぜ「こんにちは」「さようなら」と挨拶を交わすのか、それから「お父さん」「お母さん」の語源は何か、あるいは日本の国旗がなぜ「日の丸」で、国歌が「君が代」なのか。それらの答えがすべてこの本に書かれてありました。
私たち日本人が当然知っていなくてはいけないことなのに、誰も彼も無関心でやり過ごしてきたことを境野先生は20年以上の歳月をかけてお調べになったんです。
〈ギルバート〉
そういう立派な先生がいらっしゃるのですね。
〈白駒〉
私はこの本を読んだ時、自分は日本に暮らしているだけで、本当の意味で日本人ではなかった、この本のおかげで日本の心を理解できて、ようやく日本人になれたと思ったんです。大人の私でさえこんなに感動するのだから、子供たちが知ったらきっとその後の人生が変わるはずだと思った私は、境野先生のご許可をいただいて、いろいろな学校で日本の心についてお話をするようになりました。
本日のテーマである「君が代」は、いまから1000年以上前に編纂された『古今和歌集』に出てくる和歌がそのベースになっています。その歌がずっと日本人に愛され、歌い継がれてきて、明治になると国歌として歌われるようになりました。それだけの長い歴史があることに私はまず驚いたんですね。
二つ目の驚きは、『古今和歌集』に出てくるこの歌に込められた詠み人との思いです。その歌は「きみがよは」ではなく「わがきみは」という言葉から始まります。
わがきみは
ちよにやちよに
さざれいしの
いはほとなりて
こけのむすまで
「わがきみ」は当時、主に女性が愛する男性を呼ぶ時に使われた言葉です。つまり夫婦や恋人など親愛の情を持つ相手に向けた呼び名が「わがきみ」なのです。
「愛するあなた、あなたの命がいつまでもいつまでも長く続きますように。たとえば、小さな石が年月が積もり積もって大きな岩となり、その岩の表面に苔が生えるまで、そのくらいあなたの命が長く続きますように。そしてあなたがずっと幸せでありますように」という「愛の歌」だったんです。
しかも、そこには「自分を愛して」という言葉はひと言も出てきません。ひたすら愛する人の長寿と幸せを祈るという究極の利他の心が溢れているところに感動し、胸がいっぱいになりました。
〈ギルバート〉
白駒さんがお話しになったように、「君が代」の原歌は「題知らず、詠人知らず」の賀歌(がのうた)(長寿を祝う算賀の歌)といわれていますね。
〈白駒〉
境野先生の研究によると、「わがきみは」が「きみがよは」に変わったのは平安時代中期に編纂された『和漢朗詠集』からだといいます。私は「わがきみ」が「きみがよ」となったことである種、和歌が翼を得た気がするんです。「わがきみは」と個人的な感情を歌ったものが「きみがよは」になることで、自分が尊敬すべき人、例えば一族の長老などに「あなた様の御代がずっと続きますように」という祈りを込めた歌として広まったのではないでしょうか。
もちろん、人間はいつかは死ぬわけですから一人の御代がずっと続くわけではありません。しかし、肉体は滅んだとしても、その人の思いを新しい時代の人々が受け継げばその人は永遠の命を保つことができます。いわばこの歌は「あなたの魂を受け継ぎます」という決意表明の歌とも読めるんですね。
(★本記事は、月刊『致知』2022年7月号「これでいいのか」掲載記事を一部を抜粋・編集したものです)
◉本対談では、
・「明治時代にできた五種類の『君が代』」
・「『君が代』はなぜ歌われなくなったのか」
・「戦後の日本を救った日本の国柄」
など、「君が代」を通して日本を深く理解するヒントが満載です。【詳細・購読はこちら】
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◇ケント・ギルバート
Kent Sidney Gilbert――1952年アメリカアイダホ州生まれ。1971年ブリガムヤング大学在学中に宣教師として初来日。1980年ブリガムヤング大学大学院を卒業。米国の弁護士資格を取得して、国際法律事務所に就職し、法律コンサルタントとして来日。1983年テレビ番組「世界まるごとHOWマッチ」にレギュラー出演し、人気タレントとなる。現在は在日米国人法律家の視点から日本の政治、文化、歴史問題等について活発な言論活動を展開。著書に『天皇という「世界の奇跡」を持つ日本』(徳間書店)『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所)など多数。
◇白駒妃登美(しらこま・ひとみ)
昭和39年埼玉県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本航空に入社し、平成4年には宮澤喜一首相訪欧特別便に乗務。24年に㈱ことほぎを設立、講演活動や著作活動を通じ、日本の歴史や文化の素晴らしさを国内外に向けて広く発信している。天皇陛下(現在の上皇陛下)御即位三十年奉祝委員会・奉祝委員、天皇陛下御即位奉祝委員会・奉祝委員を歴任。現在、教育立国推進協議会のメンバーとして活動中。著書に『子どもの心に光を灯す日本の偉人の物語』『親子で読み継ぐ万葉集』(共に致知出版社)など多数。昨年「君が代」をテーマにした絵本『ちよにやちよに』(文屋)を刊行。
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