「無作為の作為」一億円の盆栽をつくる男・小林國雄氏が追い求める理想の盆栽とは

 

日本を代表する盆栽作家・小林國雄さん。人よりも10年以上遅く28歳の時に独学で修業を始めたにも拘らず、持ち前の貪欲さと素直さで日本盆栽作風展にて最高賞の内閣総理大臣賞に4度も輝き、文化庁長官表彰を受賞した名匠です。何と一鉢1億円の値がつくほどの作品を生み出します。そんな小林さんが語る理想の盆栽とは――。

盆栽の理想、無作為の作為

――この道一筋に歩み来て約50年になる小林さんにとって、盆栽の魅力とは何ですか?

〈小林〉
ひと言で表現すれば、命の尊厳です。これしかないですね。

草花はすぐに枯れてしまうけど、盆栽は何百年も生き続ける命の尊厳があるから面白いし、奥深さがあります。例えば、幹の一部が枯れて白くなってしまっても、僅かに生きている幹で水を吸い上げ、そこから出る芽は青々としている。つまり、生きている部分と死んでしまった部分が同居している。

フランス文学者で美術評論家でもある栗田勇先生は、「盆栽は時間経過の芸術だ」と言っています。時間が経てば経つほど、味が出てくる。それが盆栽の魅力ですね。生きているということは常に変化成長していく。だから盆栽に完成形はないんです。一刹那、一刹那にもののあわれがある。

40年以上やってきて、ようやく盆栽の魅力に気づき、本質が見えてくるようになったと思います。

――長年一筋に打ち込むことで、見えてくる世界があるのですね。

〈小林〉
よい盆栽には品格と存在感があるんです。綺麗な盆栽は誰が見ても分かりやすい。だけど表面的な美しさよりも、内に秘めた力というか内面の厳しさや美しさが出ている、そういう品格と存在感、味のある盆栽のほうが面白い。

盆栽には150くらいの樹種があります。黒松とか真柏とかね。何が好きって聞かれたら梅が好きって答えるんです。厳しい寒さや風雪に耐えて、皮一枚だけで生きている。朽ち果てても春になると若い芽がすっと伸びる。そこに凛とした花が咲く。馥郁(ふくいく)たる香りがするでしょう。まさに命の尊厳を感じ取れるんですよ。

――この春花園には盆栽のお墓もあると伺いました。

〈小林〉
一鉢1億円の値がつく盆栽をつくる一方で、これまでに枯らしてきた盆栽も全部で1億円以上あるんです。一画にそのお墓をつくっていて、年に一回お坊さんを呼んで供養しています。

申し訳ないという思いですね。もっと早く発見して治療をすれば助かった盆栽もあるわけですから。私の怠慢というか、若い弟子に任せて自分が関われていない、目が行き届かなくて枯らしてしまう。中にはなぜ枯れたのかよく分からない盆栽もありますけど、枯らした原因は突き詰めれば私にある。

そうやって失敗から学ぶんです。これが一番の成長の近道だと思います。樹をたくさん枯らさなきゃよい盆栽作家にはなれません。

――数多く挑戦し、失敗の原因を自分に求め、学んでいく。

〈小林〉
もう一つは私の業(ごう)ですよ。業の深さ。

例えば、ここまで枝が曲がった。もっと曲がったらもっと綺麗になる。もっと綺麗にしてやろう。そういう私の業で手をかけ過ぎてしまって、枯らしちゃうことがあります。

ただ、美に憑かれる業がつくり手になければ、美しいものは絶対にできません。どうしたらもっとよいものができるか、いつもそれを貪欲に探求しています。

――業は必要だけれど、深すぎてもいけない。バランスが大事だと。

〈小林〉
弟子たちにも「好奇心がなきゃいけない」って言うんです。あらゆるものに好奇心を持って、見て盗めと。盆栽だけやっていてもダメで、絵とか彫刻とか写真、いろいろな一流のものに触れて、感性を磨かなきゃいけない。つくり手が感性を磨かずしてどうしてよい作品が生まれるでしょうか。

私は人間国宝の作品だけでも50点くらい持っていました。この美術館をつくる時に全部売っちゃったけど、飯塚小玕斎(しょうかんさい)の竹籠とか横山大観の富士の絵とか、やっぱり本物には感動がある。

だから私も、単に「綺麗だな」「癒やされるな」で終わるんじゃなくて、心が動かされてエネルギーをもらえるような味のある盆栽、人が感動する作品をつくりたいとつくづく思っています。

ただその時によく見せようって欲が出ると、どうしてもいやらしくなってしまう。「美は乱調にあり諧調(かいちょう)は偽りなり」という言葉もあるように、つくり過ぎちゃダメなんです。無作為の作為、これが理想ですね。


(本記事は月刊『致知』2023年3月号 特集「 一心万変に応ず」より一部抜粋・編集したものです)

◎小林國雄さんのトップインタビューには、

○盆栽は天職であり、趣味であり、生きがい

○最終的な決め手は作家の感性と人間性

○盆栽界の頂点から奈落の底へ

○伸びる人に共通する三つの条件

○盆栽も人間も同じ 逆境や試練で鍛えられる

など、盆栽の道を極める中で掴んだ人生・仕事の極意、成長し続ける要諦を余すところなく語っていただいています。本記事の詳細・ご購読はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

 

◇小林國雄(こばやし・くにお)
昭和23年東京都生まれ。都立農産高等学校園芸科卒業後、家業の園芸農家へ。51年盆栽作家の道を志す。平成元年に日本盆栽作風展で「内閣総理大臣賞」を受賞したことを皮切りに、同賞を4回受賞、皐樹展で「皐樹展大賞」を6回受賞。国風盆栽展において「国風賞」を16回手掛け、200人以上の入選者を育てる。14年春花園BONSAI美術館開館。令和2年文化庁長官表彰。盆栽と水石を飾る作法「景道」の家元三世を4年に継承。最新刊に3部作の集大成となる『盆栽芸術』(アジア太平洋観光社)。

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