2023年04月03日
新入社員でも意識は社長になれ! 上司は使うもんや!――松下電器産業(現・パナソニック)の創業者・松下幸之助の訓話は刺激に満ちていました。長年松下氏から直接薫陶を受け、松下電器と松下政経塾で活躍した上甲晃氏が見聞きしてきた、フレッシュマンに贈る金言の数々をご紹介します。
〈写真提供=上甲晃氏〉
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人生の土台となった「神様」の教え
〈上甲〉
20代に限らず、私が人生で最も影響を受けたのは、松下幸之助に他ならない。大学で様々な専門の知識を勉強したが、本当の生き方を教えられたのは会社に入ってからであり、もっと言えば、松下幸之助と出逢ってからである。
とりわけ心に深く刻まれているのは新人研修での訓話だ。正確な言い回しは忘れてしまったが、「君らな、僕がいまから言う2つのことを守り通したら、松下電器の重役になれる」といったような前置きをした上でこう言った。
「一つは、いい会社に入ったと思い続けられるかどうかや」
誰でも入社したばかりの時はいい会社に入ったと思う。しかし、嫌な上司がいたり、意に沿わない仕事をさせられたり、様々な不遇に遭う。それでもなお、いい会社を選んだと心から思えるかどうかはすごく大事なことだ、と。
「人間、9割は自分ではどうにもならない運命のもとに生きている。その運命を呪ってはいけない。喜んで受け入れる。すると、運がよくなる」
とも教えられた。世に数百万社あるといわれる中で、この会社に入ったというのは、縁や運としか言いようがない。その自分の運命を呪わず、前向きに喜んで受け止めていくと人生は好転する。
これは会社のみならず、生まれた国や自分の容姿など、あらゆる境遇に当てはまると学んだ。
「もう一つは、社会人になってお金が一番大事と思ったらあかんぞ。もちろんお金も大事やけどな、お金は失くしても取り戻せるんや。しかし、人生にはこれを失うと取り戻すのに大変苦労するものがある。それは信用や。信用を大事にせなあかん」
この2つの言葉に強烈な衝撃を受けた。同時に、私の社会人生活の基本、考え方の根っこになった。不思議なもので、後年同期にこの話をしたところ、皆覚えていないと言う。当時の私は松下電器に入社したからには、重役になろうと思って真剣に聞いていたのだろう。そこだけ鮮明に記憶していた。
どういう意識で過ごしているか、すべては受け手の姿勢次第なのだとつくづく感じる。
意識は社長、上司は使うもの
〈上甲〉
別の日の研修で、松下幸之助は仕事をする上での二つの心構えを説いた。それもまた、私の社会人生活の基本的な心構えとなった。
「君らの立場は一新入社員やな。しかし、意識は社長になれ」
新入社員とかサラリーマンだと思って働いていると、意識まで雇われ人、使われ人になってしまう。だが、社長の意識になると、同じものを見ても景色が違ってくる。
松下電器製のネオンの一角が消えていたとしよう。一社員の意識だったら消えていることに気づきもしない。万一気づいても「消えてるな」としか思わない。無関心である。しかし、社長だったら絶対にこう言う。「おい、うちのネオンが消えとるぞ。直せ」と。つまり、当事者意識に変わるのだ。
その日以来、私の意識はずっと社長だった。経営方針発表会の前日には、誰に言われたわけでもないのに、もし自分が社長だったらどんな方針を発表するかを考え、それを書いて当日に臨んだ。
そうすると、「なるほどな。社長はいまそんなふうに考えとるんか。そういう見方もあったか」と自分との差に気がつく。ただ受け身で社長の話を聞き、ノートに写すだけでは得られない学びである。
あるいは、松下幸之助が現場視察に訪れた時など、大抵の人は畏れ多くて二歩も三歩も後ろに下がるが、私は逆に松下幸之助の後ろにピタッとつき、何を質問するか、どんなことを指摘するか、どこを見ているかを徹底して研究した。胡麻を擂るわけでも何でもない。その一挙手一投足から経営者としての物の見方、考え方を盗み取ろうと必死だったのである。
もう一つの心構えは、「上司は使うもんや」ということだ。私が松下電器での31年間を心から楽しく過ごせたのは、徹底して上司を使ってきたからだろう。自らに強い思いがあると上司を使える。しかし、強い思いがないと上司に使われてしまう。
1年間の研修を終え、私は本社報道部に配属された。そこで毎朝同じ人ばかり課長に叱られていることに気がついた。私から見たら真面目に仕事をしているあの人がなぜいつも叱られるのか。じっと観察して分かったのは、言われたことだけをやっているから叱られるということだった。
言われたことだけをやっているうちは受け身になる。これは精神衛生的に極めてよくない。自分から提案しよう。そう思い、例えば社内報にアメリカの記事を掲載する際、従来は電話で聞いて書いていたのだが、「それじゃあ本当の記事は書けません。やっぱり大事なことは現地に行ったほうがいいんじゃないですか。課長、私にぜひ行かせてください」と切り出した。
すると課長は、「そんな急に言われても、俺も行ったことないからな」と言う。そうなったらこっちのもので、「課長、先日の件は進めてくれましたか」と主導権を握ることができる。
このように、とにかくやりたいことを自分から提案していたため、私は新入社員の頃から上司に命令されて仕事をした記憶がない。
〈上甲〉
私の経験を通じて、いまの若い人たちに伝えたいことが二つある。
一つは、「挑戦的であれ」ということだ。私は21年前から志のある若者を対象に「青年塾」という勉強会を主宰しているのだが、そこでよくこんな話をする。「川の上流の石は全部角ばっていてごつごつしている。上流から丸かったら下流に行くと存在がないよ」。
川の上流のごつごつした石というのは、20代の皆さんのことであり、いろいろなことに挑戦しては頭を打ち、経験を積んでいく中で角が取れていくもの。初めから丸くなって、「はい、ごもっともです」とおとなしく畏まっていては、存在意義がないし、面白くない。
梯子に譬(たと)えれば、20代はまだ2段目。2段目から落ちても死にはしない。失敗しても命取りにはならないのである。ゆえに、思い切って挑戦してもらいたい。
もう一つは、「主人公意識を持つ」ことである。青年塾でバーベキューをした時、あるOBが大量のお肉を持ってきてくれた。持つと非常に重たい。それを1時間持たされたら重荷だろう。しかし、1時間持ったらあげると言われたらどうか。喜びに変わるはずだ。
仕事も全く同じ。やらされていると思ってやる仕事は重荷。やりたいと思ってやる仕事は喜び。仕事の内容は一緒でも、考え方一つで取り組む姿勢に天と地ほどの差が生じる。何事も主人公意識を持って挑むことが重要である。
最後に、松下幸之助の言葉を噛み締めたい。
「人生もまた経営や。君らは自分の人生を経営している経営者という意識を持たなあかん」
(本記事は月刊『致知』2018年8月号 連載「二十代をどう生きるか」から一部抜粋・編集したものです) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
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◇上甲 晃(じょうこう・あきら)
昭和16年大阪市生まれ。40年京都大学卒業と同時に、松下電器産業(現・パナソニック)入社。広報、電子レンジ販売などを担当し、56年松下政経塾に出向。理事・塾頭、常務理事・副塾長を歴任。平成8年松下電器産業を退職、志ネットワーク社を設立。翌年、青年塾を創設。著書に『志のみ持参』『志を教える』『志を継ぐ』『松下幸之助に学んだ人生で大事なこと』『人生の合い言葉』(いずれも致知出版社)など多数。
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