2024年08月27日
優れた才能があっても人生や仕事に失敗する人がいる一方で、特別な能力がなくても大きな仕事を成し遂げる人がいるのはなぜだろうか――その答えは、「この人にならついていこう」と思わせる人間的魅力、即ち〝人望力〟の差にあると、作家・政治史研究家の瀧澤 中(あたる)さんは言います。
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人が人を動かすために必要なもの
〈瀧澤〉
特別な才能がなくても周りの協力と信頼を得て、大きなことを成し遂げる人がいる一方で、どんなに優秀でも人望がなく誰もついてこない人がいる――多くの方が会社や組織の中で、そのような事例に接したことがあるはずです。
私がその〈人望力〉に注目するようになったのは、大学の卒業論文で中国の政治家である汪兆銘(おうちょうめい)を取り上げたことがきっかけでした。
汪兆銘は1940年、日本と協力して中国・南京に親日政権(南京国民政府)を樹立した人物ですが、その側近の陳公博(ちんこうはく)は、初め日本の勢力下で政権をつくることに強く反対します。ところが、最後には「汪兆銘を放ってはおけない」と、自説を曲げてまで汪兆銘政権を支えるのです。そして、汪兆銘が一九四四年に亡くなった後は自らが主席として国民政府を担い、戦後、日本に協力した〝漢奸(かんかん)〟として中国で処刑されました。
なぜ彼は自説を曲げてまで、もっといえば失敗すると感じていたにも拘らず、汪兆銘を支えるため出馬したのか。人間には地位や名誉以上に人を惹きつける何かがあるのだろうか。20代の私には不思議で仕方がありませんでした。
その答えは、後に様々な歴史や人物の事例研究、社会経験を重ねていく中で、少しずつ分かっていきました。
例えば自由民主党の総裁選挙があると、「(党幹部や大臣を経験した)あの人に人望があれば、総裁候補になったのになぁ」という声をいつも耳にします。また近年、一流企業や大学、名門スポーツチームなどで頻発する不祥事にしても、そもそも上司と部下、指導者と選手の間に人間同士の愛情、信頼関係があれば、ここまで大きな問題にはならなかったのではないかと思うのです。
つまり、人間の人生、運命は地位や名誉、お金ではなく、最後は「この人にならついていきたい」と思わせる人間的魅力、〈人望力〉によってひらけていくのではないかと感じたのです。
米空母艦長のコロナ対応に見る〝人望力〟
このコロナ禍でも、人望力について考えさせられる事件がありました。
アメリカの空母「セオドア・ルーズベルト」で新型コロナウイルスの感染者が出た際、これは一刻を争う事態であると、艦長が軍の指揮命令系統を無視し、乗組員の緊急退避を求めるメールを複数の上層部に送付しました。
本来なら、艦長はまず直属の上司に指示を仰ぐのが軍の絶対のルールです。実際、その艦長は後にクビになりました。
おそらく艦長は自分の立場を顧みず、何より部下の命を最優先に行動したのでしょう。しかし、そのようなリーダーであってこそ、部下や周囲の人々から厚い信頼を得、人生や組織の運命を切りひらいていけることを、多くの歴史・人物の事例が示してくれているのです。
本欄は歴史上の人物や事例を紐解きながら、人望力を磨き運命を切りひらくヒント、要諦をご一緒に学んでいきたいと思います。
(本記事は『致知』2021年1月号 特集「運命をひらく」誌面より、瀧澤中氏の「歴史と人物に学ぶ〝人望力〟の磨き方」を一部抜粋・編集したものです)
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◇瀧澤 中(たきざわ・あたる)昭和40年東京都生まれ。日本経団連・21世紀政策研究所「日本政治タスクフォース」委員歴任。著書に『「戦国大名」失敗の研究』『「幕末大名」失敗の研究』(共にPHP文庫)『秋山兄弟-好古と真之』(朝日新聞出版)『ビジネスマンのための歴史失敗学講義』(致知出版社)など多数。最新刊に『人望力』(致知出版社)がある。