「人生二度なし」──なぜ森信三の言葉は人々の心を動かすのか

生涯を通じて〝人生いかに生きるべきか〟を探究し、国民教育の師父と謳われた森信三師。その英知に溢れた教えや言葉の数々は、没後30年を迎えていまもなお多くの人々の人生を支え、導き続けています。森師の高弟であった浅井周英さん、寺田一清さん、そしてご子息の森迪彦さんに、人々に生きる指針を与える森師の言葉の力、いまなお支持され続ける理由を語り合っていただきました。
〔写真左から寺田さん、浅井さん、森さん〕

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休息は棺桶に入ってから

〈浅井〉
森先生の教えをお伝えし続けておりますと、思いも寄らないところまで浸透していて感激する時がありますね。

最近、刑務所で服役中の2人の方からお便りをいただいたんです。

お一方は刑務所に置いてあった『致知』を通じて森先生のことを知り、差し入れてもらったご著書である『修身教授録』をボロボロになるまで読み込んでおられるそうです。そしてもっと森先生のことを教えてほしいとのことでしたので、早速立腰のことなどをお教えしたら、その後ずっと実践されているそうです。

もうお一方は寺田先生が編集された『あいうえお語録』を読まれ、序文を書いた私に森先生に関する情報がほしいと切手を送ってこられたので、早速『修身教授録』をお送りしました。

そういう環境に置かれた人たちに、宗教で言うところの回心、心が変わるきっかけを森先生は与えてくださっているわけです。無事に社会復帰できるよう、森先生の教えを心の支えに頑張りたいということで、ある意味私たち以上の熱意を持って森先生の本を読まれているんです。

〈森〉
ありがたいことです。

〈浅井〉
森先生は幼い時にご両親が不縁でお別れになり、貧しいために進学で苦労され、働く場にも苦労され、さらにお身内の不幸、ご自身のご病気と、まさに逆境の連続のような人生を歩んでこられました。ですから書かれている言葉の一つひとつが様々な立場の人々の心に響き、心を鼓舞する力になっていると思うんです。

〈森〉
本人曰く、父親から美というものを、そして母親から手堅さというものを教えられたということでした。父の人生はその教えを土台として、一つひとつのことを美しく、一つひとつのことに全力投球して、なおかつ全体を見ながらすべてのことに取り組んでいった人生だったのではないかと思います。この度の特集テーマは「歩歩是道場」とのことですが、父の人生はまさにこのテーマと重なります。

〈浅井〉
おっしゃるとおりですね。

例えば『森信三一日一語』には、
「人間はおっくうがる心を刻々に切り捨てねばならぬ。そして齢をとるほどそれが凄まじくならねばなるまい」とありますし、私もご本人が「休息は棺桶に入ってから」とおっしゃっていたのを聞いたことがあります。これなどもまさに「歩歩是道場」にも通ずる考え方だと思います。

実践こそすべて

〈森〉
読書に関しては「一日不読 一日不喰」という言葉を残していますね。電車に乗ったら椅子に座ってすぐ本を読む、椅子に座れなかったらつり革にぶら下がっても読むということを実践していました。忙しくて読む時間がなかった日は、枕頭の書といって必ず寝る前に寝床で本を読んだんですが、それを一日の例外もなしにずっと続けたのは凄いものだと思います。

〈寺田〉
電車に乗って2分以内に本を読まなかったら衰えたる証拠だとおっしゃって実践されていましたが、なかなか真似のできることではありません。

私は代わりに「ハガキ道」の実践を続けています。先生は、ハガキ活用の達人たるべし。5分あればお世話になった方にハガキを3枚書けるとおっしゃいました。私もこの年で毎日20枚以上書いていますから、どんどん返事が来るんです。毎日最寄りの郵便局に設けた私書箱を見に行くのが楽しみです。


(本記事は月刊『致知』2013年7月号 特集「歩歩是道場」より一部を抜粋・編集したものです)

◉『致知』3月号 特集「丹田常充実」に実践人の家元副理事長・福永道子さんがご登場!◉

若き日に教育者・森信三師の謦咳に接し、半世紀にわたり教えを実践してきた福永道子氏が語る恩師との思い出や、学びに耳を傾けました。

私が実感する森先生のすごさは、真理を突いた短い言葉にあります。

≪致知電子版≫でも全文お読みいただけます


◇森信三(もり・しんぞう)
明治29年愛知県生まれ。大正12年京都大学哲学科に入学し、西田幾多郎の教えを受ける。卒業後、同大学大学院に籍をおきつつ、天王寺師範学校の専攻科講師に。昭和14年、旧満州の建国大学に赴任。敗戦で新京脱出。21年生還。28年神戸大学教育学部教授。35年神戸大学退官。40年神戸海星女子学院大学教授。50年「実践人の家」を設立。平成4年11月逝去。著書に『修身教授録』『人生二度なし』など多数、DVDに『森信三一問一答録DVD』(いずれも致知出版社)がある。

◇浅井周英(あさい・しゅうえい)
昭和11年和歌山県生まれ。35年和歌山大学卒業後、教師となる。50年和歌山市教育委員会に入り、平成4年同教育長、8年より同助役を務める。18年森信三師が創設した「実践人の家」理事長。25年5月退任。

◇寺田一清(てらだ・いっせい)
昭和2年大阪府生まれ。旧制岸和田中学を卒業し、東亜外事専門学校に進むも病気のため中退。以後、家業の呉服商に従事。40年以来、森信三師に師事、著作の編集発行を担当する。社団法人「実践人の家」元常務理事。令和3年3月逝去。編著書に『森信三先生随聞記』『森信三一日一語』『女性のための「修身教授録」』『家庭教育の心得21』(いずれも致知出版社)など多数。

◇森迪彦(もり・みちひこ)
昭和16年満洲生まれ。20年引き揚げ。父・森信三は翌年帰国して、22年月刊誌『開顕』、31年『実践人』を発刊、家業として手伝う。42年大阪府立大学卒業後、大阪の会社に勤務。平成16年定年退職後、「実践人の家」事務局長、常務理事を務める。令和4年2月逝去。

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