高台寺和久傳×湯布院玉の湯 老舗の女将に学ぶ「おもてなし」の流儀

京都を代表する料亭「和久傳」と大分由布院を代表する温泉旅館「玉の湯」。先代よりそれぞれの経営を引き継ぎ、ブランド価値をさらに高めてきたのが桑村祐子さんと桑野和泉さんです。全国から客足が絶えない秘訣、お二人が目指す一流のおもてなしとは――。

当たり前のことを徹底する

〈「和久傳」桑村〉 

旅館もそうでしょうけど、私たちの仕事は労働集約型で属人的なところがあって、均一化され過ぎないその人ならではのおもてなしこそが本物だと思うんです。そういう中で、常日頃スタッフによく伝えていることは何ですか?

〈「玉の湯」桑野〉 

私自身は毎日気持ちのいい朝を迎えたいんですよ、嫌なことや苦しいことがあったとしても。同じようにお客様にも気持ちのいい朝を迎えていただきたい。そのために私たちができるのは、挨拶や掃除など当たり前のことを当たり前に繰り返していくこと。日常を大切にすること。その当たり前のことを一つでも手を抜いてしまうと、気持ちよくなくなってしまいますよね。

ですから、スタッフによく言っているのは、お客様に寄り添ってほしいということです。サービスを提供する側はともすると、寄り添うことよりも自分のサービスを優先してしまいがちになるので、特にサービス業に携わる人は謙虚さが大事だと思います。

例えば、玉の湯にはご高齢の方やご病気の方が多くお越しになりますので、車椅子を要望されることがあります。他にもいろいろと必要な物をご用意するんですが、玉の湯に泊まって温泉に入ると体がリラックスして、お客様によっては車椅子などが必要なくなる場合があるんですね。数日滞在する間にお客様の体調が変化する。

その時に現場の第一線でお客様に接しているスタッフが、その変化に気づき、必要のない物をお部屋からすぐ除けて差し上げると、お客様にとても喜ばれるんです。

〈桑村〉 

マニュアルや固定観念に囚われず、お客様のちょっとした言葉や仕草をキャッチして、行動に移していくと。

〈桑野〉 

このお客様は前回こうだったというデータに頼らず、ちょっとした変化に気づいて、少しでもお客様がストレスなく気持ちよく過ごせるようにする。それがサービス業の愉しさであり、お客様が帰られる時に「また来よう」って思っていただけるのではないかと感じています。

だから、おもてなしって何も特別なこととか大きな感動を与えることではなく、一つひとつは地味ですけれども、当たり前のことを当たり前に積み重ねること。優しさ、正直、誠実、そして謙虚を基本にしてお客様に寄り添いつつ、玉の湯らしいおもてなしとは何か、この「らしさ」をいつも追求していくことを大切にしています。


★(本記事は月刊『致知』2023年2月号「積善の家に余慶あり」より一部抜粋・編集したものです

◎桑村さんと桑野さんのご対談には、

  • コロナ禍を機に生まれた新たなチャレンジ
  • ステージに立てないのなら自分でつくればいい
  • 失敗してもお金を失っても経験だけは前に進めておく
  • 反映し続ける老舗はどこが違うのか

など、企業を永続発展させていくヒントが満載です。ぜひご覧ください。本記事の詳細・ご購読はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます。】

◇桑村祐子(くわむら・ゆうこ)

昭和39年京都府生まれ。62年ノートルダム女子大学卒業。平成2年家業である料亭「高台寺和久傳」の2号店として、カウンター席中心の「室町和久傳」をオープンし、軌道に乗せる。19年「高台寺和久傳」女将、23年社長に就任。現在、京都市内に5店舗の料亭を運営する。

◇桑野和泉(くわの・いずみ)

昭和39年大分県生まれ。62年清泉女子大学文学部卒業。平成4年家業の温泉旅館「由布院玉の湯」に入社、広報の仕事を担う。その後は専務を経て、15年社長に就任。NHK経営委員、JR九州社外取締役、ツーリズムおおいた会長、由布院温泉観光協会会長などを歴任する。

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