「本気の大人がどれだけいるかが子供たちの未来を決める」——2000人を超える非行少年の更生に携わってきたスクールカウンセラーの切実な想い

暴走族や薬物乱用、引きこもり、家庭内暴力など、心に闇を抱える子供たちが増え続けています。スクールカウンセラーで元福岡県警少年育成指導官の堀井智帆さんは、福岡県北九州市で長年そのような子供たちに向き合い、延べ2,000人の子供たちの声なきSOSに耳を傾けてきたといいます。何故堀井さんは誰もが手をこまねく非行少年たちの心の扉を開くことができるのでしょうか。同じく福岡県で少年非行問題に取り組む野口石油会長の野口義弘氏とのご対談を通して、その神髄に迫ります。

大人たちの本気が子供たちの未来を決める

〈堀井〉
私が学生時代、児童相談所の実習で虐待から救いたいと思った時の子供のイメージは、3、4歳から小学生低学年くらいでした。

ところが、少年サポートセンターで関わり始めた子供の多くは改造車で街中を暴走する〝ド〟ヤンキーたち(笑)。

金髪にダボダボのズボンを腰まで下げてはいて、尖った目をして、「こんにちは」と声を掛けようものなら、ウザい、キモい、携帯電話の番号を聞いても「国家権力には教えたくない」。

何か自分が思っていた子供支援とは大きく外れてしまったなというのが正直な思いでしたね。

もっと頼りにされて感謝されてみたいなことを想像していたんですけど、私が担当するようになった子供たちは大人なんか求めていないし、そもそも大人は大嫌いです。大人を心底信じていない子供ばかりだったので、本当に試されました。最初はついてきてくれる子もいなくて、これは大変な仕事を始めてしまったなという思いから始まったんです。

〈野口〉
堀井さんのその気持ち、私にはとてもよく分かります。

〈堀井〉
だけど、これもさっきの野口さんの話と一緒で、彼らの中に思い切って飛び込んでいくと、心を開いてくれるんですね。

そうやって話を聞いていく中で、子供たちの生い立ちや育った環境がどういうものであるか、彼らが発している声なきSOSがどのようなものかが分かってくる。それを知れば知るほど、本気で向き合わないではいられなくなったんです。

〈野口〉
堀井さんの活動はNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも紹介されていましたが、公園に集まる非行少年のグループの中にごく普通に飛び込んで笑顔で話し掛けてラインを交換したり、家出少女に夜遅くまで向き合って両親とも会って話し合ったり、引きこもりの少年の家を何度も訪問して職場に連れて行ったり、しかも、それがごく自然体なんです。

そんな寝食を忘れた堀井さんの本気の態度がいつの間にか子供たちを変えていくのでしょうね。

〈堀井〉
私は非行少年のグループともごく普通に付き合いますし、暴力団の役職ある方と名刺交換することもあります。学校で箒を持って暴れる子を、妊婦の時に止めに入って先生たちに止められたこともありました。

だけど、私はどんな人が相手でも何とも思わないんです。難しい子供であればあるほど、やる気が出てくる性格なんですね。だから、よく逆境とか試練とか言ったりしますけど、私はそれを感じたことはありません。

もちろん、どんだけやったら相手が分かってくれるんやろうかと思うケースはたくさんあります。

例えば盗みが止まらない子。再犯させないように捕まることがないように支援しても次から次に問題を起こして捕まってしまう。本当にガックリきますが、そういう時、周りの子たちから電話が掛かってくるんですね。「あいつ、捕まったよ」って。

私が「やってもやっても無駄やん。堀井さん、辞める、この仕事」と愚痴をこぼすと、その子たちのほうから「堀井さんが何言いよるん。そんな訳の分からんことを言わんで、さっさと面会に行ったら」と逆に説教されたりして(笑)。

「あ、ほんと私何を言っていたんだろう」と思って、気を取り直してまた面会に行くんですけど。

〈野口〉
堀井さんらしい話ですね。

〈堀井〉
私が一番苦しむのは、子供と関わる大人で、意欲のない人に出会った時です。行政も教育現場もそうですが、本当に子供たちを助けないといけない立場の大人が何もやらない、現実から目を背けて見て見ぬ振りをしているというのが最大のストレスですね。

不幸な生い立ちの子ほど大人を見る力はとても鋭いんです。本気かどうかをすぐに見破ってしまう。そういう本気の大人がどれだけいるかが子供たちの未来を決めるんです。


(本記事は月刊『致知』2022年9月号 特集「実行するは我にあり」より一部を抜粋・編集したものです)

本記事には「愛は与えっ放しでないといけない」「オーナーの給料は月額10万円」「無償の愛は子から親に注がれている」等、無私なる二人の実行によって非行少年たちはどのように変わっていったか、その足跡と想いが凝縮されています。ぜひご覧ください。(詳細は下記バナーをクリック)

〈致知電子版アーカイブ〉でも全文お読みいただけます。

 

◇野口義弘(のぐち・よしひろ)
昭和18年鹿児島県生まれ。熊本県内の中学卒業後、九州産交に入社。ガソリンスタンド会社に勤務後、平成7年野口石油を設立、社長に就任。同年福岡保護観察所に協力雇用事業所として登録。現在、北九州市内に3か所のガソリンスタンドを経営。160人を超える非行少年たちを雇用してきた。27年吉川英治文化賞を受賞。

◇堀井智帆(ほりい・ちほ)
昭和52年神奈川県生まれ。西南女学院大学福祉学科卒業。児童養護施設勤務を経て平成15年福岡県警察本部北九州少年サポートセンター勤務。延べ2,000人の非行少年に向き合う。今年同センターを退職。現在はスクールカウンセラーなどとして子供家庭支援、講演活動などを行う。著書に『非行少年たちの神様』(青灯社)。

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