アナウンサーの激務の中で司法試験に合格。菊間千乃さんが転身に懸けた覚悟

左が戸倉さん、右が菊間さん

アナウンサーから弁護士に転身を果たした菊間千乃さん。弁護士を目指そうと思ったきっかけの一つは、意外にも「ヤワラちゃん」こと、柔道の谷亮子さんの活躍に接したことだったといいます。人に拍手しているだけの自分でいいのか――現状の自分に満足せず、未知のフィールドに挑戦してきた菊間さんの歩み、原点を伺いました。
対談のお相手は、看護師から建築家になったドムスデザイン社長の戸倉蓉子さんです。

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どこまで自分を追い込めるか

〈戸倉〉
菊間さんがアナウンサーから弁護士に転じようと決意された頃のことも、詳しく聞かせていただけませんか。

〈菊間〉
私がフジテレビに入社した頃は、30歳を過ぎて画面で活躍する女性アナウンサーはほとんどいらっしゃらなくて、なんとかアナウンサー寿命を延ばすために他の人と違う武器を持とうと考えたのがきっかけでした。ですから、最初の目標は資格取得であって、弁護士になろうと思っていたわけではないんです。

もう一つのきっかけが、ヤワラちゃんこと谷亮子選手でした。彼女がオリンピックで2回目の銀メダルを取った時に、試合直後のインタビューで「次のシドニーに向けてまた頑張ります」って答えたのをテレビで観たんです。

〈戸倉〉
あぁ、そうでしたね。

〈菊間〉
それまで8年間、とてつもない練習をしてきたのに金メダルに届かなくて、普通だったらすぐには次のことなんか考えられないと思うんですけど、彼女はまた4年頑張ると即答した。何て強い人だろうってすごく興味が湧いて、そこからシドニーまで取材をさせていただきました。

そして、彼女が金メダルを取る瞬間を数メートル傍で見ることができて、それはもうあんなに感動したことはないっていうくらい感動しました。

でもその時、すごいすごいって拍手しながら、自分って何てダメなんだろうっていう思いも募ってきたんです。人に拍手してるだけの自分でいいのかな、私も何か一所懸命やらなきゃダメなんじゃないかなって。

〈戸倉〉
あの熱狂の中で、そんなことを考えていらっしゃったんですね。

〈菊間〉
で、次のアテネオリンピックの取材も担当させていただいたんですけど、その時にシドニーの時から4年間、自分は何も行動を起こしていないことを痛感したんです。

もちろん仕事は一所懸命やっているんですけど、オリンピックに出る人たちに匹敵するような人生を懸けた戦いや努力をしているわけではありませんでした。ただ日々仕事に追われて忙しくしているだけでいいんだろうかと、いろいろ考えるようになったんです。

そんな折にロースクールができて、夜間は4年コースだっていうからオリンピックと同じだと思って、私も4年間オリンピック選手と同じくらい頑張ってみよう、自分で自分に拍手ができるくらい人生を懸けて勉強してみようって決意したんです。

そして勉強を進めるうちに、ただ資格を取って終わるのではなく、習得した知識を武器に、困っている人の役に立ちたいと思い始めて、弁護士を目指すようになりました。

〈戸倉〉
アナウンサーの仕事をしながら司法試験の勉強をするのは、さぞかし大変だったでしょうね。

〈菊間〉
本当に大変でしたね。

毎日3時間くらいしかベッドで寝られなくて、そのうちストレスで声が出なくなってしまったんです。このままでは体がもたないと思って休職も考えたんですけど、尊敬する弁護士の方から「何かを得るためには何かを捨てなければいけない。弁護士という仕事は、あなたがいま抱えているものを捨てるだけの価値がある仕事だと思うよ」と言われて、すべてを捨てて本気で挑戦することにしました。

〈戸倉〉
退路を断たれたのですね。

〈菊間〉
そう、断ったからよかったんだと思います。どこかに逃げ道があると、人間って弱いからどうしてもそっちのほうへ流されてしまいますよね。

ただ、なかなか成績が上がらなくて、模試の成績が返ってくる度に落ち込みましたね。もし受からなかったら、この先の人生どうなるんだろうと考えると怖くて怖くて。

当時は一人暮らしでしたから、このまま死んでしまって「元フジテレビアナウンサー孤独死」って報道されたりしたら嫌だから(笑)、泣きながら、文字通り歯を食いしばって勉強しました。

もしあのまま働いてお給料をもらいながら勉強していたら、きっとそこまで必死になれなかったでしょうね。火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、追い込まれたら、人って何でもできるんだなって思いました。


(本記事は月刊『致知』2019年3月号 特集「志ある者、事竟に成る」より一部抜粋・編集したものです)

◉アナウンサーから弁護士へ――。華麗な転身の裏に、大変苦しい日々を味わっていた菊間さん。戸倉さんを驚かせた、その「道をひらく意志」はどのように培われたものだったのでしょうか。
『致知』2022年6月号 連載「二十代をどう生きるか」で、その原点が明かされています。記事詳細は下の記事から!

▲人生は一度きり。思い描く未来を自らの手で掴み取ろう――連載「二十代をどう生きるか」

◇菊間千乃(きくま・ゆきの)
東京都生まれ。平成7年早稲田大学法学部卒業。フジテレビ入社。入社4年目、番組の中継中に5階建てのビルから転落、腰椎圧迫骨折の重傷を負う。在職中に夜間ロースクールに通い司法試験の勉強を始め、19年フジテレビ退社。23年弁護士に。現在も仕事の傍ら、早稲田大学先端法学専攻知的財産LL.M.で勉強を続けている。著書に『私が弁護士になるまで』(文藝春秋)などがある。

◇戸倉蓉子(とくら・ようこ)
福島県生まれ。看護師として慶應義塾大学病院に勤務中、人間は環境で生き方が変わることを悟り建築家を志す。リフォーム会社を経て、平成3年プラニングファクトリー設立。イタリア留学後、11年ドムスデザインに社名変更。豊かなライフスタイルを実現する建物を追求する。28年ベトナムにドムスインターナショナル設立。著書に『いい家に抱かれなさい』(日経BPコンサルティング)などがある。

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