82歳の現役少年野球指導者・棚原安子さんが、1200人の子供たちから教わったこと

大阪・吹田の地で少年野球指導を続けて50年。〝おばちゃん〟の愛称で親しまれる棚原安子さんは5人の子育ての傍ら、これまで1,200人の指導に携わってこられました。82歳を迎えた現在も自らグラウンドに立ち続けている棚原さんに、子育てに懸ける想いを伺いました。

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少年野球指導一筋50年

――炎天下の中、一度も座らずにグラウンドを駆け回りノックを打つ姿は、とても82歳には見えません。

〈棚原〉
自分では何とも思いませんが、皆さん驚かれますね(笑)。家でもグラウンドでも走り回っているからか、おかげで膝も腰も悪いところはなく、82歳を迎えたいまも元気に活動できています。

――チームは今年で創立51年目を迎えられたのですね。

〈棚原〉
ここ大阪・吹田の地で少年野球チーム・山田西リトルウルフを立ち上げたのは、1972年、夫が33歳、私は31歳の時です。その頃から私の肩書は変わらず、監督でもコーチでもなく「おばちゃん」なんです(笑)。

元々、中学生から実業団までソフトボールの選手をしていた私と、製薬会社で軟式野球選手をしていた主人と2人で、近所で壁当てをしていた子供たちに声を掛け、10人ほどのメンバーからスタートしました。

平日はお互い仕事や子育てをしながら週末になる度、当時小学3年生、1年生、年長、3歳、10か月と、5人の子供を連れて毎週グラウンドに通っていました。それから早いものでもう50年。ウルフを卒団していったOB・OGの数は、1200人に上ります。

――多くの子供たちを育ててこられたのですね。

〈棚原〉
一期生はもう62歳ですから歴史を感じますね。たった1メートルもボールを投げられない子、吃音でうまく喋れない子、パニック障害を抱えた子……いろんな子がいましたが、ウルフに入りたいと言った子は誰一人取りこぼさず、ウェルカムで迎え入れてきました。

創部45年を迎えた2016年には初めて全国大会にも出場しました。同年の西日本学童軟式野球大会では優勝を経験し、「強いチームに入れたいから」という理由で、ウルフに入ってくるお子さんも増えてきました。プロ野球で活躍するT‐岡田選手も私が声を掛け、ウルフを卒団した一人です。

――全員を受け入れながら、強いチームを目指してこられた。

〈棚原〉
ええ。2013年からは夫に代わって息子が総監督を務め、卒部した子供たちのお父さんを中心とした32名のコーチと共に、50年前から変わらず全員ボランティアでこの活動に取り組んでいます。現在は、11の小学校から集まった約140名の子供たちが通っています。

――全員がボランティアで、どのように運営を?

〈棚原〉
家計に優しいチームを目指しているので、部費は最低限しかいただいていません。

50年前は1か月50円から始めたものの、泣く泣く値上げをし、現在は小学1・2年生が月500円、3・4年生は1500円、5・6年生には2000円の部費をいただいています。保護者の皆さんにはこれでも破格と言っていただきますが、この金額では交通費や大会参加費など、140人の活動費はとても賄えません。

そこでチーム創立時から、毎月2回、部員全員で新聞回収のアルバイトをしているんです。

――珍しい取り組みですね。

〈棚原〉
ええ。近所の団地で古新聞を子供たちが回収し、業者にまとめて取りに来てもらうんです。

回収する週の月曜日に各戸にビラを投函して回収があることを知らせます。当日は当番に当たる学年が担当を振り分けられた部屋に行き、新聞を回収する。簡単そうに思いますが、行き先を間違ったり、休む子がいたり……。キャプテンが皆をまとめ、その指示に従ってやっていくんです。

いまでは毎月900戸で回収し、年間約50万円を運営費に充てることができています。また子供たちにとっても貴重な労働体験の場となっているんです。


(本記事は月刊『致知』2022年11月号 特集「運 鈍 根」より一部抜粋・編集したものです)

◎棚原さんには、この後も

・生きる力を育む指導方針
・12歳までに何を身につけるかで人生は決まる
・病気、極貧生活、いじめ……壮絶な幼少期に培われたもの
・命を使い切って生きる

など、野球指導に50年ひたすら打ち込んできた体験から得た人生の要諦を語っていただいています。ぜひご覧ください。インタビューの詳細はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

◇棚原安子(たなはら・やすこ)
昭和15年大阪府生まれ。実業団でソフトボール選手として活躍した後、47年に吹田市で夫と共に少年野球チーム「山田西リトルウルフ」を立ち上げる。以来50年間、1200人以上の子供たちの指導に携わってきた。41女の母。著書に『親がやったら、あかん!』(集英社)がある。

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