1300年続く老舗温泉旅館「慶雲館」社長の運命を拓いた〝覚悟〟

甲斐の山懐に包まれた辺縁の地に、1300年もの歴史を刻んできた西山温泉慶雲館。度重なる自然災害にも屈することなく、「世界で最も古い歴史を持つ宿」としてギネスブックにも認定されています。田中真澄氏(写真右)との対談で語られた、20代から同館で修行し、運営に奮闘してきた川野健治郎社長(写真左)の歩みには、艱難辛苦を乗り越え、運命を切り拓くヒントが詰まっています。

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「いなければ困る」と言われる人間になろう

〈川野〉
フロントに上がって7、8年経った頃、先代から誤解を受けて身に覚えのないことで酷く叱られたことがありました。

会社に損害を与えたから弁償しろとまで言われて、さすがにこれ以上は務まらないと腹を括ったことがありました。

その時に女房が、「ここで辞めたら誤解を受けたままになるよ。自分を信じてもらえるように頑張るしかないんじゃないの。お金なら私が何とか工面するから」と言ってくれたんです。

〈田中〉
立派な奥様ですね。ご主人のためにそこまで言ってくれる女性はなかなかいませんよ。

〈川野〉
それで私は、よし、あと10年とことん頑張ってから辞めてやろう。

その時に「川野がいないと困るから、どうか辞めないでくれ」と引き留められるような人間になって社長を見返してやる。それまでは意地でも辞めるものか、と奮い立ったんです。

いまでは、私はあの時先代から試されたんだと思っています。あそこで辞めなかったことで、先代の中での私のランクが一つ上がったんだと。

女将は、そんな私を随分バックアップしてくれました。

家を建てる時や、娘が大学へ進学した時など、節目節目で相当な額のお祝いを先代に内緒で女房に手渡してくれたりもしました。

経営を引き継ぐことになり、1300年の歴史の重みに押し潰されそうになっていた時に、女将から言われました。

「社長があなたに後をお願いするのは、きっと自分の子供でもついてこられなかっただろう深澤雄二という男に、きょうまで仕えてくれたという思いがあるからよ。自分の後をやってくれるのは、あなたしかいないと考えて決断したみたいよ」と。

先代から直接言われたのは、「棚からぼた餅だな」「おまえはシンデレラ・ボーイだ」ということくらいでしたけどね(笑)。

ただ、実際その通りだと思うんです。宮崎から出てきて縁もゆかりもなかった若造に、自分が50年以上も大切に守り続けてきたものを手渡すわけですから。

 

〈田中〉
普通なら啖呵を切って出て行くところで踏み止まったからこそ、いまの川野さんがあるわけですね。

先代から与えられる理不尽とも思われるような無理難題に、根気強く、粘り強く、徹底して応えていくことによって運命を大きく切り開いてこられた。

慶雲館の歴史と共に、川野さんご自身もまさしく運鈍根の歴史を積み重ねてこられたのですね。

〈川野〉
先代には随分厳しいことを言われましたけれども、そのおかげで何をやっても中途半端だった自分が鍛えられ、一人前になることができました。

自分の中に絶対に逃げないという固い決意があったことも大きかったのですが、逃げようにも家族を養わなければなりませんでしたし、よそで働く自信もありませんでしたからね。

よい条件で別の働き口を紹介されたことが何度かありましたけど、私は慶雲館でしか働けないからと全部お断りしてきました。

深澤の下だからこそ、こうして自分の力を最大限に発揮して仕事ができるんだと思っていたんです。

〈田中〉
私は、人生は「一引き、二運、三力」と言うんです。

引きは人様から引き立ててもらうことです。

川野さんもまさにそうで、先代から引き立てられ、先代の奥様から引き立てられ、お客様から引き立てられ、それによって運が開け、実力も養われていったのだと思います。


(本記事は月刊『致知』2022年11月号 特集「運鈍根」から一部抜粋・編集したものです)

本記事では他にも

・コロナ禍を通じての決断

・先代の厳しい要求に応え続けて

・よい企業に共通するもの

・いかにして運を育むか

などのお話しから、永続する企業は何が違うのか、愛され続ける理由・企業発展の秘訣が見えてきます。ぜひご覧ください。「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

 

◇田中真澄(たなか・ますみ)
昭和11年福岡県生まれ。34年東京教育大学(現・筑波大学)卒業後、日本経済新聞社入社。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に出向し、『日経ビジネス』の創刊業務に携わり、販売手法の確立に尽力する。54年独立し、ヒューマンスキル研究所を設立。社会教育家として講演・執筆活動を展開。講演回数は7000回を超える。著書に『百年以上続いている会社はどこが違うのか?』(致知出版社)など多数。

◇川野健治郎(かわの・けんじろう)
昭和34年宮崎県生まれ。高校卒業後に上京し、㈲西山温泉慶雲館入社。59年より同社が運営する慶雲館勤務。平成29年、同館の運営会社となった㈱西山温泉慶雲館社長に就任。

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