老舗が生き続ける4つの条件——田中真澄氏が教える商売繁盛の極意

コロナ禍、ウクライナ危機と、世界に様々な風が吹き荒れるいま、商号を変えることなく長い歴史を重ねる老舗の存在感が高まっています。企業の平均寿命が30年と言われる中、老舗はなぜ永続することができるのか。その秘訣を社会教育家で老舗研究約50年の田中真澄さんはこう語られていました。

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老舗に息づくトップの信念

老舗には私たちが学ぶべき点が多くありますが、参考にすべき例を紹介してみたいと思います。岡山県真庭市にある古見屋羊羹は、251年続く和菓子店です。

決して派手さはなく、質素で地味なイメージの店なのですが、ここには創業から今日まで一日も休まずに続けられている店主の日課があります。それが餡(あん)作りです。井戸水を汲み、北海道の農家から特別に仕入れた小豆を煮ながら秘伝の餡を作るのです。

仕込みの際に熱湯が飛び散ってくるので店主の顔や手には火傷が絶えることがありません。それでも、餡は古見屋羊羹の命そのものという高い意識のもと、江戸時代から九代にわたって日々の餡作りの伝統を受け継いでいることは極めて稀有(けう)であり、そこに深い感動すら覚えます。

この羊羹が岡山県を代表する銘菓となり、明治天皇・昭和天皇への献上、有力百貨店の人気商品として大きな注目を集めるのも、幾世代にわたる継続のなせる業だと思います。

次に紹介したいのが、今年で創業130年となる東京の日本ルツボという会社です。かつては鉄を熔かすのに欠かせない容器として重宝されたルツボも、溶鉱炉の技術革新によって需要は減り続け、すっかり斜陽産業になっていました。

同社の業績もまた低迷する一方でしたが、社長に就任した岡田民雄氏(現・会長)は「問題意識さえあれば、文化系の人間でも開発は可能だ」という信念のもと、自ら先頭に立ち、全社一丸となって新商品を開発。ルツボという伝統工業品を近代工業品へと見事に甦らせ、売り上げや利益を伸ばし続けているのです。

日本に老舗が多い4つの理由

日本にはなぜ老舗が多いのでしょうか。まず、何をおいても島国日本は大東亜戦争後の一時期を除いて、他国の支配を全く受けなかったことが挙げられます。これらの地理的、歴史的な環境や条件に恵まれていたことは何よりも幸いなことでした。

2番目の理由は日本人の勤勉性。つまり、仕事に手を抜かず、一途に打ち込む国民の習性です。宣教師のフランシスコ・ザビエルは、慎ましく勤勉な日本人の民族性に驚きました。「500年後、日本人は世界を代表する民族になるだろう」と賞賛。その言葉のとおり、日本人の勤勉、倹約の精神はいまや世界中の人々が認めるところとなりました。

3番目の理由は、顧客のために誠心誠意尽くすという顧客第一主義です。この顧客第一主義は日本独自のものと考えてよいでしょう。西洋の国々の思想的ベースにはキリスト教があり、その根本は神の愛、隣人愛です。

だとしたら、商いにもそれが反映されて然るべきですが、残念ながら顧客第一主義、利他主義という概念は彼らにはありません。むしろ善悪よりも損得を優先する個人主義的な考え方が主なのです。

そして4番目は人材の育成です。徹底して社員の面倒を見て教育し、最後には暖簾(のれん)を分けるという発想もまた西洋にない日本独自のものです。

両親や先人へ感謝の祈りを捧げる

日本に老舗が多い4つの理由を挙げましたが、そのことを端的に示しているのが老舗に残る家訓です。例えば、江戸初期から300年以上存続する三井家は初代・三井高利が「現金掛け値なし・正札商売」という斬新な発想で越後屋呉服店を飛躍させたことで知られています。

もう一つ、私は老舗といわれる企業や店舗を訪れるたびに驚くことがあります。どこも立派な神棚や仏壇が備えられているのです。店主や従業員は毎日、神仏に向かって伝統を守り抜くことを誓います。

私はこれを祈願ならぬ「祈誓」と呼んで、自身も日々実践しています。神仏に手を合わせ、両親の笑顔を思い浮かべると不思議にスッと心が開いて、誓いが腑に落ちるのです。先人への感謝を忘れないでいることも、人や企業が繁栄する大切な要素なのかもしれません。

戦中戦後の日本を知る一人として嘆かわしく思うのは、日本人があまりにも個人主義、利己主義に陥ってしまったことです。企業も人も利他の精神があってこそ永続するのに、それを失った日本人がこれからどうなっていくのか、とても心配です。

老舗が語り掛けてくれる声に素直に耳を傾ける時、私たちの未来をひらく大切なヒントが掴めることでしょう。


(本記事は月刊『致知』2015年4月号 特集「一を抱く」の記事を一部抜粋・編集したものです)

◉『致知』2022年11月号 特集「運 鈍 根」に田中真澄さんがご登場!◉

甲斐の山懐に包まれた辺縁の地に、1300年もの歴史を刻んできた西山温泉慶雲館。度重なる自然災害にも屈することなく、「世界で最も古い歴史を持つ宿」としてギネスブックにも認定されるに至った要因はどこにあるのでしょうか。その歴史と共に、同館の運営に奮闘してきた川野健治郎さんの運鈍根の歩みを、田中真澄さんに繙いていただきました。

・コロナ禍を通じての決断

・先代の厳しい要求に応え続けて

・よい企業に共通するもの

・いかにして運を育むか

など、永続する企業は何が違うのか、愛され続ける理由から企業発展の秘訣が見えてきます。ぜひご覧ください。【電子版でも全文をお読みいただけます

◇田中真澄(たなか・ますみ)
昭和11年福岡県生まれ。34年東京教育大学(現・筑波大学)を卒業し、日本経済新聞社入社。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に出向し、『日経ビジネス』の基礎を固め、社業に貢献。54年ヒューマンスキル研究所を設立、所長に就任。著書に『老舗に学ぶ個業繁栄の法則』『田中真澄の実践的人間力講座』(ともにぱるす出版)『百年以上続いている会社はどこが違うのか?』(致知出版社)など多数。

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