32年、悩み続けて掴んだ成功 ~近大マグロ誕生秘話~

1万本以上に及ぶ月刊『致知』の人物インタビューと、弊社書籍の中から、仕事力・人間力が身につく記事を精選した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。致知出版社が熱い想いを込めて贈る渾身の一書です。本書の中から、32年もの歳月をかけ、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した近畿大学水産研究所第三代所長の熊井英水氏の記事をご紹介します。

不可能を可能にするための三条件

〈熊井〉
この32年間、もうダメじゃないかと絶望しかけたことは何度もありました。

ただ、その時その時、発生するいろいろな問題について、脳みそのない頭で考え、そして所員の英知を結集する。そうやって一つずつクリアしていったということですね。

そんな中で自らを支えたのは、やはり「不可能を可能にするのが研究だ」という初代総長からいただいた言葉ですね。私が25歳の時でした。

ある日、総長から「昆布の養殖をやってみないか」と言われたんです。それに対して私は「そうは言っても、昆布は北海道のものですから無理ですよ」と難色を示してしまった。

そうしたら後日、総長から手紙が来ましてね。中に新聞の切り抜きがあって、兵庫県の水産試験場が瀬戸内海で昆布の養殖試験を開始したと書かれていました。

それですぐに総長に謝ったのですが、その時に言われたのがこの言葉だったんです。私はハッとしましてね。それ以来、いまもなおこの言葉を信条にしています。

不可能を可能にするために大事なことの第一は「忍耐」。

やっぱり研究でも仕事でも、何かを成し遂げようと思ったらいいことも悪いこともあるわけです。その時に何が何でもやり通すんだという忍耐、ブレない継続、これが非常に大事だと思います。

私の好きな言葉に「一志一道」というのがありますが、一度志を立てたらこれを一筋にやり続けないといけません。

二つ目は「観察眼」。原田先生がよくおっしゃっていたのは「魚に聞け」ということで
す。

魚は言葉を発しない。だから、抗議する時は死んで抗議する。だから、いまこの魚はどういうアピールをしているのか、何を求めているのか、それをよく観察し、知るのが本物の研究者だと。

そして、最後は「愛情」。やっぱり手間隙をかければかけるほど、魚は我われ飼育している者の意思を分かってくれるし、よく育ってくれるんです。

完全養殖したクロマグロを初めて出荷する時、「どういう気持ちですか」って新聞記者の人に聞かれました。

私は「我が子を嫁に出すような心境だ」と言ったんですけど、本当に我が子を育てるような気持ちがないとあらゆる仕事は成功しないと思います。


(本記事は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』より一部を抜粋・編集したものです)

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◇熊井英水(くまい・ひでみ)
昭和10年長野県生まれ。33年広島大学水畜産学部(現・生物生産学部)卒業後、近畿大学白浜臨海研究所(現・水産研究所)に入所。45年よりクロマグロの完全養殖に取り組む。平成3年所長就任。14年世界初のクロマグロ完全養殖成功を主導する。15年アーマリン近大設立、代表取締役に就任。現在、近畿大学理事・名誉教授。著書に『究極のクロマグロ完全養殖物語』(日本経済新聞出版社)などがある。


◉熊井英水さんが掴んだ成功の条件◉
ただいま各方面で大反響を呼んでいる
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社)
にも収録されています!!

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