2022年05月18日
東京2020パラリンピック女子マラソンで金メダルに輝いた道下美里さん、ゴールボール女子で銅メダルを掴み取った浦田理恵さん。両目が不自由になるという人生の試練に直面しながらも、様々な挑戦を続けてきました。二人のメダリストによる貴重な対談から、道下さんの原点となったエピソードをご紹介します。
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人生を支える言葉
〈道下〉
……私も同じで、マラソンはダイエット目的で始めましたし、もともと運動音痴だったんです。
最初にマラソンの指導をしてくださったのは盲学校の体育の先生でしたけど、初めて先生にお会いした時、私は肩が出た洋服に厚底10センチのヒールを履いて行ったんですよ(笑)。先生もどう指導すればよいか困ったと思います。
それに大会などが近づくと、どうしてこうなるのかなって思うくらい、緊張から急に体の節々が痛くなったり、風邪を引いたりして体調を崩してしまうんです。大会に出場しても、すぐ足を痛めてしまったり……とにかく、そういうところからのスタートでした。
〈浦田〉
いまの道下さんのご活躍からは想像もできません。
〈道下〉
でも、私が寝込めば毎日お見舞いに来てくれたり、強い体をつくるために食生活まで気にしてくれたり、先生が本当に熱心に指導してくださったんです。お盆でもお正月でも練習にずっと付き合ってくれて、大会で負けそうになると、私の好きなZARD(ザード)の曲「負けないで」をステレオから流して応援してくれました。
普通の体育の先生ですから、本来はそこまで見てくれなくてもいいんですね。
〈浦田〉
立派な先生ですね。
〈道下〉
そうして少しずつ大会に出ることにも慣れていき、結果もついてくるようになったのですが、その原動力は、やっぱり親身に指導してくださる先生を喜ばせたいという気持ちでした。
一緒にいろんなことを乗り越えていく中で、その気持ちはどんどん強くなっていきましたね。だから、この人のためなら頑張れる、そういう人と出会えるか出会えないかが、人生をすごく左右するなって思います。
〈浦田〉
本当に共感します。
〈道下〉
あと、盲学校卒業後に勤めた鍼灸院の院長先生にも大きな影響を受けました。当時90歳でしたけど、戦場で視力を失い、戦後の混乱期に耐え抜きながら鍼灸師の道を歩んできた先生です。遠方からも先生を慕って多くの患者さんがいらっしゃっていました。
その院長先生が教えてくださったのが、「耐える者必ず志を得る」という言葉でした。
どんな逆境に遭っても投げ出さずに耐え忍べば、必ずその先に光が見えてくる。ブラインドマラソンだけでなく、日常のいろんな不自由、困難があった時に、院長先生の言葉を思い出して耐えていきました。
◉目が不自由であるというハンディに決して屈することなく、人生を力強く切り開き、世界の舞台で闘ってきた浦田理恵さんと道下美里さん。
対談では「誠の花を咲かせる生き方」をテーマに、自分だけしか歩めない人生、自分にしか咲かせられない「花」の咲かせ方について語り合っていただきました。
記事詳細はこちら(全文は致知電子版でお読みいただけます)
◇浦田理恵(うらた・りえ)
昭和52年熊本県生まれ。20歳を過ぎて「網膜色素変性症」と診断される。視力センターに入所した際、卒業生の小宮正江選手が活躍する姿に憧れゴールボールを始める。平成21年世界を目指すパラアスリートを現役時代だけに限ったサポートではなく、アスリートとしても社会人としても生涯、社会に参画できるよう仕事と競技の両立をはかり活動することを目的とした組織「シーズアスリート」に所属し、総合メディカル㈱の社員となる。24年ゴールボール競技の日本代表副主将としてロンドンパラリンピックに出場し、金メダルを獲得。リオデジャネイロ2016パラリンピック5位、東京2020パラリンピックで銅メダルを獲得。
◇道下美里(みちした・みさと)
昭和52年生まれ、山口県下関市出身。中学2年生の時に右目を失明。25歳の時、左目に原因不明の難病を発症し、のちに「膠様滴状角膜ジストロフィー」と判明。平成15年盲学校に入学し、在籍中に陸上競技と出合う。最初はダイエット目的で走り始め、20年フルマラソンに挑戦。その後も「あきらめない心」「挑戦する心」をモットーに、数々の大会に出場。28年三井住友海上に入社。29年女子視覚障がいマラソンの世界記録を樹立し、その後2度更新。令和3年東京パラリンピック女子視覚障がいマラソンで金メダルを獲得。
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