「分からなくていいんだ」人の心に沁み込む名僧・今北洪川老師の言葉

 今北洪川(いまきた・こうせん)――。廃仏毀釈運動によって仏教界が衰退の一途をたどる中、鎌倉円覚寺の管長に迎え入れられ、他に先駆けて一般の人々に禅の門戸を開放。月刊『致知』2022年2月号の特集テーマである「百萬(ひゃくまん)の典経(てんきょう) 日下(にっか)の燈(とう)」の言葉を遺した、幕末明治を代表する名僧です。
 2022年1月16日は、この今北老師が没して130年の大きな節目。今北老師の言葉を人生の糧としてきたイエローハット創業者・鍵山秀三郎さん、円覚寺の現管長・横田南嶺さんらのお話から、その教えの神髄に迫っていきます。

◉誰の人生にも、よい時と苦しい時があり、その時々で心に響く言葉は違う。仕事にも人生にも、真剣に取り組む人たちの糧になる言葉を――月刊『致知』のエッセンスを毎日のメルマガに凝縮! 登録特典〝人間力を高める三つの秘伝〟も進呈しております。「人間力メルマガ」こちら

高校時代の恩師・佐光義民先生への感謝

対談/鍵山秀三郎(日本を美しくする会相談役)×佐藤しのぶ(声楽家)
『致知』2018年3月号 特集「天 我が材を生ずるに 必ず用あり」より


〈佐藤〉
鍵山さんにとって人格形成の根幹にあるものは何ですか?

〈鍵山〉
佐藤さんと同じで、先ほどもお話ししたとおり、両親の影響が一番大きいですね。

それから、学校の先生ではまず小学校6年生の担任だった可児(かに)先生ですね。非常に心の優しい方で、身の置き所のない疎開者である私を気遣って、いろんなきっかけを与えてくださった。そのおかげで劣等生だった私が少しずつ自信を持てるようになり、進んで勉強するようになったんです。

〈佐藤〉
素晴らしい先生ですね。

〈鍵山〉
もう一人は、高校時代の恩師である佐光義民(さこうぎみん)先生。この方はあまり教科書を使わず、人間としていかに生きるべきかを授業の中で繰り返し説かれました。

また、「この本を読みなさい」と言って、例えば、今北洪川の『禅海一瀾(ぜんかいいちらん)』を薦めてくださいました。その時のやりとりをいまでも覚えているんです。私がその本を見て、「こんな難しい本は私には無理です」と言ったら、「分からなくていいんだ。分からない、難しい、そう思うことが大切だ」と。

〈佐藤〉
特に印象に残っている言葉はございますか?

〈鍵山〉
読んでいるうちに、2つの言葉に感銘を受けました。1つは「百萬の典経 日下の燈」、知識は大事だけど、実践の伴わない知識は何にもならない。もう1つは「朽木糞牆(きゅうぼくふんしょう)」です。朽ちた木では彫刻はできず、腐った壁では塗り替えはできない。そういう人間になってはいけないということを子供ながらに学びましたね。

〈佐藤〉
示唆に富んだ教えです。

洪川老師のものすごい気迫

対談/横田南嶺(臨済宗円覚寺派管長)×小川 隆(駒澤大学総合教育研究部教授)
月刊『致知』2019年6月号 特集「看脚下(かんきゃっか)」より


〈小川〉
『禅海一瀾講話(ぜんかいいちらんこうわ)』の復刊も、横田老師のご助力とご指導なしには決して実現しなかったと思っています。

〈横田〉
そもそものきっかけになったのが、3年前(掲載当時)に発刊された鈴木大拙先生の『禅堂生活』(岩波文庫)でしたね。大拙先生の没後50年を機にこの本が上梓されることになって、小川先生が解題を、そして私が解説を手掛けました。

その折にこの本で釈宗演老師のことに興味を持った編集の方から、宗演老師の本を出したいというご相談をいただきました。

〈小川〉
ちょうど宗演老師の百年諱を控えている時期で、老師がご快諾くださったわけですね。

〈横田〉
『禅海一瀾講話』は円覚寺初代管長の今北洪川老師の『禅海一瀾』を、弟子の宗演老師が講義されたものですから、この節目に発刊するのはとてもよいことだと思ったのですが、校注をご担当いただいた小川先生のご苦労は並大抵のものではありませんでしたね。

〈小川〉
昭和の初め頃に刊行された『釈宗演全集』があって、最初はそれを現代表記に変えればいいと思っていたんですけど、読みが甘かった。実際に見てみると酷い誤字脱字だらけでした。

もともと宗演老師が書かれた原稿はなく、口頭で講義されたものを速記者が書き取って本にしたようで、聞き間違いがそのまま活字になっているんです。

横田老師にご相談したら、洪川老師の書き入れ本を特別にお貸しくださり、様々なご教示をいただいた上に、何度も校正刷りをチェックしていただいて、おかげで何とか脱稿することができました。老師のお力添えがなければ決して刊行には至らなかったと思います。

〈横田〉
改めて読み返してみますと、明治の人の迫力っていうんでしょうか、洪川老師のものすごい気迫が伝わってくるんですね。

イエローハットをご創業なさった鍵山秀三郎さんが、幼少期に疎開先の先生が『禅海一瀾』を読んでくれたという話をよくなさっています。

印象に残った言葉として「百萬の典経 日下の燈」、実践を伴わない知識は何にもならない。それから「朽木糞牆」、朽ちた木では彫刻できず、腐った壁では塗り替えはできない。そういう人間になってはいけないことを子供ながらに学ばれたのだといろんな所でお話しになっています。

こうした一つひとつの言葉に、洪川老師の願心と申しますか、滾るような思いが伝わってまいりますし、それを宗演老師がバイブルや西洋の書物まで引用しながら自由自在に、見事に講じていらっしゃる。あの時代によくそこまでの講義ができたと感服させられます。

〈ここまで『致知』バックナンバーより抜粋〉

◉2022年2月号の特集テーマは、今北洪川老師の言葉「百萬の典経 日下の燈」。横田南嶺さんと平井正修さん(臨済宗国泰寺派全生庵住職)に〝今北洪川と山岡鉄舟の歩いた道〟と題してご対談いただいています。詳細はこちらのバナーをクリック!


(本記事は『致知』2018年3月号 特集「天 我が材を生ずるに 必ず用あり」および2019年6月号 特集「看脚下(かんきゃっか)」より一部を抜粋・編集したものです)

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【登場者紹介】
◇鍵山秀三郎(かぎやま・ひでさぶろう)
昭和8年東京生まれ。27年疎開先の岐阜県立東濃高等学校卒業。28年デトロイト商会入社。36年ローヤルを創業し社長に就任。平成9年社名をイエローハットに変更。10年同社相談役となり、22年退職。創業以来続けている掃除に多くの人が共鳴し、近年は掃除運動が国内外に広がっている。著書に『凡事徹底』『あとからくる君たちへ伝えたいこと』など多数。最新刊に『鍵山秀三郎 人生をひらく100の金言』(いずれも致知出版社)がある。

◇佐藤しのぶ(さとう・しのぶ)
東京都生まれ。文化庁オペラ研修所を最年少、首席で卒業。芸術家在外研修員としてミラノへ留学。ウィーン国立歌劇場での「蝶々夫人」を皮切りに欧州、豪州、アメリカでのオペラ及び著名な指揮者、オーケストラとの共演多数。文化放送音楽賞、都民文化栄誉章等を受賞。CD・書籍の収益は世界の恵まれない子供たちへの寄付や、現地の井戸や学校教室設立、医療等に役立て、現在は東日本大震災の義援金として寄付を行っている。令和元年逝去。

◇小川 隆(おがわ・たかし)
昭和36年生まれ。岡山県出身。58年駒澤大学仏教学部禅学科卒業。昭和61年~平成元年日中政府交換留学生として北京大学哲学系高級進修生。平成2年同大学院仏教学専攻博士課程単位取得。現在、駒澤大学総合教育研究部教授。文学博士(東京大学、平成21年)。著書に『「臨済録」─禅の語録のことばと思想』(岩波書店)『禅思想史講義』(春秋社)など。なお、横田南嶺師解説の釈宗演著『禅海一瀾講話』(岩波書店)の校注も務めた。

◇横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39年和歌山県生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。近著に『自分を創る禅の教え』、共著に『生きる力になる禅語』(ともに致知出版社)がある。

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