JFEホールディングス名誉顧問・數土文夫が語った「部下を伸ばす指導者の共通点」

若き日より古典に親しみ、人生や仕事の資としてきたJFEホールディングス名誉顧問の數土文夫さん。学びと修養の人生を歩んでこられた數土さんに、長年の経験から得た「部下を伸ばし、自らも伸びる指導者」に共通する要諦を説いていただきました。対談のお相手は2010年にノーベル化学賞を受賞された北海道大学名誉教授の鈴木章さんです。※記事の内容は掲載当時のものです

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最後は人の長所を見られる人が伸びる

〈數土〉
鈴木先生は80歳でノーベル賞を受賞され、人生の後半で世界中から実績を評価されましたが、それまで逆境や挫折を感じた出来事というものはありましたか。

〈鈴木〉
僕は楽観的なんで、あまりシリアスに物事を考えることはしなかったように思います。もちろん、研究で行き詰まることはありましたが、やけっぱちになることはなかった。

そういう時は、たぶん学生たちと酒を飲んだと思います。ヤケ酒ではないですよ。飲むと愉快になって、それで忘れて、翌日はまたみんなと一緒に頑張ると。逆境とか挫折とかあったのかもしれないけれど、感じなかった。だから、非常にラッキーな人間なんでしょうね。

ただ、僕も学生を見てきて、やっぱり楽観的なタイプと悲観的なタイプがいるんですね。楽観的なのはあまり浮かれている時は注意も必要ですが、基本的にあまり心配しなくていいけれども、深刻に考えるのは真面目人間が多いんですよね。そういう連中は、力づけてやることも必要です。

〈數土〉
先生のお話を聞いて、明治維新前後、すごい人材を輩出したスクールが3つあったことを思い出しました。1つは大坂の適塾。緒方洪庵が主宰して、福沢諭吉や大村益次郎が出ています。もう1つはご存じ吉田松陰の松下村塾。そしてもう1つが札幌農学校。

この3つの特徴は、少人数制で、先生と寝食をともにして、たくさんの対話があったことです。ソクラテスも対話でした。『論語』も孔子と弟子との対話です。だから教育において、少人数制で対話をすることがいかに大事か。それによって互いに人格が触れ合うのでしょうね。

〈鈴木〉
確かに対話は大事ですね。

〈數土〉
私が長年人を見てきて思うのは、人の長所を見られない人は指導者として失格だということです。うちも優秀な人材がたくさん来ますが、頭のよさが災いするのか、すぐに部下の欠点を見つける人がいるんです。部下の欠点を見ることは、部下はもちろん本人にとっても最大の不幸です。

そして最終的には、部下の長所を見る人だけが残るような気がしますね。欠点を見る人は、どんなに能力があっても部長や執行役員で止まってしまう。

〈鈴木〉
教え子なんか見ていても、楽観的なほうが伸びている感じは受けますね。特に我われ研究の世界は「いくらやっても報われないんじゃないか」という局面がたくさんあります。

そういう時、あまり真面目に打ち込みすぎて折れてしまうのもいるけれど、それではダメなんでね。ある意味での大らかさは、どんな仕事にも必要だと思います。

〈數土〉
欠点しか見られない人が間違って社長になる場合もあるけれども、それは組織にとってマイナスでしかないと思います。

社会には360度の評価があると思うんですけれど、いくら優秀といわれる人でも、自分ができることなんてせいぜい15度程度の範囲ですよ。でも、その15度で部下を判断しようとするから、部下もたまったもんじゃない。

本当の指導者は、自分の不得意なところで誰が優秀かが分かり、その人を登用することができる。そして自分が不得意だと分かっているから、他人や部下が優秀に思えて敬意を払うわけです。

そういうことが、私も70歳になってやっと分かってきました。だから人を導く立場の人は、すべからく人の長所を見るよう努めなければならないと思います。


(本記事は月刊『致知』2012年1月号 特集「生涯修業」より一部を抜粋したものです)

◉月刊『致知』2023年12月号では、數土文夫さんと明治大学文学部教授 ・齋藤 孝さんに、長い歴史の中で子供たちのテキストとして読み続けられた『実語教』『童子教』をテーマに語り合っていただきました。両書を貫く、いまや日本人が忘れ去ろうとしている勤勉精神をはじめ、その魅力や現代的な意義について語り合っていただきました。記事詳細はこちら

 

數土文夫(すど・ふみお)
昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部冶金工学科を卒業後、川崎製鉄に入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17年JFEホールディングス社長に就任。22年相談役。経済同友会副代表幹事や日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長などを歴任し、令和元年5月旭日大綬章受章、同年6月より現職。

鈴木 章(すずき・あきら)
昭和5年北海道生まれ。29年北海道大学理学部化学科卒業。35年同大学大学院理学研究科博士課程修了、理学博士。34年から理学部助手、36年には工学部助教授に。38年から40年まで米パデュー大学留学。48年教授、平成6年退官、名誉教授に。16年日本学士院賞受賞、17年瑞宝中綬章受章、22年文化功労者、文化勲章受章。同じく22年ノーベル化学賞受賞。

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