ブラザー工業元会長・安井義博が明かす──「燃える集団」をつくり上げた3つの要諦

ミシン需要の低迷や多角化戦略の失敗などで経営危機に陥ったブラザー工業を、組織の構造改革と新事業への進出によって見事再生させた安井義博さん。変革を進める上で安井さんが最も重視したのは、「燃える集団」をつくり上げることでした。社員の意欲や情熱を引き出すために心掛けてきた要諦について、ヘッドハンターとして多くの企業経営に携わってきた古田英明さんが迫ります。※記事の内容や肩書はインタビュー当時のものです。

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いかにして「燃える集団」をつくったか

〈安井〉
社長に就任した後、私の前には大きな二つの厳しい難題が立ちはだかっていました。一つは乖離していた製造と販売を完結するなどグループ全体の抜本的構造改革を行うこと、もう一つが新事業を含めた21世紀に向けての企業ビジョンの構築でした。

新しい企業ビジョンをつくるに当たって私は「21世紀委員会」というグループを設立しました。私が委員となり、その下に年代別の3つのチームを設けました。それぞれのチームは7人からなり平均年齢が30代、40代、50代。各リーダーの下でブラザーの21世紀のあるべき姿を話し合うのです。

〈古田〉
各グループからはどのような意見が出たのですか。

〈安井〉
結論から言うと、3つのチームの結論はそれぞれがまったく違うものでしたね。

50代のチームは、過去の成功体験があるためか、どうしても考えが保守的で現状の延長線上的な改善案にとどまってしまう。40代のチームは競争力を失った事業の整理などを盛り込んだ現状打破的な改革案を提示してきました。そして30代ですが、結果的に彼らが最も危機意識が強かった。

不採算事業からは撤退して、将来性のある情報通信機器関連事業に集中すべきという創造的破壊型の変革案を出してきたのです。私は30代、40代の意見を取り入れた中間型を採用することにしました。 

〈古田〉
50代の人たちの意見はどうなったのですか。

〈安井〉
決して、取り入れなかったわけではありません。3チームを解散し2つのチームにした際、その中に50代の7人を組み入れたんです。

ビジョンは行動に移さなくては意味がありません。50代の人たちは、現状を打ち破るという点では若い人には負けるものの、開発、技術、経営管理、また判断力という点で優れていますからね。ベテランの知恵は大変重要で、要は若手とベテランとの組み合わせがうまくいけばいいんです。

ここで一つ申し添えておきたいのですが、企業ビジョンを構築するに当たって私が重要視したことがあります。

〈古田〉
何でしょう。

〈安井〉
どのような事業を展開するにしても、ブラザー工業を従来の「製造業」から独創性・創造性にウエートを置いた「創造業」に進化させるということです。

時代にマッチした創造型企業に転換する上で経営者が心すべきことは、従業員の情熱や意欲を引き出して、燃える集団をつくり上げることだと思ったんです。

〈古田〉
ああ、燃える集団を。

〈安井〉
ええ。物が燃えるのには3つの条件が必要ですよね。つまり、燃える素材、酸素、そして一定の温度(火種)です。企業でいえば、素材は人材、酸素は資金や設備、温度はテーマということができます。

例えば人材です。社員の性質は様々で、燃えやすいがすぐに意欲をなくす人、なかなか燃えないが一度火がつくと、それを長続きできる人など、一概に論じることはできません。若さだけで突っ走ると危険なので、ベテラン社員と組み合わせて、うまくブレーキをかけることも必要になります。

大切なのは彼らにどのような機会を提供するかであり、その方法の一つが異質な人間、異質な環境をうまく組み合わせることです。このことによって独創性が生まれ、組織は活性化し生まれ変わるんです。

当社のような製造業の場合、商品の多様化、差別化、個性化を追究するには、従来のように一人の人間が一つのものを発案し、製品化するというだけではいけない。

異分野の人間のコラボレーションで、互いに専門的知識を出し合い、力を合わせることで、社員が燃え、組織も変わっていく。私はその信念でブラザーを大きく脱皮させようと考えました。

もう一つ大事なのは、重要なプロジェクトチームは社長権限で新しい環境を準備し、経営者自身が大事に囲い込むことです。既存事業部の抵抗でつぶされてしまっては意味がありませんからね。


(本記事は月刊『致知』2004年6月号 特集「進化する」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇安井義博(やすい・よしひろ)
昭和13年愛知県生まれ。慶應義塾大学工学部卒業後、ブラザー工業に入社。54年常務、58年専務となり平成元年に社長に就任。15年から会長。日本縫製機械工業会会長、名古屋商工会議所副会頭など多くの役職を歴任している。著書に『ブラザーの再生と進化』(生産性出版)。

◇古田英明(ふるた・ひであき)
昭和28年埼玉県生まれ。東京大学経済学部卒業。神戸製鋼所、野村證券などを経て、平成8年企業幹部・幹部候補にふさわしい人材をスカウトするエグゼクティブサーチ会社・縄文アソシエイツを設立。同社代表取締役に就任。著書に『上級ビジネスマン―真のビジネスエリートとは何か』(総合法令出版)など多数。

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