宝塚「宙組」初代組長・大峯麻友が語る〝優れたリーダーに必要な二つの心掛け〟

宝塚歌劇団に20年在籍し、1988年には新たに発足した「宙組」の初代組長を務めた大峯麻友さん。現在は女優・歌手の活動に留まらず、劇団員やスタッフたちとのパイプラインの役割を担ってきた経験を生かし、コミュニケーション・アドバイザーとして講演やセミナー活動を行うなど、多岐にわたって活躍されています。そんな大峯さんに、宝塚時代を通して学んだ〝組織のリーダーとしての心掛け〟についてお話しいただきました。※記事の内容や肩書はインタビュー当時のものです。

◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
 ※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

挫折を乗り越えて得た「美点凝視」の力

2年間の学校生活を終え、晴れて宝塚歌劇団へ入団すると、私は大地真央さんと黒木瞳さんが当時トップコンビを務めていた月組に配属され、成績上位で学校を卒業したことで、早くからよい配役に恵まれました。

ところが、です。ある公演前に実技試験が実施されることになり、私は「試験よりも舞台の役を大切にしなさい。先生も分かっているから」という、ある上級生の方の言葉を素直に受け、舞台の稽古だけを真剣に取り組みました。その結果、成績は急落し、理事長に大目玉を食らってしまったのでした。

「言われたことと全然違う。何であの子より、私のほうが成績が下なの……」と、試験結果に納得できず、1年ほど稽古に身が入らない日々が続きました。

そんなある時、ふとこう思ったのです。「あの子は歌がとびきり上手い。この子はスター性の華を持っているな。そうか、私にはこういうところが足りない。だから成績が落ちたんだ」。

それまで気づかなかった同期生の美点を見出し、自分にいま必要なものが明確になった瞬間でした。誰かが見てくれる、いつか必ず他の人とは違う形で結果はついてくると信じ、腕を磨くべく稽古に打ち込みました。

役づくりでは、老人役なら手に細かいしわを描くなど、客席から見えない部分にも創意工夫する。通行人など、台詞のない役でも自分なりにキャラクターを設定して演じる。そうした些細なことも疎かにせず、真心を尽くし、徹底的にこだわり抜いたのです。

すると、初めは望まなかった脇役にも醍醐味を見出し、いつの頃からか、自分の生きる道だと思い定めることができました。

その後、1998年に宙組が誕生し、初代組長に就任。それまでの努力が実ったのでしょうか、思いもよらぬ人生の大きな転機となりました。

65年ぶりの新たな組としてマスコミから注目される半面、当時最年少での就任ということもあり、プレッシャーの中で何度も挫けそうになりました。それでも「辛いことは、神様が〝あなたなら乗り越えられる〟と選ばれた人に与えられるもの。だから挫けず、解決策を考えればよい」という、通っていたカトリックの小学校の神父様の言葉を思い出しては、前を向いて歩み続けたものです。

宝塚で学んだ理想のリーダー像

就任後、組をまとめる上で2つ心掛けたことがありました。

まず、リーダーでありながら、ともに舞台を創る仲間としての意識を持つこと。組織ではいかにコミュニケーションが取れているかが鍵となります。

最上級生である組長は、下級生にとって話し掛けづらい存在ですから、共通の話題を探る、常に声を掛ける、自分の出番ではない時も俯瞰し、一人ひとりに気づいた点はアドバイスする。こうした小さな積み重ねが、よりよい上下関係を築くための信頼に繋がったのだと感じます。

豊かな経験を持つ年長者ほど、自分の持つ〝物差し〟の目盛りを細かくし、相手に対して柔軟に対応する。こうした感覚を持ち、一段下がって接することも大切な秘訣ではないでしょうか。

もう1つは、自らが率先垂範し、皆の手本となることでした。

世の中には「上の人の背中を見て動く若者なんていない」という方がいらっしゃいますが、リーダーが諦めてはなりません。結果はすぐに出なくとも、根気強く信念を持って続けていれば必ず人は見てくれています。口先だけのリーダーでは、決して人はついてきません。自ら動くことを厭ってはならないのです。

華やかできらびやかな宝塚は、全くの別世界と感じる方も少なくないでしょう。しかしそこには、現代で忘れ去られた礼儀や気遣い、人を敬う心など、人として大切な教えが溢れています。20年間の宝塚人生を振り返って心に期すのは、その伝承こそが道をつくり、100年の歴史を紡いだということです。宝塚で得た学びが、少しでもリーダーの役割を担う方々のお役に立てばと、心から願います。


(本記事は月刊『致知』2015年9月号 連載「致知随想」より一部抜粋・編集したものです)

◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

◇大峯麻友(おおみね・まゆ)
昭和39年兵庫県生まれ。57年に宝塚歌劇団へ入団。平成10年、同劇団が65年振りに新たに発足した宙組の初代組長に抜擢され、劇団史上最年少で就任。現在は女優、歌手としての活動のほかに、宝塚歌劇団時代の経験を生かしたコミュニケーション・アドバイザーとして、多くの講演や、企業向けセミナーなどを手掛ける。著書に『100人中99人に「好かれる」ルール 』(泰文堂)『一流のビジネスマンは知っている ダマっていても人に評価される 「魅せる男」のつくり方』(秀和システム)など。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる