童謡はこんなにも素晴らしい——心を育む童謡の可能性とは? 大庭照子×海沼実

かつて日本の子供たちは、よく童謡を歌っていました。学校でも童謡が歌われ、テレビやラジオからも童謡が流れていました。しかし近年、そういう環境がなくなり、童謡が日常的に聞かれなくなってきました。それが子供たちの心の成育に影響を及ぼしていることはないだろうか、生活の中にもう一度童謡を取り戻すことが、現在の日本の様々な問題を突破する契機になるのではないか――。日本国際童謡館館長・大庭照子さんと、童謡の名作を数多く生み出した童謡作曲家・海沼実氏を祖父に持つ日本童謡学会理事長・海沼実さんに童謡の持つ力について語り合っていただきました。

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童謡の可能性は無限大

〈大庭〉
童謡の可能性を理事長はどのように考えておられますか。

〈海沼〉
もともと、童謡は子供の情操教育のためのものですから、音楽のスキルを高めたり、コーラスをつけてハモったりといった表面的な技術練習とは違うのです。特に、旧来からの童謡は非常にシンプルな音階でできていて、単純に弾けるような伴奏をつけて発表している作品が大半です。

ところが昭和30年代以降になると、情操を育むという本来の目的を忘れ、「こんな初歩的な和音の歌ばかりやっていたら西洋に取り残される」という人が出てくるんです。いくら楽譜通りに綺麗な音でバシッと百点満点の演奏をされても、子供にとっては面白くもなんともないんですけどね。

祖父がつくったオーケストラのスコアを見ると、正攻法の音と意表をつく音が混在していて、楽器奏者に対して「ここではひっくり返った音を出せ」といった指示もあったりします。それは子供が歌詞の世界に入りやすくするための工夫なんです。

いまの作曲家たちはそういう指示をあまりしませんが、私は結構書くようにしています。例えば『新幹線』という曲を作曲した時は「おもむろにホームでパーンと鳴らされた警笛のような音を出して」と管楽器に指示を書きました。すると奏者が「こんな感じですか?」と言って笑顔で吹いて見せるんです。奏者も楽しみながら吹くので、子供たちも歌っていて楽しいわけです。

感じて楽しむというのが情操教育の入り口だと思います。そのためにあれこれと工夫をするわけですね。祖父(初代・海沼實)の楽譜はそこを一所懸命に考えた上で書かれています。だから、楽譜から祖父の思惑とか、書いている最中の表情が見えるんです。祖父が遺した楽譜との対話は私にとって最高の学びでした。

〈大庭〉
私はスクールコンサートで童謡を歌うようになって、童謡の無限の可能性を感じました。理科でも社会でも、童謡を取り入れて授業をすれば子供たちも楽しいと思うんです。例えば『青い眼の人形』なら国際交流を考えることができます。

この歌は、移民問題で日米関係がぎくしゃくしていた時に、ギューリック博士という方が国際親善ボランティアで日本にたくさんの人形を届けられて、それを渋沢栄一が全国の学校に配ったという実話がもとになっています。それを子供たちにも説明をして、歌っています。

また『里の秋』は昭和20年12月24日、敗戦でうちひしがれている国民を勇気づけるために放送されたと言われています。

私は小学校1年生でした。川田正子さんの歌声に感動したことを憶えています。この歌を通して私は子供たちに「食べるものがあるということがいかに幸せか」「給食はどのような形で始まったか」、そして平和の尊さを伝え、平和の歌として歌っています。

昔の童謡を紐解いてみると、どれも「子供のために」という意気込みが感じられます。こんなに素晴らしい教材はないと思うのです。


(本記事は月刊『致知』2021年7月号 特集「一灯破闇(いっとうはあん)」より一部抜粋・編集したものです)

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◉月刊『致知』2023年6月号に、ノーベル賞受賞者の大村智さんと大庭照子さんの貴重な対談を掲載◉
お二人を繋ぐ童謡が持つ力についても語り合っていただいています。ぜひご覧ください

◇大庭照子(おおば・てるこ)
昭和13年熊本県生まれ。35年フェリス女学院短期大学音楽科声楽科専攻科卒業。46年NHK「みんなのうた」で『小さな木の実』を歌い童謡の道へ進み、翌年「大庭照子のスクールコンサート」を全国で開催。3000校以上の学校を回る。50年大庭音楽事務所設立。平成6年熊本・阿蘇に日本国際童謡館を設立、館長となり、11年にNPО法人の認可を受ける。著書に『「小さな木の実」とともに』(家の光協会)がある。

◇海沼実(かいぬま・みのる)
昭和47年東京都生まれ。幼少期から祖父・海沼實が創設した合唱団「音羽ゆりかご会」の一員として童謡に親しんで育つ。明治大学文学部卒業。NHKラジオ「ラジオ深夜便」に出演。新聞コラムの執筆、講演の他、音楽指導者の育成にも携わる。日本歌手協会理事、日本ペンクラブ会員。平成30年より現職。著書に『海沼実の唱歌 童謡読み聞かせ1、2』(東京新聞出版局)などがある。

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