あなたは、どこまで人を許せますか?——塩見志満子×高橋恵が語る人生のテーマ

共に弊社刊『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』に登場された塩見志満子さんと高橋恵さんの人生は、幼少期から試練の連続でした。しかし、その試練を糧に力強く生きる中で、二人は誰かの幸せのために生きる中にこそ、人生の喜びがあるといいます。塩見さん85歳、高橋さん79歳。貴重な対談記事をお届けします。

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どこまで人を許せるかをテーマとして生きる

〈塩見〉
さっき私ね、東京で中学の体育教師をしていたと言いましたが、「おなごが東京なんかにおったら、ろくなことはない」と父が愛媛に連れ戻しに来たんです。そこで教員試験を受け直して地元の高校の体育教師になりました。私が運動は苦手でも体育教師を続けることができたのは、子供たちの長所が分かるこの両目のおかげです。「バスケットの手本はあの子にさしたれ」「バレーボールの手本はあの子にさしたれ」と上手な生徒を見つけては、褒めて育てました。体育ができん子も「先生が放課後もいるから、一緒にやろうよ」と言って遅くまで練習しました。一所懸命やることで必ず上達できるようになることを実感させていったんです。私はこのように生徒のいいところを見つけることができた。そのことに命を懸けてきました。

〈高橋〉
私の母がそうしてくれたように、人間は褒められると、もっと頑張れるんです。塩見さんのお話には心から共感します。それにしても、塩見さんは4人のお子さんのうち、男の子2人を白血病やプールの事故で亡くされているんですよね。しかも、プールの事故の時は、背中を押した犯人を突き止めることなく、相手を許される。『365人の仕事の教科書』でそのことを知って、本当に涙が流れました。

〈塩見〉
小学2年生の長男が白血病で亡くなったのは私が38歳の時でした。それで4人兄弟姉妹の末っ子の二男が三年生になった時、「ああ、この子はお兄ちゃんのように死ななかった」とホッとしていたんです。まさか夏にプールで背中を押されてコンクリートに頭をぶつけて、あっけなく亡くなるとは思ってもみませんでしたね。報せを受けて驚いて小学校に行きました。子供たちが集まってきて私に謝るんですけど、怒りが込み上げてくるんです。そこに高校の教師をしていた主人がやってきて二人で話して「犯人の子と両親は、一生その罪を背負っていかんならん。うちの子が心臓麻痺で死んだことにして、許してあげよう」と決めたんです。「犯人を見つけて、この子が帰るなら命を懸けて戦うけれども、帰らんなら犯人は分からんほうがええ。やめよう」言うて。

二男は、幼い頃からお小遣いを貯めて教会に持っていって献金をするような優しい子でした。私が嬉しかったのは、同級生の子たちが二男の死後、その思い出を本にしてくれたんです。あの時、私が40人を訴えていたら、子供たちからこんな思い出の本はつくってもらえなかった。だから、許すというのは身を切られるように辛いけど、どこまで人を許せるかを死ぬまでテーマにして生きていったら、人生はきっと楽しくなると思います。

〈高橋〉
塩見さんだからこそ言える言葉ですね。

誤らなければ死ぬことができない

〈塩見〉
20年以上前、主人が定年退職後に交通事故で亡くなった時もそうでした。夫を撥ねた若いトラックの運転手がやってきて、「僕は殺されても仕方がありません。奥さんのいいようにしてください」と泣きながら土下座をして謝りました。いまでも何でそんなことを言ったか分かりませんが、世界一憎らしいその人に私は言うたんです。「あなたは若いから、主人の分まで幸せになってください、私が警察に嘆願書を出すからどうかそうしてください。私はあなたを許すことからしか次の一歩を踏み出せないんです」と。

運転手は「そんな優しいことを言われたら、僕は生きられん」と言って大泣きましたが、私はひと言もその人を責めませんでした。だけど、私のきょうだいや主人の家族が毎日のようにやってきては「あんたは間違ごうとる。一番好きだった旦那の命を奪ったその人をなんで許すか」と私を散々責めました。「でもこれが私の生き方。許してあげたいんです」と一年くらいずっとそう言い続けて、理解してもらえたんです。いまでは「私らが無理を言うた。悪かった。あんたが正しかった」と皆言ってくれています。

〈高橋〉
そうでしたか。そういう悲しい体験もされていたのですね。

〈塩見〉
2月2日は主人の命日です。お墓は今年も花でいっぱいでした。それを全部やってくださったのは交通事故の相手の方なんです。40代になっても「結婚する資格なんか僕にはありません」とおっしゃるんですけど、「お父さんはあなたが一人でいることを悲しんでいると思うから、お願いだからいい相手を見つけてくださいね」と。人を許すことを教えてくれた主人も、きっと私と同じ思いだと思います。


(本記事は月刊『致知』2021年5月号 特集「命いっぱいに生きる」から一部抜粋・編集したものです)


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致知出版社編集部ブログ

◇塩見志満子(しおみ・しまこ)
昭和11年愛媛県生まれ。日本女子体育大学卒業後、東京都立中学校、愛媛県立高校、同養護学校で教師を務める。退職後、自宅横に知的障碍者が集える「のらねこ学かん」を設立。講演などを続けながら運営に当たる。

◇高橋恵(たかはし・めぐみ)
昭和17年生まれ。短大卒業後広告代理店に勤務。同社を結婚退職後、2人の娘の子育てをしながら様々な商品の営業に従事し、トップセールスを記録。60年42歳の時にサニーサイドアップを設立。現社長の長女・次原悦子と高校時代の友人・松本里永を巻き込んで始めた同社は現在東証一部に上場。平成25年おせっかい協会を設立。著書に『あなたの心に聞きなさい』(すばる舎)。5月に新刊『営業の神様が笑う時』(秀和システム)を刊行予定。

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