600人のプロ集団!「はやぶさ2」プロジェクトを成功に導いたマネジメントの極意

  津田雄一さん(写真提供=JAXA)

小惑星探査機「はやぶさ2」。地球から約3億キロメートル彼方に位置する小惑星「リュウグウ」でのサンプルリターンミッションを果たし、昨年12月6日に地球へ帰還しました。約600人の多国籍のスペシャリストで構成される一大プロジェクトを5年半にわたり牽引し、世界初となる偉業を7つも成し遂げたのが津田雄一氏です。39歳の若さでプロジェクトリーダーに抜擢された津田流のチームマネジメント手法やリーダーとしての心得から、成功の扉をひらく要諦を学びます。

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600のプロ集団を束ねる上で心掛けたこと

――プロジェクトに携わる人数は実に500人を超えるそうですね。

〈津田〉 
いろんな数え方があって、メーカーの下請けや大学の研究者の助手の人たちを入れると数千人になると思うんですけど、私から直接連絡することができる範囲で600人と申し上げています。

もちろん私より年齢もキャリアも上の人たちが数多くいますし、JAXAの職員以外にも企業や大学などに様々な分野の専門家がいます。加えて、日本人だけではなく、アメリカやドイツ、フランス、オーストラリアの研究者もいます。ですから、国籍も年齢も所属も専門分野も違う600人のスペシャリスト集団なんです。

――そういう人たちを束ねていくのは並大抵でないと思いますが、津田さんは日々どういったことを心掛けてこられましたか?

〈津田〉 
すごく専門性の高い研究者や技術者ばかりなので、まぁ私の言うことを聞かないんですよ(笑)。若いゆえにそれは無理もないなと思いました。

私の場合、皆をグイグイと引っ張っていくような君臨するタイプのリーダーではありません。じゃあ自分でもやれるマネジメントの仕方って何だろうと考えた時に、600人のチーム全体が一人の人間のように同じ意志を持っていて、だけど頭脳は一人の人間ではなく600人の頭脳があるわけだから、それが有機的に結びつくことでいろんな難題に取り組める。たくさんの人がいるけれども、最後までバラバラになることなく、問題が生じたら解決に向けて皆で頭を捻って答えが出せる。そういうチームにしたいと思ったんです。

なので、それぞれのメンバーがどういうバックグラウンドを持っているのか、「はやぶさ2」にどういう思いで携わっているのかということをまず知る。そこを理解した上で、「じゃあこういう役回りでやってくれないか」と。そうやって一人ひとりと個別にコミュニケーションを取り、丹念に調整していきました。

――一人ひとりのメンバーと誠実に向き合ってこられたと。

〈津田〉 
あと、私から放射状にコミュニケーションが延びるだけに留まらず、メンバー同士が繋がれるように仕事を割り振っていくことも心掛けました。

その時に、私は私で専門分野があるので、例えば自分で軌道計算をしたり、プログラムを書いたりして、「これだったらどう?」という形で議論が円滑に進むように、要所で自ら現場に関わっていくことを続けてきました。単に指令を出すとか言い逃げをするだけではダメで、やっぱり「本気なんだな」と思ってもらえなければリーダーは務まりません。それには知識が不可欠です。

また、自分の専門分野以外の勉強も随分しました。相手のことを知り、相手の主張を理解するためにはどうしても相手の専門分野に入り込まざるを得ないので、分からないところは素直に教えを請いながらやっていましたね。

ですから、組織をまとめていく上では「知識」と「コミュニケーション」、この二つが必要だと感じています。

最強チームをつくり上げた二つの「訓練」

――津田さんは別の記事で「指示を待つ集団ではなく、自律的に考えて失敗を乗り越える集団にしたい」とおっしゃっていましたね。こういう集団をつくるためには何が鍵になるとお考えですか?

〈津田〉 
そのために必要なのはやっぱり手を動かせることです。頭の中だけで考えているとどうしても頭でっかちになってしまう。考えたことがそのまま実行できるとは限りませんからね。

実際に我われは「リュウグウ」に到着するまでの2年間くらいをかけて、主に二種類の訓練を行いました。

一つは解析訓練。「リュウグウ」がどんな小惑星なのか行ってみないと分からないので、仮想モデルをいくつか設定し、もしこういう場合だったらどういうふうに着陸しますか、どういうデータ解析をしてその答えを導きますか、と。

もう一つは実時間訓練。シミュレーターを使って探査機に様々なトラブルをわざと発生させ、その過酷な状況でオペレーターたちが正しい判断をできるか試す、いじめるタイプの訓練(笑)。主に私が問題を出すんですけど、オペレーターは「こんなトラブルを二重三重にかけるのは酷い」と文句を言いながらも、こういうことが起こったら自分だけの手には負えないと自覚するので、オペレーター同士が助け合うようになるんです。

そうやって頭で思っていたほど自分たちはできないことを認識すると、事前にこういう手順をマニュアル化しておきましょうとか、起こるか起こらないか分からないけど、起こることを前提にこういうコマンドを事前に打っておきましょうとか、どんどん自分たちで打つべき手を考えるようになるんですね。

プロジェクト内の200人くらいのメンバーで、2年間毎日のようにこの訓練を繰り返していきました。そうすると私が何も指示を出さなくとも、素晴らしいチームが自然とできていったんです。芸術作品を見ているような感覚でした。


(本記事は月刊『致知』2021年1月号 特集「運命をひらく」から一部抜粋・編集したものです)

◉津田雄一さんにインタビューを行った編集者が記事の裏側を綴る!◉
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◇津田雄一(つだ・ゆういち)
1975年広島県生まれ。2003年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。同年JAXA(宇宙航空研究開発機構)に入る。小惑星探査機「はやぶさ」の運用に関わると共に、ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」のサブプロジェクトマネージャを務め、世界初の宇宙太陽帆船技術実現に貢献。2010年より小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトエンジニアとして開発を主導し、2015年4月同プロジェクトマネージャに就任。

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