【3分で読める感動実話】「人」という字を刻んだ息子——秋丸由美子

1万本以上に及ぶ月刊『致知』の人物インタビューと、弊社書籍の中から、仕事力・人間力が身につく記事を精選した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。致知出版社が熱い想いを込めて贈る渾身の一書です。本記事では博多名物として大人気の「博多通りもん」を生んだ明月堂の教育室長・秋丸由美子さんの記事をご紹介します。

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命を懸ける覚悟をきめてくれた息子の言葉

関東・関西の菓子業界を主人と行脚していて、忘れられないのが、神戸のある洋菓子店に飛び込んだ時のことです。そのオーナーさんは忙しい中、一時間ほどを割いてご自身の生き方や経営観を話してくださったのです。誰にも相手にされない状態が長く続いていただけに、人の温かさが身にしみました。人の心を動かす、人を育てるとはこういうことなのかと思いました。

いま、私たちの長男がこのオーナーさんのもとで菓子作りの修業をさせていただいています。

全国行脚を終えた私たちは、社員の人格形成に力を入れる一方、それまで学んだことを商品開発に生かせないかと社長や製造部門に提案しました。そして全社挙げて開発に取り組み、苦心の末に誕生したのが、「博多通りもん」という商品です。まったりとしながらも甘さを残さない味が人気を博し、やがて当社の主力商品となり、いまでは博多を代表する菓子として定着するまでになっています。

「天の時、地の利、人の和」といいますが、様々な人の知恵と協力のおかげでヒット商品の誕生に結びついたことを思うと、世の中の不思議を感ぜずにはいられません。

ところで、余命10年といわれていた主人はその後も元気で働き続け、私も一安心していました。しかし平成15年、ついに肝不全で倒れてしまいました。

手術で一命は取り留めたものの、容態は悪化し昏睡に近い状態に陥ったのです。

知人を通して肝臓移植の話を聞いたのは、そういう時でした。私の肝臓では適合しないと分かった時、名乗り出てくれたのは当時21歳の長男でした。手術には相当の危険と激痛が伴います。万一の際には、命を捨てる覚悟も必要です。私ですら尻込みしそうになったこの辛い移植手術を、長男はまったく躊躇する様子もなく「僕は大丈夫です。父を助けてください」と受け入れたのです。この言葉を聞いて、私は大泣きしました。

手術前、長男はじっと天井を眺めていました。自分の命を縮めてまでも父親を助けようとする息子の心に思いを馳せながら、私は戦場に子どもを送り出すような、やり場のない気持ちを抑えることができませんでした。

そして幸いにも手術は成功しました。長男のお腹には、78か所の小さな縫い目ができ、それを結ぶと、まるで「人」という字のようでした。

長男がお世話になっている神戸の洋菓子店のオーナーさんが見舞いに来られた時、手術痕を見ながら「この人という字に人が寄ってくるよ。君は生きながらにして仏様を彫ってもらったんだ。お父さんだけでなく会社と社員と家族を助けた。この傷は君の勲章だぞ」とおっしゃいました。この一言で私はどれだけ救われたことでしょう。

お腹の傷を自慢げに見せる息子を見ながら、私は「この子は私を超えた」と素直に思いました。と同時に主人の病気と息子の生き方を通して、私もまた大きく成長させてもらったと感謝の思いで一杯になったのです。


(本記事は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』より一部を抜粋・編集したものです)

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