歴史に学ぶリーダーシップ研究の集大成 『人望力』発刊に寄せて——瀧澤中【前編】

西郷隆盛、二宮尊徳、徳川家康、ジョンソン大統領……。この度発刊した『人望力』(著・瀧澤中)は、歴史に名を残す偉人たちのリーダーシップを「人望力」というキーワードのもと、徹底的に解剖した話題の一冊です。本記事では刊行を記念して、著者の瀧澤中さんに、制作秘話や読みどころ、本書に込めた思いを語っていただきました。前後編、2回に分けて特別寄稿記事をお届けいたします。
 ⇒後編はこちら

「この人のためなら」の重要性

私はこれまでライフワークとして「歴史上の失敗」を考察してきました。英雄や偉人や有能な指導者がなぜ失敗を犯すのか、ということです。

そして読者や講演を聴きに来られた方から、様々なご質問をいただきました。多かったのは、「ではいったい、どうすれば失敗をしないですむのか」ということでした。 

私はその都度、「〝失敗しない確実な方法は何もしないこと〟ですから、失敗を恐れてはいけません。大切なのは、失敗をどうやって次の成功につなげるか、です」と申し上げてきました。

失敗してもチャレンジし続けなければ、成果は上がりません。しかし、チャレンジし続けるためには自身の努力は当たり前ですが、周囲の協力が不可欠です。

協力を得るにはどうしたらいいのか。それは、「この人のためなら」という思いを周囲の人間に感じてもらうことが重要です。

武田勝頼が失敗したのは、「この人のためなら」という思いがどんどん失われていった結果なのです。

逆に、西郷隆盛がどん底の流人生活から復活できたのは、「この人のためなら」と、周囲に思われる人間だったからです。このことをお伝えしたい、という思いを強く抱いて『人望力』を執筆しました。

「人望力」は能力というより心構え

この本では、例えば西南戦争で敗れたときの西郷隆盛や、箱館戦争で戦死した古屋佐久左衛門なども取り上げました。

政治史で言えば、彼らは「敗者」です。しかし西郷隆盛については、死ぬとわかっている戦場に軍解散後も372人の人間がついていったことを重視しました。そもそもこういう力がなければ、大事は成せないのではないか。

あるいは、負けても負けても必ず人員が戻って戦い続ける古屋佐久左衛門の衝鋒隊。彼もまた敗者ではありますが、負けいくさが続いても慕われ続けたことが、旧幕府軍の中で「最強」と言われた要因でした。

では、彼らの力は何なのか。

それが表題にもなった「人望力」、「人望の力」だと考えました。

そして彼らの行動を考察して、「人望力」は能力というよりは、心構えであったり、志であったり、他人を思いやる気持ちといった、誰もが心掛ければ身につくものだと気がつきました。

反対に能力があってもダメなケースがよく見られます。

たとえば、実績を上げているスポーツ競技団体で、監督・コーチを含めた運営側と選手との関係が悪化した末の不祥事。

マスコミなどで評価が高かった大企業経営者が、じつは莫大な額にのぼる会社のカネを使い込んでいたのではないか、という疑いによって追放された事案。あるいは、政治の世界で「きわめて有能」と評価されながら、なぜかトップに立てない人々。

人々を動かすのは能力というよりも、人望の力の方が大きいのではないか。もちろん能力はあった方が良いにきまっています。しかし、有能でも指導者になれないのはなぜなのかと考えたとき、そこに「人望力」の存在があると考えました。

「各章1冊分」の労力

今回ほど、「どこを削るのか」に苦労した本はありません。

まず、人望という視点から人物を考察するのに、その人物の実績だけではなく、「なにを言い、どのように行動したのか」を具体的に描かなければなりません。加えて、同時代のできれば直接接した人間の回顧の中から、彼らがついていった人物の横顔を描きたい。そのために、かなりの量の資料を漁りました。

結果、やはり人望のある人物にはエピソードが多いのです。ですから、その中で最も人望力が際だって見えた瞬間にスポットを当てるのに苦労をしました。

例えば二宮尊徳には、現代の我々では考えられないような苦労の連続があるわけですが、その中で最も尊徳が苦悩したであろう問題を抽出し、その解決の顛末を人望力から解き明かしました。

リンドン・ジョンソン元大統領もそうですが、彼らは一冊の本に収まりきらないほど豊富な逸話を残しています。

そういう意味で「各章1冊分」くらいの資料を読み、あるいは取材し、考察をしました。物理的にはかなりきつかったのですが、それだけに良い本が書けたと思っています。

→思わず涙のこみ上げた旧海軍のエピソード、「人望力」のあった総理大臣やアメリカ大統領、不敗の名将たちの共通点……後編では、本書の読みどころや執筆秘話をご紹介! ◉後編はこちら

◉〈人望力〉をいかに磨くか? 『致知』202111月号では、瀧澤さんに海上自衛隊幹部学校長・真殿知彦さんとお語り合いいただきました。リーダーのどんな姿勢が人望となり、組織の未来をひらくのか――。詳細は以下よりご覧いただけます。
 瀧澤 中(たきざわ・あたる)
昭和40年東京都生まれ。日本経団連・21世紀政策研究所「日本政治タスクフォース」委員歴任。著書に『「戦国大名」失敗の研究』『「幕末大名」失敗の研究』(共にPHP文庫)『秋山兄弟-好古と真之』(朝日新聞出版)『ビジネスマンのための歴史失敗学講義』(致知出版社)など多数。最新刊に『人望力』(致知出版社)がある。

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