天の意に沿って生きる——コーヒー農園経営・鈴木功

 

北海道大学を卒業後、単身ブラジルに渡り、無農薬有機コーヒー農園を経営する鈴木功さん。しかし、決してその歩みは順風満帆ではなく、一時は深刻な経営難に陥り、「死んだほうがましだ」を考えるほど追い詰められたといいます。鈴木さんはそこからいかにして立ち直り、無農薬有機農業という自らの使命にまで辿り着かれたのか――人生の歩みを語っていただきました。

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どん底での気づき

〈鈴木〉

私はブラジルで無農薬コーヒーの栽培を行っています。北海道大学を卒業後、海外に雄飛して自分の力を試したいと、海外移住研修所での研修、北海道の農家での実習を経て、1980年に移住しました。

下働きをしながら仕事やポルトガル語を覚え、86年に日系3世の女性と結婚。87年、32歳で63ヘクタールの土地を購入して念願の独立を果たしました。電気も来ていないところに掘っ立て小屋を建ててのスタートでしたが、自分の農場を発展させようという夢と希望に燃えていたので苦労とは思いませんでした。

最初は米を、その後ブラジルでよく食べられるフェジョンという豆を植え、さらにコーヒー栽培を手掛けました。ところが、設備投資のため銀行融資を受けたことで利子等の支払いが困難になり、農場を売り払っても追いつかないほどの借金を抱えることになりました。

当時の私はお金など物質的な成功を目標に経営に取り組んでいましたから、「潰れたらおしまいだ。みっともない」などいろいろなことを思って悶々とし、「死んだほうがましだ」という考えが頭をよぎるほどでした。

精神的にも経済的にもどん底だったそのような時に、倫理道徳の研究と心の生涯学習を推進するモラロジー研究所から出ている『れいろう』という雑誌で、難病を乗り越えた、まつおかさわこさんの記事を読みました。まつおかさんは雑誌に「ご飯が食べられ、雨風がしのげ、痛いところがなかったら人生もうけもの」と書かれていました。この言葉が私の心にグサッと刺さりました。自分よりもっと悲惨な状態でありながら、素晴らしい人生を送っている人がいる。それを知った時、とても恥ずかしい気持ちになりました。

自分なんか、まつおかさんに比べたらずっとましじゃないか。農場が潰れても命を取られるわけではないし、家族がばらばらになるわけでもない。自分がしっかりしていれば、潰れても家族を食べさせていける。何をめそめそしているのか――こう考え、腹を括ることができたのです。結果的には、当時日本に働きに出ていた妻の両親の援助を受け、急場をしのぐことができました。10年ほど前のことです。

私は、まつおかさんやモラロジーに出合ったことで、物質的な成功よりも心を磨くことの大切さを知り、以来その勉強に励むようになりました。モラロジー研究所が発行する雑誌を取り寄せて読むだけでなく、稲盛和夫先生、鍵山秀三郎先生、坂村真民先生、神渡良平先生等々、数多くの先生方の本を貪るように読み、学んでいきました。そして、宇宙の法則、あるいは天の意というような、個々人を超えた大きな力がこの世にはあり、それに沿った生き方をすれば、すべてがうまくいくと悟るに至りました。

鈴木氏の農園に実ったコーヒー

無農薬有機農業を天職に

それは自然と調和した生き方でもあります。私はそれまで農薬や肥料を使う近代農法でコーヒーをつくっていましたが、残留農薬や環境汚染の問題を抱える農法は自然や社会と調和したものではない。自分にも自然にも社会にもよいのは無農薬でコーヒーを栽培することだと考えるようになり、無農薬・有機栽培に転換しました。

ただ、無農薬・有機栽培で経営を軌道に乗せられる経営者は10人中1人というのが現実で、私も潰れそうになりました。しかし、諦めませんでした。有機栽培に切り替えて3年間は政府から証明書が出ず、その表示をすることができません。

とにかく証明書を得て、新たな販売ルートができるまでは石にかじりついても頑張ろうと決意しました。資金を得るため日本に出稼ぎにも行きました。夜は地下鉄の工事現場で働き、昼はガードマンをやりました。警備をしながら立ったまま眠ってしまうほど過酷な毎日でしたが、くじけそうな時は繰り返し諸先生方の本を読んで心を磨き、おかげさまで3年を経てついに政府の認定を受けることができました。

危機を乗り越え今日まで来られたことで、また、心の勉強を積んできたことで改めて思うのは、自分が努力することはもちろん大切ですが、それを超えた大きな力に私たちは生かされているということです。

私を支え、苦労をともにしてきた妻との縁、私を目覚めさせてくれた、まつおかさわこさんや諸先生方との出会い、それらはすべて、自分を超えた大きな力、天の意によるものであること。そして、私の前に立ちはだかった様々な試練は、私の成長を促すために与えられた、天の恩寵的試練であることを実感しています。試練から逃げることなく、真正面からそれを受け止め、乗り越えようと努力すれば、必ず道は開ける。私はいま、そう確信しています。

現在63ヘクタールの農場に34ヘクタールの無農薬有機コーヒー農園を持ち、経営的にはまだまだ厳しい状況ではありますが、それは自分をもっともっと向上させなければいけないという天のメッセージであると受け止め、今後もさらに自分を磨いていく考えです。

そして死ぬ間際まで学び続け、少しでも人間性を高められるような人生を送っていけば、いつかは花開く――そのような信念をもって、妻とともに、無農薬農法をブラジルに広めていきたいと考えています。


(本記事は『致知』2009年3月号連載「致知随想」より一部抜粋・編集したものです)


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◇鈴木功(すずき・いさお)――ブラジル在住、コーヒー農園経営

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