幸せは日常生活のほんの小さなところにある——広島の少年たちを変えた〝トイレ掃除〟5つの効果

かつて「暴走族の街」との不名誉なレッテルも貼られていた広島。現在、町の治安は警察と県民の懸命な努力によって見違えるほど回復しましたが、その原動力のひとつとなったのが「トイレ掃除」の実践活動でした。これまであまり顧みられることのなかったこのトイレ掃除活動が持つ可能性とは――現地で青少年健全育成活動に尽力した竹花豊氏と、竹内光弘氏のお二人に語り合っていただきました。

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取り締まりだけでは根絶できない

〈竹内〉
私が広島西警察署にいた平成10年に、暴走族の強力な取り締まりをしました。しかし、取り締まりで一時的に静かになっても、しばらくするとまた同じことを繰り返す。何か根本的な対策はないかと考えていたんです。

そんな折に、長年お世話になっておった歯科医の先生が「鍵山秀三郎さんのトイレ掃除の話を聴いて自分の病院でも実践していますが、これは絶対にいいですよ」とおっしゃっていたのを思い出しましてね。翌112月に、補導した16人の暴走族の少年たちと駅のトイレ掃除をやったんです。

最初はどうすればよいか分かりませんから、鍵山さんが経営されるイエローハットに相談したら、山口の流通センターから3人のリーダーの方が車に道具をたくさん積んで応援に来てくださいました。

少年たちには最初、参加すれば押収された特攻服を返してもらえるかもしれないという下心があったようです。けれどもいざ始まると、びっくりするほど真剣に取り組んでくれましてね。彼らが素手で一心に便器を磨く姿には、視察に来た町内会長も、駅に立ち寄ったタクシーの運転手さんも、皆さん驚いていました。

彼らは掃除が終わっても、特攻服を返してくれとは言いませんでした。「返してもらうことで、この感動を失いたくない」と。そして、「またトイレ掃除をやりたい」という彼らの思いに応えて、その後も実践を続けたんです。

それが鍵山さんの耳にも入って、「広島は暴走族で大変でしょう。広島各地区には『掃除に学ぶ会』があるので、暴走族を連れてきなさい」とお手紙をいただきました。

〈竹花〉 
本当にありがたいお申し出でしたね。

〈竹内〉 
鍵山さんにはその後300通に及ぶ手紙のやり取りを通じて、大変熱心にご指導いただきました。

そういう中で、県警本部長に着任され、暴走族に対して過去に例のない厳しい取り締まりを始められた竹花さんからお電話をいただいたものですから、これはきっと注意されるに違いないと思いました。警察がやるべきことは取り締まりだ。トイレ掃除とは何事かと。

ところが電話に出てみると逆でした。「俺は感動した」と。

それまで警察の中には、私が暴走族の少年たちとトイレ掃除を行うことに否定的な声が結構ありました。上層部にも理解されるとは思えなかったので、報告はしていなかったんですが、一緒にトイレ掃除に参加していた者を通じて竹花さんの耳に入ったようですね。

〈竹花〉 
竹内さんの活動は、『中国新聞』の小さな記事を見て知りました。「こんなことをやっていたのか」と感動し、すぐ担当幹部に事情を聞いて竹内さんに電話したんです。

〈竹内〉 
あの時竹花さんは、「暴走族は取り締まりだけでは根絶できない。それが証拠に、いくら取り締まっても雨後の筍の如く次から次に湧いてくることはこの何十年の歴史が証明している。君たちがやっているように、市民と共に少年たちのサポートに取り組まなければ根絶しない。ぜひ続けてほしい」とおっしゃってくださった。びっくりすると共に、大きなチャンスがやってきたと思いました。(中略)

トイレ掃除の五つの効果

〈竹花〉 
もともとこのトイレ掃除の活動は、鍵山さんがたった一人で始められたものですね。

〈竹内〉 
はい。鍵山さんが60年前にローヤル(現・イエローハット)という自動車部品の販売会社を創業された時に、社員さんのために少しでもよい職場環境をつくろうと考えて、ご自身で会社のトイレを磨き始められたのがきっかけでした。社員さんには一切強制しなかったにも拘らず、一人、また一人と手伝う人が増えて全社的な活動となり、共感の輪は社外にも広がっていきました。いまではNPO法人「日本を美しくする会」が母体となり、全国、海外でも展開される社会運動に発展しています。

運動の一端を担うのが、鍵山さんの考え方や生き方に共感する人々によって各地で立ち上げられた「掃除に学ぶ会」です。活動に参加した暴走族の少年たちは、そこで何の得にもならないトイレ掃除に一心に打ち込む大人たちの姿を見て「こんな大人もいるのか?」と、驚きと感動を口にします。

会の皆さんは、トイレ掃除で心を磨こうと高い志を持って活動されています。鍵山さんの活動に触れて、これまでの生き方ではダメだと痛感し、トイレ掃除を通じて自分を変えたい、社会を変えたいという願いを持って参加されている。そういう無私の取り組みだからこそ少年たちの根を養い、更生の大きな力になったと思うんです。

掃除の効果については、鍵山さんが5つ挙げておられます。

1.心が磨かれる
2.謙虚になる
3.気づく人になる
4.感動しやすい人間になる
5.感謝の気持ちが生まれる

〈竹花〉 
その5つの効果は、実際に掃除に取り組んでみると実感できますね。

〈竹内〉 
はい。掃除に学ぶ会では、臭くて汚いトイレを素手で磨きます。最初はとてもできないと思いますが、やり始めるとだんだん本気になるんですね。黄色い水垢がみるみる取れてピカピカに光り、臭いもなくなっていく。トイレ掃除に参加したある小学生は「あぁ、空気がおいしい」と喜びの声を上げておりました。

そして最後に水を流して拭き取ると、素晴らしい達成感、充実感が与えられます。私たちは普段、お金、地位、名誉を追い求め、果てしない欲望の世界に埋もれてしまいがちだけれども、幸せは日常生活のほんの小さなところにあることに気づかされ、人生観、価値観がガラリと変わっていくんです。

鍵山さんは「自分の名誉のため、虚栄心を満たすためにやっていては成果は出ません。自分の欲望を満たすための努力をしても、世のためにならないし、それで人を喜ばすことはできない。欲望のための努力は何の意味もないのです」とおっしゃっています。

トイレ掃除に参加した学校の生徒からは、「自分の磨いたトイレを皆が気分よく使ってくれることを想像したら嬉しくなる」という声も上がります。人のためになること、人に喜ばれることが、こんなにも気分がよくなることに繋がるのだと気づかされ、そのことを通じて心の根も養われるんです。(後略)

(本記事は月刊『致知』2020年11月号特集「根を養う」から一部抜粋・編集したものです)

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◇竹内光弘(たけうち・みつひろ)昭和19年広島県生まれ。39年広島県警警察官を拝命。刑事を中心に40年間の警察人生を送り、平成16年広島県警本部少年育成課長を最後に退職。警察官時代に鍵山秀三郎氏に師事し、トイレ掃除を通じて多くの非行少年を更生させた。また、荒れた学校を立て直すために、地域ぐるみでトイレ掃除を実施。退職後も各地のトイレ掃除と講演活動を続けている。共著に『トイレ掃除の奇跡』(致知出版社)がある。

 ◇竹花豊(たけはな・ゆたか)
昭和24年兵庫県生まれ。48年東京大学法学部卒業、警察庁に入庁。平成2年警察庁刑事局捜査二課暴力団対策室長、4年同生活安全局薬物対策課長、6年大分県警本部長、8年警視庁地域部長、9年警察庁官房参事官、11年警視庁生活安全部長、13年広島県警本部長を歴任。15年東京都副知事。17年警察庁生活安全局長。19年警察庁退官。東京都教育委員、東京ビッグサイト社長等を務める。著書に『子どもたちを救おう』(幻冬舎)がある。

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