介護とどう向き合うか、認知症の母から生まれた詩——藤川幸之助 詩集『支える側が 支えられ 生かされていく』より

アルツハイマー型認知症となった母の介護に24年間向き合った詩人の藤川幸之助さん。その体験談や詩作は、近年、NHK Eテレ『ハートネットTV選』、『朝日新聞』天声人語欄にて紹介されるなど、大きな反響と感動を読んでいます。もうじき5人に1人が認知症を発症する時代が来るといわれている中で、藤川さんの体験と詩は読むものに大きな勇気と生きる力を与えてくれます。藤川さん初の自選詩集『支える側が 支えられ 生かされていく』(致知出版社刊)より、感動の詩作品をご紹介いたします。

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詩「親ゆえの闇」

また今朝も新聞にあった

介護中の母を息子が殺したと

母が言うことを聞いてくれず

介護疲れから暴力をふるったと

母殺しを決して美談で語ってはならぬ

しかし、私には指差して非難はできぬ

介護に潜むどす黒い闇

親ゆえの闇

 

食事をなかなか飲み込めず

一時間も食事が続いたかと思うと

今度は立ってどこかへ行こうとする母に

私は苛立って

「あんなにしっかりしていた

 母さんがどうなっちまったんだ

 しっかりしてくれ!」

母の両手首をきつく握りしめ

座らせて何度も何度も叱った

驚いた母はのどに唾液を詰まらせて

息ができなくなって咳き込んだ

背中をさすりながら

このまま母が死んでくれれば

母も私も楽になれるとふと思ってしまった

 

布団に横たわる母を寝かしつけた

両手首に青あざがあった

背中は見ずに電気を消した

介護に潜むどす黒い闇

親ゆえの闇

明日こそは母へ優しくしようと

毎日毎日自分を責めながらも

この闇の入り口に

私は立ったことがある

詩「私の中の母」

母よ

認知症になって

あなたは歩かなくなった

しかし、私の歩く姿に

あなたはしっかりと生きている

母よ

あなたはもう喋らなくなった

しかし、私の声の中に

あなたはしっかりと生きている

母よ

あなたはもう考えなくなった

しかし、私の精神の中に

あなたはしっかりと生き続けている

 

私のこの身体も

私のこの声も

私のこの心も

私のこの喜びも

私のこの悲しみも

私のこの精神も

私のこの今も

私のあの過去も

私のあの未来も

この私の全ては

母よ

あなたを通って出てきたものだ

 

母よ

私は私の中に

あなたが生きていることが

とてもうれしいのだ

詩「母の遺言」

二十四年間母に付き合ってきたんだもの

最期ぐらいはと祈るように思っていたが

結局母の死に目には会えなかった

ドラマのように突然話しかけてくるとか

私を見つめて涙を流すとか

夢に現れるとかもなく

駆けつけると母は死んでいた

 

残ったものは母の亡骸一体

パジャマ三着

余った紙おむつ

歯ブラシとコップなど袋二袋分

もちろん何の遺言も

感謝の言葉もどこにもなかった

 

最期だけは立ち会えなかったけれど

老いていく母の姿も

母の死へ向かう姿も

死へ抗う母の姿も

必死に生きようとする母も

それを通した自分の姿も

全てつぶさに見つめて

母を私に刻んできた

 

死とはなくなってしまうことではない

死とはひとつになること

母の亡骸は母のものだが

母の死は残された私のものだ

母を刻んだ私をどう生きていくか

それが命を繋ぐということ

この私自身が母の遺言

 

(本記事は藤川幸之助著『支える側が 支えられ 生かされていく』から一部抜粋・編集したものです)

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◇藤川幸之助(ふじかわ・こうのすけ)
昭和37年熊本県生まれ。小学校の教師を経て、詩作・文筆活動に入る。認知症の母親に寄り添いながら命や認知症を題材にした作品をつくり続ける。また、認知症への理解を深めるため全国での講演活動にも取り組んでいる。『満月の夜、母を施設に置いて』『徘徊と笑うなかれ』(共に中央法規)、『マザー』『ライスカレーと母と海』(共にポプラ社)、『支える側が支えられ 生かされていく』(致知出版社)『赤ちゃん キューちゃん (絵本こどもに伝える認知症) 』(クリエイツかもがわ)など著書多数。

 

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