2020年10月12日
東日本大震災をはじめ、2018年の北海道胆振東部地震や2019年の台風19号、また今年7月に九州地方を襲った豪雨など、住民の生活を揺るがす天災が後を絶ちません。そうした災害の発生時にいち早く派遣され、救護活動にあたっているのが日本の自衛隊です。
被災地での活動は苛酷を極めることが容易に想像されますが、その中でも任務を全うするための体力づくりの一環として、陸自・海自で毎朝行われている、ある体操があります。それがここでご紹介する自衛隊体操です。自衛隊の設立以来受け継がれてきたというこの体操の効果と魅力を、自衛隊体育学校 体育班長の柴田勉さんにお話しいただきました。〔シリーズ配信・後編〕
★前編はこちら
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
忙しい方のための3分間プログラム
〈柴田〉
今回は紙幅の都合上、本来21ある運動項目のうち、特に運動効果の高い項目に絞ってお伝えします。
所要時間は約3分。一つひとつの運動を生理的極限まで行うことを忘れないでください。全身を合理的に動かすため、中には複雑な組み合わせもありますが、焦らずゆっくり覚えましょう。
初めにご紹介する4つは、主に身体の各部位のストレッチに効果があるものです。項目の終わりごとに「つなぎの姿勢」を組み込んでいます。次の項目にスムーズに移れるよう、意識してください。
1.片膝屈伸
・まずは、両脚を閉じた直立姿勢で準備。手指は軽く握る。
・両腕を左右に大きく開き、右脚を大きく横に踏み出す。この時、つま先は外側に向ける。
・続いて右膝を3回、90度まで屈伸。それに合わせて腕を体の前で交差させ(イチ)、また横に開く(ニ)。再び交差させて(サン)直立姿勢に戻る(シ)。
・この一連の運動を左脚の側でも同様に行って1セット×2回。
・最後は直立姿勢に戻る(つなぎ)。
膝を曲げた時、膝がつま先より前に出ないぐらい脚を大きく開いておくことが大切です。1セットごとにイチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチとリズミカルにカウントしながら行いましょう。
2.胸の運動
・左脚を一歩前に出しながら深呼吸の時のように両腕を肩幅で頭上に上げる(イチ)。この時、左脚に重心を乗せ、右脚の踵は上げる。
・続いて、伸ばした腕を斜め後ろに引きながら、大胸筋を開く意識でY字に広げる(ニ)。この時、腹が前に出ないよう注意する。
・左脚を元の位置に戻し、頭上の両腕を前に振り下ろして軽い体の前屈と膝屈伸(サン)。その反動を使い、両腕を前に振り上げながらもう一度膝を屈伸する(シ)。
・この一連の運動を右脚でも行って1セット×2回。
・最後は左脚を大きく横に開き、両腕を体の前へ、肩の高さまで上げる。拳の腹は下に向ける。
初めに重心が後ろ脚に乗っていると、膝が曲がって胸が開かなくなるため、注意が必要です。
3.体の前後屈
・伸ばした両腕を背後に振り、上体も後屈させる(イチ)。その際は頭も後屈して顎を上げ、胸をしっかりと開く。続いて両手をやや後方から大きく回し頭上に伸ばす(ニ)。この時、踵を上げて伸び上がる体勢になる。
・腕を前に振り下ろして前屈、その反動を使って再度両手を頭上に上げる(サン)。もう一度勢いよく前屈を行う(シ)。
・この一連の動きを四回行う。
・最後は脚を大きく開いたまま、腕は体の横につけた状態にする。
股関節が硬い人は、できる範囲の前屈でOK。膝が曲がったり、顎が上がったりしないよう注意。
4.体の前屈前倒
・開脚したまま前屈、手で足首を外側から握る(イチ)。体の硬い人は、脛を掴むだけでもOK。
・両腕の力を使い、両脚を握ったまま頭を脚の間にぐっと引き寄せ、前屈を深める(ニ)。次に両手を離し、左右水平にピンと伸ばしながら、上体を四十五度ぐらいまで起こして静止(サン、シ)。一拍置いて再びイチの前屈に入る。
・これを1セットとし、計4回。
・最後は上体を上に戻す。
バランス力を高める体幹強化項目
〈柴田〉
ここからご紹介する4つは、主に体幹強化に役立ちます。その分動きも大きくなりますので、無理のない範囲で実践してください。
5.体の斜前屈
・両腕を横に大きく開くと同時に、踵を上げる(イチ)。続いて踵を下げ、上体を左脚のほうに斜前屈し、右手の内側で左脚の外側をタッチ。胸が太腿にくっつくようにする(ニ)。
・上体を起こして両腕を横に大きく開き(サン)、両腕を体の前でクロスさせる(シ)。右脚側の斜前屈に入り、これを2回行う。
・最後は直立の姿勢になる。
6.統制運動
・左脚を肩幅に開くと同時に両手を最短距離で肩へ移動し、指を肩につけた状態で胸を張る(イチ)。左脚をさらに大きく開いて膝を曲げ、左腕は真上へ、右腕は真横へまっすぐ伸ばす(ニ)。素早くイチの姿勢に戻り(サン)、直立姿勢になる(シ)。反対も同様に行って一セット×4回
・終了後、直立姿勢に戻る
この運動は上体を真っ直ぐに保つため、常にお腹から力を抜かずに行いましょう。一つひとつの動作をカメラのシャッターを切るように「節度」を持って行うことで、肩や腕、体幹が鍛えられます。
7.体の側屈
・左脚を開き、両腕を体の右に向けて伸ばし、時計回りに1回転半ほど回し(イチ、ニ)ながら左腕を体の右側に二回倒す(=側屈/サン、シ)。身体の側面が伸びるよう意識する。イチ、ニで両腕を回す時、腕が上に行ったら踵も上げる。サン、シでは倒さないほうの腕は胸に当てておく。
・次いで今度は反時計回りに腕を1回転半回し、右腕を2回倒す。
・これを1セット×2回
・最後は両足を大きく開いたまま、両腕を体の前で交差させた状態に。
この運動では頭が前に倒れやすいため、身体をきちんと横に曲げるよう意識してください。
8.体の前屈前倒振
・腕を左右へ水平に伸ばし(イチ)、上体を前に倒すと同時に脱力した両腕を地面へ叩きつけるように振り下ろし、その勢いを使って身体の前で交差させる(ニ)。上半身を45度程度まで起こし、同時に腕を左右に開く(サン)。
・このニ、サンの動きをシー、ゴと続け、再度前屈(ロク)した後上体を完全に起こし、腕を左右に開く(シチ)。腕を体の前で交差
させ(ハチ)、イチに戻る。
・一連の動作を2回行い、終了後は脚を開いた最初の状態に戻る。
いかがでしょうか。ここまでの体操で腹筋・背筋が働き出し、体幹が活性化してくるはずです。
生活に即した形で自衛隊体操を継続せよ
〈柴田〉
最後の4項目は、主に筋力アップに繋がる運動と、クールダウンのための運動です。
前者は回旋や跳躍といった非常に大きな動作が必要になり、ここでは詳細を省きますが、完全にマスターしたい方は自衛隊の公式YouTubeチャンネルで全21項目を公開、実演しておりますのでご覧ください。
9.体の回旋
腰を中心にして上体を大きく回し、腕の反動を使って逆回しを行います。腰回りや背中の柔軟性を高めると共に、三角筋など背中側の筋力強化にも効果があります。
10.開脚跳躍
まず踵を上げた状態で膝を半屈させ、そこから手足を広げて垂直にジャンプします。勘違いされやすい点としては、跳んでから手足を広げるわけではないという点です。基本運動にあったように、筋力を使って手足を「上げる」、その勢いで跳躍を高くします。
11.腕側振腿上げ
直立姿勢から両腕を左右に開くと同時に右膝を直角に上げ、膝を下げると同時に両腕を体の前で交差させます。両腕と片足を交互に、なめらかに動かすイメージです。これを左右交互に8回行い、呼吸を整えていきましょう。
12.深呼吸
自衛隊体操における深呼吸は、「吸って、吐いて」という一般的なラジオ体操の深呼吸と違い、3拍で吸って1拍で吐く、というのが大きな特徴です。
・まずは気をつけの姿勢。ラジオ体操と同様に腕を頭の上へ伸ばし、両腕をY字に開く(イチ、ニ、サン/息を吸う)。首を脱力して腕を横から下ろす(シ/息を吐く)。
両手を後ろに引きながら胸を開き(ゴウ、ロク、シチ、ハチ)、最初の気をつけの姿勢に戻る。
・これを2セット繰り返す。
ここまでの12項目をスムーズに実施すれば、約3分で大きな達成感が得られるでしょう。まずは一つひとつの動作を正しく覚えることが、効果を上げる早道です。
自衛隊ではこれを毎朝行っていますが、読者の皆様にはご自身の生活リズムに合った形で取り組んでいただければ嬉しいです。
日中お仕事をされている方なら、起床後、出社する前に取り入れられることをお勧めします。汗をかく運動をすることで、高揚感や多幸感を覚えやすくなるエンドルフィンなどの神経物質や成長ホルモンが分泌され、仕事にも好影響が出ると思われます。なお、起床後に軽く糖質を摂っておくと脳の働きも高まるでしょう。
初めに挙げた運動NGの時間帯を避けていれば、お昼休みや入浴前に行っても構いません。大切なのは続けられる形で始め、自分のルーティンにしてしまうことです。「継続は力なり」。そうすれば、自ずと身体が変わっていきます。
ぜひご自宅や職場で体操を実施し、効率のよい心身のリフレッシュ、免疫力向上にもお役立ていただきたいと思います。新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、この自衛隊体操が、皆様がこの自粛期間を自律的に乗り切る一つの手立てになれば幸いです。
(本記事は『致知』2020年9月号 連載「大自然と体心」より一部を抜粋・編集したものです。) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
◇柴田 勉(しばた・つとむ)
昭和41年福岡県生まれ。60年に航空自衛隊入隊後、高射部隊、教育部隊、司令部に勤務。平成19から24年自衛隊体育学校の体育教官を務め、29年から現職。日本スポーツ協会公認スポーツ指導員。『自衛隊体操公式ガイド』(講談社)では体操指導を務める。