経営の神様・松下幸之助が、終戦翌日のスピーチで社員に語った「天の訓え」—— コロナ時代の経営と人生

赤貧・病弱・無学歴にも拘らず丁稚奉公から身を起こし、一代で世界的企業をつくり上げた松下幸之助氏。戦後は予期せぬ財閥指定や公職追放などの逆境に見舞われるも、それを見事に乗り越えていきますが、終戦のまさに翌日、驚くべき内容のスピーチを社員に向けて行っていました。コロナ禍で学びを深めようと『松下幸之助発言集』全45巻を読破した上甲晃さん、それに触発され自らも同全集を読み返した中博さん――共に松下電器時代、直に幸之助氏の薫陶を受けたお二人は、「経営の神様」から何を学んだのか。ウィズコロナ時代への示唆となる逸話をご紹介します。

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危機を自分の人生の要にする

〈中〉
上甲さんがおっしゃるように『発言集』を子細に読むと、コロナ対策は全部書かれていると感じます

幸之助さんだったらコロナの危機をどう考えるんだろうかという視点で僕は読んでみたんですけど、この人がすごいと思うのは、どの巻にも危機を目前にしてどうするかということが必ず出てくるんですね。

幸之助さんほど、危機を自分の人生の要にする人はいないなと。おそらくこの人は単純にハッピーに生きていくのではなく、危機を糧にして成長していった人だなとつくづく感じました。

例えば、日本が敗戦した昭和20年8月15日の翌日に、社員に向けてこうスピーチしています。

「眼前の破局は天の啓示であり、天訓(てんくん)である」

これはすごいと思うんですよ。当時は日本中が失意と絶望のどん底にいましたから。

たぶん幸之助さんがこの状況を見ても、「眼前のコロナ禍は天の啓示であり、天訓である」って言うと思います。

〈上甲〉
そうでしょうね。

〈中〉
また、「真実の日本精神を取り戻す絶好の機会である」とも言っているんですね。

敗戦でボロボロになるのではなく、2,500年培ってきた日本精神を発展させる契機だと。今回のコロナ禍でもオロオロせず、決然と我われはこの眼前を見るべきだと思うんですね。

もう一つは、「後ろへ退くな」。これも本当に大事なことで、まさにコロナもそうだと思うんです。あまりにコロナを恐れて萎縮すると、経営ができなくなる。幸之助さんは後ろへ退くな、命を懸けろとまで語っています。

新型コロナウイルス以上に多くの死者を出したスペイン風邪が日本で流行したのは、1918年から1920年です。ちょうどその最中に松下電気器具製作所は設立されているわけですね。

前後の年を見ると、日立製作所とか白洋舎とかマツダとか、いま日本を代表する会社が続々と勃興しています。サントリーの鳥井信治郎(とりい・しんじろう)もスペイン風邪の最中に全くめげず、赤玉ポートワインを売っていくわけですよ。だからこういう危機の時こそ後ろへ退かずに考え抜いたら、新機軸が出てくる。

〈上甲〉
「依存心を持つな、頼るな」という発言もよく出てきますね。

何とかしてくれという気持ちが一番よくない。そうではなく、自分で何とかしてみせるという自立心が根っこになければダメだと。

終戦による松下幸之助の「目覚め」

〈上甲〉
先ほど中さんもお話しされていた敗戦翌日のスピーチ。これには本当に感動しました。

「ついに大東亜戦争もその目的を達成し得ずして、ここに残念な形において幕を閉じることとなった。ここに至っては、如何(いかん)とも致し方がない。
(略)
ここ当分、次々と予想もできない困難な事態に逢着(ほうちゃく)もしよう。しかしこれを快刀乱麻を断つ如く捌(さば)いて、結末を与えていく基礎は、やはり真の日本精神である。しからば日本精神とはいかなるものか。日本精神とは畢竟(ひっきょう)至誠、誠を全うする心である。
(略)
日本精神を体得すればいかなる難問題に直面しようともこれを打開する方途(ほうと)が生まれ、万事が自ずから成就し、成功するものである。この精神の消長は国家の隆替に密接な関係を有し、日本精神が国民に保持されている時は必ず繁栄したのである」

そして最後にこう締め括っているんです。

「我が社に関する限り、今後絶対に懸念することは要らない。仕事がなくなっても人を会社から離さず、積極的に仕事を見出してむしろ仕事を与えていきたい。いかなる困難に立つとも最善の努力を尽くすつもりである。ゆえに松下電器に関する限り、心配は全くないのであって、安心して業務に当たってもらいたい」

〈中〉
いや、もう痺(しび)れますよね。

〈上甲〉
敗戦の翌日によくこんなことを社員に向けて熱く語りかけた人がおったなと。

〈中〉
僕が思うのは、この戦争は負けるという予感が幸之助さんの中にものすごく強くあって、終戦の詔勅が出される前から、彼は戦争が終わった後にこの会社をどうすべきかを常に考えていた。それがじっくり発酵しているんです。

〈上甲〉
軍の要請で木製の船や飛行機を造っていましたから、その頃既に人には言わないけど、これはもう負けるなって感じていたのでしょうね。

〈中〉
危機の予兆ですよ。もうありとあらゆる惨事の時、危機の予兆を感じ取り、それが現実に起こった瞬間にドンと提示することが、幸之助さんにとっての経営のダイナミズムかなと。こういう経営者はまずいないですね。

(本記事は『致知』』2020年10月号 特集「人生は常にこれから」より一部を抜粋・編集したものです)

◉『致知』は2020年9月1日、おかげさまで創刊42周年を迎えました。本記事の出典となった対談「眼前の破局は天の啓示であり、天訓である」——松下幸之助に学ぶ 危機の乗り越え方 掲載の10月号、詳細・試し読みはこちら

◇上甲 晃(じょうこう・あきら)
昭和16年大阪府生まれ。40年京都大学卒業と同時に、松下電器産業入社。広報、電子レンジ販売などを担当し、56年松下政経塾に出向。理事・塾頭、常務理事・副塾長を歴任。平成8年松下電器産業を退職、志ネットワーク社を設立。翌年、青年塾を創設。著書多数。近著に『松下幸之助に学んだ人生で大事なこと』(致知出版社)。

◇中 博(なか・ひろし)
昭和20年大阪府生まれ。44年京都大学経済学部卒業後、松下電器産業入社。本社企画室、関西経済連合会へ主任研究員として出向。その後、ビジネス情報誌「THE 21」創刊編集長を経て独立。廣済堂出版代表取締役などを歴任。その間、経営者塾「中塾」設立。著書に『雨が降れば傘をさす』(アチーブメント出版)がある。

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