中国・習近平氏の「頼みの綱」は日本!? 香港デモの果てに見る日本の生き筋(福島香織)

かねてその動向が注目されてきた中国・香港の混乱は未だ収まる気配を見せません。去る8月10日も、民主活動家・周庭(アグネス チョウ)さんが国家安全維持法に違反した疑いで逮捕され、その後保釈されたものの香港情勢には一層の緊張感が漂っています。香港はこれから、どうなっていくのか。そして中国の思惑は何か、日本の進むべき道はいかなるものか――。気鋭の中国ウォッチャーとして積極的な発信を続けるジャーナリストの福島香織さんのお話に、その重大なヒントが読み取れます。
(内容は『致知』2020年2月号掲載当時のものです)

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香港がダメになれば中国もダメになる

〈福島〉
(2019年11月24日、区議会議員選挙での民主派の圧勝などによって)苦しい立場に追い込まれているのが習近平氏です。

四中全会(中国共産党第十九期中央委員会第四回全体会議)や中央政治局会議などの党の重要会議では、失策の続く外交、安全保障、対外宣伝についての検討が徹底的に行われたとの情報が漏れ伝わってきており、習氏への風当たりは相当強くなっているようです。

習氏は外交・国家安全・情報に関わる在外機関の再編成を命じていますが、失策の責任を末端に押しつけて自分の面目を保とうとしているのでしょう。度々御用学者に善後策を提出させてもいるようで、かなり危機感を募らせていることが窺えます。追い詰められた習氏が今後いかなる手を打つかによって、中国の未来は大きく左右されることでしょう。

最悪のシナリオとして考えられるのは、中国が香港の民意を無視して弾圧を強め、完全に中国化してしまうことです。

しかし、もしそうなれば香港の国際金融都市としての機能は失われ、これまで世界中から集まっていたヒト、モノ、カネが潮が引くように去っていくことでしょう。既に危機感を募らせた富裕層がシンガポールやオーストラリア、カナダなどへ移り始めており、中国経済の減速がさらに加速することは明白です。

深圳(シンセン)が香港の代わりになるという意見もありますが、それはあり得ません。なぜなら、深圳にはこれまでの香港のような法治がないからです。

法治のない中国本土では、政府による私有財産の没収もあり得ます。習近平政権になってからは、民営企業への介入も増え、経営の自由度はどんどん狭まっています。これでは国民のモチベーションは下がり、外国人も安心してお金を持って集まってくることができません。

香港が中国化して法治を失えば、これまでのようにヒトも、モノも、カネも集まらなくなり、中国の普通の一地方都市へと成り下がってしまうでしょう。

そのことで一番損をするのは、これまで香港を自由主義経済への窓口にして大きな発展を遂げてきた中国です。近年、世界経済における中国の躍進ぶりは目覚ましく、今後大きな成長が見込まれるユニコーン企業の世界ランキングでも、多数の中国企業が名を連ねていますが、そうした勢いも急速に失われていくでしょう。香港がダメになれば中国もダメになるのです。

日本は自らの価値をもっと認識せよ

この香港の問題に、日本はどう対処すべきでしょうか。

大事なことは、デモを批判的に報じる中国政府の世論誘導に乗ることなく、問題の本質をしっかり見据えて対峙することです。この問題が、今後の国際社会が自由民主主義と全体主義のどちらの社会システムで運営されていくべきかを問う、価値観の戦いであることを認識し、日本の立場を明確にして臨むことが重要です。

これまで世界を主導してきたアメリカの掲げる自由民主主義にも、近年は様々な綻びが生じ、そこへ異なる価値観を持って挑戦してきたのが中国でした。意見の対立や権力争いが繰り返され、物事がなかなか決められない自由民主主義に対して、中国の掲げる全体主義は、トップの指示ですべてが速やかに決まっていく利点があります。

それでも、異なる意見を自由に表明できる自由民主主義社会のほうが断然よいというのが、香港の民意であり、私たち自由民主主義国家に共通する価値観です。

リーダーのアメリカは横暴で、自分勝手ではありますが、共産党の支配する中国にすべてを牛耳られ、その指図に従って生きなければならない世界よりはよっぽどましです。アメリカは、過ちを犯せば内から異論や反省が起こり、自ら行動を変える力を持っていますが、中国ではそれが全く期待できません。

日本は、自らの価値観に従って積極的に香港を応援すべきであり、中国政府に対して香港に象徴される人権問題に真摯に取り組むよう強く求めていかねばなりません。

「日本という国や、日本の天皇に価値があることを、私たちはもっと認識すべきです」

日本人は自らの値打ちをよく理解していないため自覚がありませんが、追い詰められた習近平氏の頼みの綱は、実は日本なのです。

中国は過去にも、天安門事件で国際的に孤立した時に日本から手を差し伸べられて窮地を脱しました。歴史を振り返れば辛亥革命で清朝を打倒した際も、日本は大きな援助を与えました。また、中国になかった西側の概念の多くは日本を経由することによって移植することができました。

日本は中国にとって極めて重要なキー・ファクターであり、アメリカとの対立が深まる中で最も頼りになるのは、ロシアでも韓国でもなく、やはり日本なのです。

いまの中国は、一見アメリカと互角に戦っているようですが、その土台は極めて脆弱です。中国としては、最大の同盟国であるアメリカと太いパイプを持ち、世界三位の経済大国でもある日本とは仲よくしておきたいのが本音でしょう。一時期のように、歴史問題で日本をあまり攻撃しなくなったことからもそれが窺えます。

その一方で中国は、日本の民間人にスパイ容疑をかけて人質に取ったり、尖閣諸島の接続水域や領海へ侵入するなどの挑発行為も平気で繰り返し、飴と鞭を織り交ぜて日本から少しでも大きな実利を得ようと目論んでいます。

 〔中略〕

中国という国は天命を受けた皇帝が支配する国であり、相応しくない人物が皇位に就けば、天帝に滅ぼされるという天命思想をいまも無意識に根底に持っています。現実には何度も王朝が入れ替わった挙げ句に、現在は皇帝不在の共産国家となっています。

そういう中国から見た日本のロイヤルファミリーは、2,700年近くにもわたって天に認められ続けた至高の存在、というわけです。しかも、いま習近平氏が日本に国賓として招かれれば、令和の御代に最初に天皇陛下への謁見がかなえられた国家元首となります。習氏が、その威光を利用して苦境を打開しようと目論んでいることは間違いありません。

日本という国や、日本の天皇にそこまでの価値があることを、私たち日本人はもっと認識すべきなのです。

その上で、中国に対してはもっと交渉力を発揮して日本に有利な条件を引き出すと共に、香港の問題をはじめ、中国の人権問題の是正を強く求めていくことで、日本の存在感を世界に示してほしいと私は願っています。

(本記事は『致知』2020年2月号 連載「意見・判断」より一部を抜粋・再編集したものです)

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◇福島香織(ふくしま・かおり)
昭和42年奈良県生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社に入社。上海復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て、平成21年に退社。以降はフリージャーナリストとして文筆活動や、ラジオ、テレビでのコメンテーターを務める。著書に『習近平の敗北 紅い帝国・中国の危機』(ワニブックス)など多数がある。

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